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火に油を注ぐ“トランプへの置き土産”。バイデン政権が「ウクライナへの核兵器移転を検討」という驚愕の情報

来年1月20日に迫ったトランプ氏の米大統領再就任。「すべてをアメリカ第一に」と言って憚らない同氏の本格始動を前に、国際社会はさまざまな動きを見せています。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂さんが、バイデン政権の対ロ・対中政策の「総仕上げ」について詳しく解説。そこに「大きな相違点」が存在することを指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:バイデン外交の仕上げが進むなかで顕著となる対ロ、対中の違い

トランプという「変数」の本格稼働前に。猛スピードでアジャストを始める国際社会

ドナルド・トランプの再登板に向けて、世界は猛スピードでアジャストを始めている。今週もその動きが各地で目立った。

イスラエルとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘をめぐり、イスラエル・レバノン両政府がアメリカの停戦案を受け入れたのは象徴的だ。

トランプという「変数」が本格的に稼働する前に視界の届く範囲で物事を決めておこうという動機が見え隠れする。

同じようにウクライナからも盛んに和平に向けた発信がされるようになっている。

そうした世界を突き動かす要素の中でも見逃せないのは、大統領選挙後にもくすぶり続ける民主・共和両党の対立だ。

両党間、就中、トランプとバイデン政権の埋めがたい溝の一つである対外政策だ。

ロシア・ウクライナ戦争をめぐる対応は典型的だ。ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領の焦りは、大統領選挙の最中から報じられてきた。

来年1月、トランプ政権が動き出し、公約通り「早期の停戦」を実現しようとすれば、ウクライナ側が大幅な譲歩を迫られる可能性も高い。

民主党と欧州(EU)がこれを強く警戒してきたことは言うまでもない。そのためバイデン政権は、トランプ政権がスタートした後も現在の政策が軌道修正できないよう、さまざまな仕掛け作りに躍起だ。

従来は慎重だったアメリカ製兵器によるロシア領内への攻撃にゴーサインを出したのもその一つで、EUもそれに倣う動きを見せている。

そんななか驚愕の情報も飛び交った。米紙『ニューヨーク・タイムズ』が複数の西側当局者の話として、バイデン政権が「ウクライナへの核兵器移転」を考えているというニュースだった。

ソ連崩壊時、米ソが協力してウクライナに残されたソ連の核兵器を管理し、その一部がアメリカに移動させられたのだが、それをいまウクライナに返還しようという計画が出ているのだ。

核兵器の安全管理が当初の目的というのであれば、現在の返還論議は最も不適切な時期にウクライナへの返還ということになる。ロシアが強く反発するのも無理はない。

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米中間に機能している最低限の「ガードレール」の作用

米国内のせめぎ合いは、思わぬ形でこうした緊張を高めているのだが、バイデン政権にとってもう一つの懸案である対中国、台湾海峡はどうなっているのだろうか。

結論から言えば、こちらは「凪」だ。

相変わらず台湾に対する武器の売却は積極的だが、台湾の頼清徳総統によるハワイ立ち寄りにもバイデン政権の対応は抑制的だ。

また習近平政権との関係では、「スモールヤード、ハイフェンス」政策は相変わらずだが、米中間がチャネルを活かして問題を解決するという「ガードレール」の作用では、むしろ進展が見られた。

前者の問題は、半導体だ。中国企業に対する新たな輸出規制の準備をしていると米『ブルームバーグ』などが報じた。しかし、その見出しは、「米政府が対中半導体規制の強化準備、従来ほど踏み込まず─関係者」(11月28日)というもので、逆にトーンダウンを印象付けた。

中国側も外交部と商務部の報道官がそれぞれ、「アメリカが国家安全保障の概念を拡大解釈して、輸出規制を濫用することに反対する」という従来からの主張を繰り返しただけであった。

その一方、大きな注目を集めたのは、アメリカと中国が互いにスパイ罪などで服役している受刑者を釈放するという動きを見せたことだ。

米中ともに、受刑者は無実の罪で拘束されていたと主張していた。

このニュースはアメリカをはじめ各国の報道機関が大きく取り上げた。

釈放されたアメリカ国籍の受刑者は3人。マーク・スワイダン氏、カイ・リー氏、ジョン・レオン氏だ。

写真をみれば明らかなように、3人のうち2人は中国系だ。香港生まれのスワイダン氏(79歳)は、1983年にアメリカに移住してレストラン経営をしていたが、その後FBIの依頼を受け、中国に関する情報収集を行い、去年5月、スパイ容疑で終身刑の判決を受けた。

ニューヨーク出身のリー氏は、中国の秘密をアメリカ当局に渡したとして2016年に逮捕された。

レオン氏は薬物の違法取引に関わったとして逮捕。死刑判決を受けた。

受刑者釈放は米中の政治的な判断で、その合意は習近平国家主席とバイデン大統領が11月に行ったペルーで話し合いの際に結ばれたという。

つまり米中間には最低限のガードレールが機能しているのだ。

アメリカで釈放された中国人受刑者に関する情報は少ない。具体的に名前が挙がっているのは2人。スパイ罪などに問われた中国情報機関の職員・徐延軍と元イリノイ工科大学の学生の季朝軍だ。徐氏はFBIの囮捜査で引っかかった人物とされている。

アメリカ側が釈放した中国人は、米ABCテレビが「計3人」と報じたが、香港TVBは複数人としている。

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中国との人的往来に設けていた壁を一つ取り払ったバイデン政権

この動きと連動したものか否かは不明だが、受刑者釈放と並行してアメリカ政府は中国本土への旅行者に対する注意勧告を、従来の3級から2級に引き下げ(全部で4段階)た。

また中国で「不当に拘束される」というリスク表示も撤回した。

少なくとも中国との人的往来に設けていた壁を一つ取っ払ったということだ。

政権末期になって中国との関係を調整するのはアメリカの対外政策にありがちなことだが、それは対ロシアでは見られない。

むしろ前述したような火に油を注ぐようなトランプ政権への置き土産だ。

ウクライナと台湾。本質的に意味の異なる2つの問題は、アメリカの対外政策において違った色彩を帯び始めたようだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年12月1日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: ArChe1993 / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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