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プーチンの狂気。“露を集団攻撃”するNATOを「核ミサイル報復」のターゲットに据える“最凶の皇帝”

これまでウクライナに対して許すことのなかった自国供与の長距離砲によるロシア領内への攻撃を、突如容認した米英仏。これに対してプーチン大統領は核弾頭搭載可能のミサイルをウクライナ中部に向け発射するなど、暴力の応酬がエスカレートしています。識者はこの状況をどのように見ているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、バイデン大統領の方向転換を「自らのレガシーづくり」と批判。さらに来年1月に発足するトランプ新政権がウクライナ戦争を「停戦させた後」に取りうる対応について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:バイデンの最後っ屁がもたらす世界の大混乱

余計なことをしてくれた。バイデンの「最後っ屁」で大混乱に陥る国際社会

トランプ次期大統領は、選挙戦中から「私が大統領に就任したら24時間以内に戦争を終結させる」と宣言していましたが、実際に大統領に返り咲くことになったトランプ次期大統領がどのようにしてそれを実現させようとしているのかについては、当のプーチン大統領を含め、世界各国が関心を持って見ています。

その不確実性を少しでも和らげるためかどうかは分かりませんが、バイデン大統領は対ウクライナで大きな方針転換を行い、これまでロシアを不必要に刺激することが無いようにNOを貫いてきた“長射程の兵器をロシア領内の攻撃に使うこと”というウクライナからの要請に対してYESと答え、それを受けてすでに少なくとも2回、米国供与のATACMSでロシア領内への大規模な直接攻撃が行われています。

また英国もアメリカの方針に従ってシャドーストームの越境使用を認可し、またフランスも態度を一転させ、ウクライナによる長射程ミサイル(射程250キロメートルの巡航ミサイルスカルプ。英国ではこれをシャドーストームと呼んでいる)でのロシア領内攻撃を容認すると発表しました。

これでロシアとNATOの間でのミサイルによる威嚇の応酬が本格化し、ロシアはATACMS攻撃などへの報復として、ウクライナ東部の要衡ドニプロへの攻撃に新型の中距離弾頭ミサイル(IRBM)のオレシニクを用いて威嚇しています。

ちなみにこのオレシニクは、射程が3,500キロから5,500キロと言われており(欧州全域が射程範囲)、1発に複数弾頭を搭載でき、核弾頭も複数搭載できる性能を持ち、今回も最高速度マッハ11を記録しており、NATOの分析官曰く「ほぼ迎撃は不可能」とのことで、ロシアの攻撃が数段階レベルアップしていることを暗示しています。

特に核兵器使用の脅しに並行して、実際に核弾頭を複数搭載可能な弾道ミサイルを実戦に用いたことで、核の脅しが口先だけではないことを示したのではないかと見られています(なにぶん、オレシニクはウクライナ攻撃用にしては射程が長く、あくまでも政治的な目的、つまり脅しとして使ったのではないかと考えられます)。

ロシア政府内の友人曰く「プーチン大統領は本気だ。NATOがロシアを集団で叩こうとしているということがこれで明らかになった。新しいドクトリンの下、これ以上、ロシアの安全保障を脅かすようなことがあれば、それはNATOによるロシアへの攻撃とみなし、NATO各国もロシアの核兵器による報復のターゲットとなる。その引き金をNATOは自ら弾いたのだ」とこれまでにないトーンで話していましたが、同時に「プーチン大統領はトランプ次期大統領が就任するまでは、トランプ次期大統領が繰り返し主張していた24時間以内の解決が何を意味するのかを確かめるために、本格的な攻撃を控えるのではないかと思う」と、ロシアも戦争やむなしというムードからは一歩退いているような印象を受けます。

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「NATOの決断」でウクライナの戦力はアップしたのか

NATO各国がウクライナにロシア領内への攻撃を容認したことで一気にウクライナが戦力アップしたようなイメージを持ちがちですし、そう報じられがちですが、実際にはどうなのでしょうか?

NATOから供与された長射程の兵器については、ATACMSはストックが底をつきつつあり、供与元の米陸軍も、次世代兵器が完成し配備されるまでは、国家安全保障上、ATACMSをこれ以上シェアできないという事情がありますし、英国のストームシャドーやフランスのスカルプも、追加供与が発表されていますが、そのタイミングが即時なのか、それともしばらくたってからなのかは明らかにされておらず、トランプ新政権ができるまでの2か月弱の間にウクライナの戦況を改善できるかどうかは不透明です。

現在、8月6日のクルスク州への越境攻撃後、ウクライナの劣勢は鮮明になってきており、肝心のクルスク州も4割から5割がすでにロシア軍に奪還され、それと並行して、ロシア軍の別働部隊によってウクライナ東部の領土を奪われているという事態です。そこに北朝鮮軍1万1,000人が投入され、またイエメンのフーシー派の戦闘員も参加しているという情報もあり、まさに親ロシア勢力を結集して、少しでも戦況をロシアにとって優位にしようと躍起になっているようです。

ここまで見て分かるように、トランプ次期大統領の“24時間宣言”を受け、両陣営ともに「トランプ氏が主導するだろう停戦交渉を少しでも優位に進めるために、今こそ力を注ぎ込むべき」というメンタリティーになっているようで、すでに就任前から紛争調停のプロセスに多大な影響を与えています(まさに1のコーナーで話題にしているHard-Bargaining作戦を見ることが出来ます)。

ただ正直その両陣営の“焦り”(トランプ氏は何をするのか予想がつかないという認識)が戦争を激化させていることも事実で、何かしらの偶発的な衝突や事件がどこかで起こった場合には、トランプ氏の再登場を待つことなく、戦争のエスカレーションが起きる懸念も高まります。

バイデン大統領を含め、皆が「トランプ氏が再登場するまでに…」と焦って思い切った行動を取りだすと、不用意に戦争がエスカレートし、ロシアの一部ともいえるベラルーシが軍事的に介入し、ロシア以上に核兵器の使用をちらつかせ、ロシア国内では強硬派たちが「ウクライナとその仲間たちを止め、ロシアの国家安全保障を保証するためには核兵器の使用もやむを得ない」とプーチン大統領に迫り、NATO側ではウクライナの戦後復興において主導権を握りたいと画策する英仏と、ロシアに対する過剰な刺激は自国の直接的な脅威に発展すると西欧諸国に自制を促しつつ、自衛策を実行に移し始める中東欧諸国とバルト三国、そしてフィンランドとスウェーデン、ウクライナへの支援は義務と感じつつも、国内の不満の高まりに直面して影響力を失ったショルツ首相(ドイツ)、西欧諸国で広がる極右(自国ファースト)の影響力の高まり…。

どう見ても自らのレガシーづくりとしか思えないバイデン大統領の方針転換は、すでにさまざまなところでハレーションを起こし、デリケートな安定を崩し始めているように思えます。

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トランプの影響力なら何とかなるのではという淡い望み

イスラエルとヒズボラの停戦合意の仲介については、実効性は見通せず、ネタニエフ首相は「合意には加わるが、ヒズボラが約束をたがえたら、すぐにイスラエル軍は“自衛のために”攻撃を再開する」とプレッシャーをかけていますし、レバノンのミーカーティー首相も「イスラエルが約束を守ることが停戦の前提だ。かつてのように約束が破られたら、私にはヒズボラを止めることはできない」とこちらもイスラエルをけん制する発言をしており、見事に根深い相互不信の姿が見えてきます。

今回の合意がいかにデリケートで危険なものか見えてきたでしょうか?

まず停戦合意の当事者はイスラエル政府とレバノン政府であり、ヒズボラは直接的なsignerに入っていません。ガザ、パレスチナにおけるハマスとは違い、ヒズボラはレバノン政府の中枢に浸透していることから政治的な“正統性”を主張することが可能と言えばそうなのでうすが、ヒズボラが今回、ミーカーティー首相の顔を立てて一旦矛を収めていますが、直接的な国際合意上の当事者ではないため、見方によってはこの合意の実効性を保証することにはなっていないことになります。

それゆえでしょうか。今回の合意を受けて戦闘が一時停止した時、ヒズボラは今回の合意をヒズボラの勝利と呼び、レバノン国民はミーカーティー首相ではなく、ヒズボラを称賛しています。

「60日間の安寧をヒズボラが与えてくれたのだ」とベイルートの市内で祝砲を挙げて喜んでいた“市民”は叫び、女性たちは涙を流して踊って喜んでいましたが、口々にヒズボラへの謝辞と、イスラエルへの不信感を口にしていたのはとても印象的でした。

「トランプ氏の就任までの時間稼ぎ」というのが、ネタニエフ首相にとっては今回の停戦の本当の理由かと思いますが、今回の合意も先述のように、ヒズボラとの合意ではなく、レバノン政府との合意で、本当にヒズボラにこの合意を履行させるためには、ミーカーティー首相の影響力は及ばず、実際にはイランの指示が必要になりますが、そのイランも対イスラエルの戦いには、ヒズボラの存在とその戦力が必須なため、なかなかヒズボラに矛をおさめさせるようなことはしないだろうと思われますし、今回、アメリカが国際監視メカニズムに加わっていることから、対アメリカの交渉カードとして、ヒズボラへの影響力の行使の可否を使おうとすると思われるため、60日というタイムリミットは、かなりタイトな気がします。

それはネタニエフ首相も重々承知しており、今回の停戦の目的は「ヒズボラを一旦戦闘から引き離すことで、ガザにおけるハマスの孤立を強めること」と、ロシア・ウクライナ双方のリーダーの思惑にも合致しますが、「トランプ氏を説得してガザの停戦や戦後の介入について有利な条件を引き出したい」というものだと思われます。

さらにはネタニエフ政権の存続を左右する極右勢力が主張する【ヨルダン川西岸地区のイスラエルへの併合】という無理難題も、トランプ氏の影響力なら何とかなるのではないかという淡い望みも見え隠れします。

ゆえに一部報道で希望的観測として挙げられた「これがガザ問題の解決のヒントになればいい」という見解は、非常に残念ですが、成り立たないことが分かるかと思います。

それは、前政権時にも起きたように、トランプ氏はバイデン氏が退陣前に駆け込みで実現しようとした地域の混乱収拾への足掛かりを、誠意をもって引き継ぐことはないという信念にも似た思いが背後にあるからでしょう。

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米国に求められる一貫した戦略と強力な指導力の継続的な発揮

もしネタニエフ首相が政治的な延命を望むのであれば、恐らく彼は戦争を終結させることはなく、ガザ、レバノン、イランなどに順繰りに圧力をかけ、危機を演出する動きに出るように思われます。問題はそれをトランプ大統領が支持するかどうかですが、もしトランプ大統領とアメリカ政府が、本気で「戦争を終わらせ、混乱を終息(収束)させる」のであれば、アメリカは一貫した戦略と強力な指導力を継続的に発揮していかなくてはなりません。

それは中東問題の混乱のみならず、ロシア・ウクライナの終わらない戦争、そして作り上げられた米中の衝突と台湾危機への対応にも当てはまる【包括的な戦略(grand comprehensive Vision and strategy)】だと考えます。

バイデン大統領が退任前に駆け足でレガシーづくりに勤しむあまり、これまで何とか保ってきたデリケートな和平と安定のバランスが崩れ始めています。

残念ながら誰もそれを止めることが出来ず、“同盟国”は挙ってバイデン大統領の最後っ屁に追随し、ロシアに対して危ない賭けを仕掛け、中東における張りぼての見せかけの停戦合意を称賛し、口先ではイスラエルのガザでの所業を非難しつつも、結局は黙認して、解決を先延ばしにしています。

スーダンでは人道危機が深刻化し、30年にわたる内戦が粛々と進められ、エジプト・スーダン・エチオピアを巻き込んだGrand Ethiopian Renaissance Damを巡る紛争が静かに激化していますし、目をコーカサスに向ければアゼルバイジャンとアルメニアを舞台にしたトルコとロシア、そしてアメリカの小競り合いが表面化していますし、スタン系の国々はロシアとの関係をデリケートなバランスで見直しつつ、自国の安全を確保する戦略を、中国を上手に引き込みながら進めています。

ロシアとウクライナの終らない戦争は周辺国を生存の脅威に曝し、各国に自衛のための軍備拡張を促す結果に繋がり、結果として地域の不安定化の要因と認識され始めています。

「時間稼ぎ」で体力を温存する中国

そして相互に内政不干渉の原則を貫くASEANと中国も、微妙なバランスを保ちながらアジア太平洋地域での繁栄に向けて協働していますが、そこには中国以外のバランサーを欲する勢力と、アメリカと欧州は避けたいと強く願う勢力、そして中国を中核に据えたアジア勢力圏を作るべきと主張する勢力が拮抗する状況が生まれ、その勢力間のデリケートなバランスで何とか安定を保つアジアの現状が存在します。

中国は、アメリカ政府の対応の不確実性に備えるため、今、一気にアジアシフトを強めており、敵対よりもパートナーシップを重視する方針を取っているように見えます。台湾にまつわる事項はすべて“国内問題”として扱うため、アジア諸国は内政不干渉の方針から口出ししませんが、その条件には「地域における安全保障上の危機を引き起こすことが無いようにする」というお約束が含まれているようです。

中国政府は今、アジア外の紛争に対しては距離を置き、仲介・調停の用意があることは示しつつも、火の粉を被らないように注意し、自国の経済の立て直しに注力し、時間稼ぎをして体力を温存しているように思われます。

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トランプは世界の安定に寄与するつもりはあるのか

来年1月にアメリカにおいてトランプ新政権が誕生しますが、果たしてトランプ氏のアメリカに包括的かつ一貫した戦略と絶対的な影響力を世界に及ぼし、安定に寄与するつもりがあるのか?

「私が大統領に就任したら、24時間以内にウクライナの戦争を終わらせる」

「中東の安定も私がもたらすことになるだろう」

その具体的な内容は分かりませんが、自信満々にアピールしたトランプ氏。

ウクライナについては、どのような形であったとしても停戦に漕ぎつけようとするのでしょうが、いろいろな情報をもとに分析すると、その後始末にアメリカのプレゼンスはなく(『アメリカは軍隊・部隊をウクライナに派遣することは絶対にない』そうです)、安全保障を含む軍事的なプレゼンスは欧州各国に押し付け(欧州各国の中から任意で駐留軍を組織するらしい)、経済的な復興は日本をはじめとする同盟国からの資金・技術の提供を命じることになる(すでに日本主催で復興会議があったような)のだと思われます。

中東においても、自身は直接的な関心がないとのことなので、停戦と和平を実現したとアピールすることが終わったら、恐らくサウジアラビア王国などに働きかけて、中東の安定はよろしく、といったように押し付けることになるのでしょう。

それぞれの地域のリーダー格に調整役を託し、全体のオーケストレーションをアメリカがするというような体制ならばうまく行くのかもしれませんが、そのためには、繰り返し触れているように【一貫した戦略と覚悟、そしてコミットメントが必要】ですが、実際にはどうでしょうか?

個人的には大きな期待と希望を抱くとともに、諦めの感情も抱きながら、淡々とお仕事に励みたいと考えております。

しかし、まあ、バイデン大統領、最後に余計なことをしてくれたなあ…。

以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年11月29日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録ください)

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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