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障がい者の存在を“消した”石破茂首相。果たして「学び直し」は稼ぐためだけにあるのか?

石破茂首相が所信表明演説で語った「学び直し(リスキニング)」は、あまりにも限定的な使われ方をしていました。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』では、今までのリスキニングのありかたと、今回の石破首相の言及を比較し、これからの日本の世界観が閉じてしまうことについて懸念を示しています。

条件付けたリスキニングに世界観が閉じた所信表明演説

石破茂首相は所信表明演説で前内閣を引き継ぐように「学び直し」(リスキニング)について言及したが、前後の文脈を見ると、以前よりも経済目的の印象が強く、また限定的な使い方が気になる。

「自由に働き方を選択しても不公平にならない職場づくりを目指した個人のリ・スキリングなど人への投資を強化」

「強靱で持続性ある『稼げる日本』の再構築のためには、教育やリ・スキリングなどの人的資源への最大限の投資が不可欠です。人生のあらゆる局面で何度でも必要な学びが得られる体制を整備します」。

障がい者を含めたインクルーシブな生涯学習の構築に向けて活動している身からすれば、政府が語るリスキニングを起点に、誰もが学ぶ生涯学習に組み込むことで、多くの可能性を導くことになると考えていたのだが、今回の演説は少し後戻りしたようで、巷間はどう受け止めたのだろうか。

この文脈では「稼げる日本」のためのリスキニングに限定されてしまいそうである。

リスキニングが所信表明で登場したのは2022年10月3日。

岸田文雄首相は「構造的な賃上げ」の一環として、こう表明した。

「リスキリング、すなわち、成長分野に移動するための学び直しへの支援策の整備や、年功制の職能給から、日本に合った職務給への移行など、企業間、産業間での労働移動円滑化に向けた指針を、来年六月までに取りまとめます」。

その上で「特に、個人のリスキリングに対する公的支援については、人への投資策を、『五年間で一兆円』のパッケージに拡充します」と述べたことで、リスキニング活用の広がりを期待させたのである。

さらに、この所信表明演説には「包摂社会の実現」を目指すと明記し、「新しい資本主義を支える基盤となるのは、老若男女、障害のある方もない方も、全ての人が生きがいを感じられる多様性のある社会です」との前提を示した。

これは21年の所信表明で提示した「新しい資本主義」を受けたもので、この流れから、実現したかどうかは別として、包摂社会という大きなグランドデザインの中で語られたと受け止められている。

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今回、石破首相の演説での、稼ぐための手段としてのリ・スキニングに、障がいのある人の「学び」はどのように位置づけられるであろう。

位置付けるのは無理筋なのだろうか。

最近では、企業の障がい者の法定雇用率が上がる中、積極的に雇用を行う企業と、否応なしに行う企業の二分化が進んでいる。

前者には障がい者のやりがいや働きがいを提供し、「生きがい」までイメージする企業もある。

それらの企業は、障がい者の仕事の在り方、障がい者の企業での存在が、そこで働くすべての人へのメッセージともなり、生産性や各種能力を高めていくことにつながる、という考えがある。

この考えを基本に、企業内で障がい者の「学び」の提供をすることが、すべての従業員の満足度につながる施策も求められている。

今年12月には、私が文科省の障がい者生涯学習支援アドバイザーである役割の一環として、障がい者雇用推進センター(東京都中野区)で企業向けに雇用する障がい者への「学び」についての方法に関するレクチャーが企画されている。

これは前政権で「人への資本」「新しい資本主義」「リスキニング」のキーワードがじわじわと浸透してきたからであり、今回の演説で後戻りしてほしくない、というのが現場からの実感である。

加えて、石破首相の所信表明演説に障がい者の存在はなかったのも気になる。

存在が消された中で、リスキニングを「稼ぐ」のに直結したのも、少々違和感と疎外感を覚えてしまう。

「夏祭り」「笑顔」「悪口を言わない」などのフレーズが飛び出した総裁選での演説を、本欄では宮沢賢治の世界と表現したが、所信表明演説は官僚的な世界観に終始した。

本来、石破首相は虫も動物も夢も人も一緒の究極な賢治ワールド、インクルーシブな物語をイメージできるはずである。

それが、硬直していくのを見るのは何とも忍びない気がする。

※首相官邸のホームページでは、今回の演説から「リ・スキニング」との表記になっている。

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障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長として、ケアとメディアの融合を考える「ケアメディア」の理論と実践を目指す研究者としての視点で、ジャーナリスティックに社会の現象を考察します。

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