【中島聡×古田貴之 特別対談Vo.1】夢の「人型ロボット」実現は目前?実は海外よりスゴい日本のAIロボット技術力!

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マイクロソフトでWindows95やインターネットエクスプローラーの開発を指揮した伝説のプログラマーにして昨今は投資家としても知られるメルマガ「週刊 Life is beautiful」の著者・中島聡さんと、千葉工業大学にて未来ロボット技術研究センター所長として日本のロボット開発の最前線で活躍している古田貴之さんの特別対談が実現しました。本対談では、AIとロボットをつなぐための課題、そして「人型ロボットは開発されるのか?」など、10年先までを見通す内容となっています。お二人に見える「未来の日本と世界のビジョン」とは?
※本記事は、実際の対談から一部抜粋して編集したものです。この対談は近日公開のVol.2に続きます。

古田貴之(ふるた たかゆき)さんプロフィール
千葉工業大学・未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長。独立行政法人科学技術振興機構でロボット開発グループリーダーとしてヒューマノイドロボットの開発に従事。2003年6月にfuRoの設立とともに所長に就任。福島第一原発に投入された国産ロボットの開発など、多くの国家プロジェクトを手掛ける

【中島聡 × 古田貴之】ここまで来たか!AIロボット最前線。日本の技術力は最強

中島聡(以下、中島):古田先生とお話がしたいと思ったきっかけは、4足ロボットをAIでトレーニングしているのを見せているホリエモンさんとのビデオがあったじゃないですか。「これは素晴らしいな」って感動して、自分でもロボットが欲しいと思ったんですよ。個人的な希望として「あのロボットを私が入手したら、どうやってああいう遊びができるかな」っていうのを知りたかったんです。しかもだいぶ値段も安くなってきたじゃないですか。今は20~30万円ぐらいですか?

古田貴之(以下、古田):そうですね、30~40万円です。日本で代理店を通すと50万円ぐらいですかね。

中島:そのくらいなら、こだわりのあるエンジニアだったら、手に入れて遊べる時代になったってことじゃないですか。アップルの Vision Proと同じぐらいの価格なので、もうすごいことが起こってる状況ですね

あとはソフトウェアの環境はどうなっているのか?シミュレーターやAIが使えるのかとかということも知りたかったんです。そういうものが普通のエンジニアにとっても手に入りやすいものかはわからないけど。40年ぐらい前の話ですけど、私が高校生ぐらいの時、パソコンを初めて手に入れてアセンブラでプログラムを書いて、自分でゲームが作れるっていうことに、本当に感動したんですよ。

古田:中島さん!同じですね!僕も最初はポケットコンピューターから始めて、最後はX68000で68000系のアセンブラで遊んできた男です。

中島:そうですか!私はインテルの80系だったんですけど、その時パソコンにすごいポテンシャルを感じたのと同じようなことが、30~40年経ってロボットの世界で実現してるわけじゃないですか。

その時に僕が手に入れたマイコンキットとアセンブラーとの組み合わせを、今度は4足ロボットとAIのシミュレーション環境で、一般の人が手に入れられるようになる。今は自分でロボットをコントロールできる時代が来つつあるんですよね。それなら、これから30年後に何が起こるかって想像すると、とんでもない世の中になる気がするんですよ。

そういうワクワク感を、僕は今ものすごく感じているので、それを色々な人に伝えたいんです。じゃあどういうふうに個々の人たちが行動すればいいのか?別にそれは趣味でもいいし、仕事でもいいし、学校で何かを勉強するでもいいし、いろいろとあると思うんですよ。でも、これだけ世界が変わろうとしてるなかで「こういうチャンスがありますよ」「こんなことができますよ」っていうのを、みんなにわかりやすく伝えたいんです。

メルマガを通したり、YouTubeを通したりでもいい。そんななかで一緒にチームを組んで何かできればいいし、会社が新しく生まれてもいいし。あと日本という国がどう戦っていけばいいのか、みたいな大きな話もしたいですね。

「日本は元気がない」ってみんなで日本のことを批判していても、どこにも行けないでしょ。こんなfuRo (Future Robotics Technology Center)みたいな面白いことをしている場所があるのだったら、そこに優秀な人が集まってもいいし、それを真似した組織ができてもいいし、もしくはそこから新しく営利企業が誕生してもいい。いろいろな形があると思うんです。「日本ダメダメ」って言っているんじゃなくて、もっと楽しくやろうよって盛り上げたいんですよね。

“大谷級”だと思う人間ばかりを集めたプロ研究員集団

古田:そんなに言っていただいてありがたいです。この未来ロボット技術研究センターという僕の研究所には、実は学生が一人もいないんですよ。僕が大谷翔平級だと思う人間ばかりを集めてきた、プロの研究員たちの集団なんですね。

いくつかの実績をお話しさせていただくと、例えばGoogleがやっているデシメータチャレンジを2連覇してるんですね。GoogleデシメータチャレンジはGPS/GNSSの制度を競う大会で「太郎」という我々の研究員の名前で2連覇しています。それとA’Design Awardって言って、世界で一番影響力の強いデザインアワードで、ゴールドの上のプラチナを、日本で初めて取っています。さらに、去年行われた一番最近の世界で最大のロボットの国際会議で、4脚ロボットの自動操縦で世界大会の1位を取っています。

このようにいくつかの日本一、世界一の技術があるんですが、これらがどんな技術かということ説明させていただいたのちに、僕の大きなテーマである、これらを全部プラットフォーム化してAIもモビリティもロボティクスも、その専門家から技術を奪い取って諦めさせるという話もしたいと思います。

たとえば、昔TK-80だった頃は、コンピューティングって相当マニアックなもんでしたよね。

中島:ええ。 

古田:それからApple LisaとかATARIとかいろいろなコンピューターが出て来て、PC-8000に至って、今やコンピューターはみんなが普通にノートPCって使うようになってますよね。

昔は一品一品コンピューターを作っていたのが、だんだん部品化されてモジュール化されて、どんどんみんなの元に行った。ただマニアが作るものだったところから、みんながアプリケーションを作る、みんながサービスを作る、みんながそれでビジネスモデルを作るっていう時代になっていますよね。これからはロボットがそういうところに行くべきだと思っています。

さらに私の仕事としては技術開発もあります。でも、今は現在は存在しない技術にしか取り組みません。その技術をライセンシングしてイニシャル・フィーとランニング・フィーをもらって、ちゃんと事業化もしていて、僕も会社を2つ持っています。僕は大学の経営者でもあるんですが、千葉工業大学もかつては赤字だったんです。でも、今やキャッシュフロー700億円あります。

中島:ほう。

古田:さらに受験者数も急増しています。日本全国の全ての国公私立大学の中で受験志願者数2位なんです。たった1000人の募集に14万人(延べ人数)の応募があります。だから僕は、本当に新たな技術を作って世の中に出すっていうことに専念しているんですね。いくつか代表的な技術をお見せしてもいいですか?

中島:いいですよ!もちろん、見たいです!

 

中島聡氏

中島聡氏

古田:例えばですね。これはドローンなんですが、ドローンのGPSは普通は3メートル5メートルは平気でズレるし、方向もGPSだけでは計算できないんです。でも我々のGPSを搭載したドローンでは、精度は1センチとか2センチ以下、方向も計算できて1度以下しかズレません。しかも本体の姿勢センサーをまったく使っていないんです。GPSだけで情報をとっています。

これは我々のGNSSです。GPSの精度を競う大会で8年前に優勝した技術です。リアルタイムでこれだけ正確な地図と自分の姿勢が出てくる。これは某アメリカの超有名なGAFAMの企業に「一緒に共同研究してくれ」って言われたんですが、国に止められました。「心臓を打ち抜くドローンが作れるからやめてくれ」と(笑)。これもfuRo が開発した技術のひとつです。

中島:空にあるGPSの電波を使って、精度のいいのを取っているだけなんですか?

古田:そうなんです。GPSを出す側は何も特殊なことをしていないんですよ。

中島:とんでもない技術じゃないですか!

古田:そうなんですよ。だから世界一と言われているのは本当なんですよ。GNSSで一応世界一の称号を得ています。

中島:ドローンにアンテナを積んでいるってことですか?

古田:そうです。ですから我々の技術を使うと、例えばスマートフォンの位置は数10センチメートルの精度にできます。スマホのGoogleマップなどのナビゲーションは、めっちゃズレるじゃないですか。あれを数10センチ以下の精度にしようというチャレンジで全世界、GAFAMをはじめ何百も応募してくる世界大会で、1位で居続けているんです。

例えばロボットは、技術がすごく多岐に渡るんですよ。それこそソフトウェアのAIやナビゲーションに始まり、AIセンシングあるいはネットワークのシステムに始まり、果てはモーター作りまで、メカ作りから理論作りから全てを一気通貫してやっています。

だから我々の技術って、例えば搭乗型ロボットのILY-AはiF Design Award のProfessional Concept部門においてiF Design Award 2016を取っています。先ほど言ったカングーロというロボットも、A’Design Awardを取っているし、本当に技術からモノづくりまで、いろいろとやってるんです。

今日話したいことのひとつは、僕の根底にある”モノづくり”って何かってことなんです。普通にモノづくりっていうと、AI屋さんはソフトウェアだけ、メカ屋さんはメカだけ、デザイナーはデザインだけ、ビジネスモデルを考える人はサービスだけ、映像を作る人は映像だけと、分化しているじゃないですか。でも、これは僕にとっては”モノづくり”じゃないんですよ。

古田貴之氏

古田貴之氏

僕にとっては、最初からグランドデザインに至るまで、全部をやって初めてモノづくりなんです。技術というのは、ただのニンジン、ダイコンといった野菜なんです。ツールなんですね。材料なんです。

この技術をどう組み合わせてモノにして、いかに世の中に普及させて、グランドデザインするかというところまで全部やらないと、僕にとっては意味がない。

それで、我々は、一体何をやってるかっていうと、ガチな製品開発をめちゃたくさんやっているんです。例えば新幹線のホームドアのセンサーは、日本信号さんが売っていますが、これも我々の共同開発品です。ペッパーとかいろんなロボットに乗っかってる小型のライダーも我々の開発品。あとは原発ロボットも全部我々が開発してきました。福島の原発の中の映像も全部我々が撮ってきたんです。

他にも車から家電製品まで、我々はいろいろと製品化してます。例えばパナソニックが今売っている掃除機ロボットも、我々の研究所のマークが刻印されてます。未来のまだ生まれてない技術からマスプロダクトまで、全部やって私は初めてモノづくりだと思っているんです。

実はロボット技術やモノづくりは「合コン」に似ている

中島:いや、素晴らしい。

古田:私がこだわってることを、合コンに例えるとわかりやすいかもしれません。実はロボット技術や、モノづくりって合コンに似ているんです

例えば合コンって、男性でも女性でも中性でも何でもいいんですが、最初に「お!」って言って、見た目でキャッチされます。これが例えばロボットの場合、スタイリングをデザインすることかもしれない。

その後にロボットの場合だと新技術、乗り物だったら乗ってみて、乗り心地がいいな、音がいいな、何々がいいなという技術を、他の五感で感じる。人間だって「声がいいな」「雰囲気がいいな」って、視覚以外の五感を感じる。この辺りは感性なんです。その次に初めて合理的に頭が働いて「こんな技術があった」「ネットに繋がってあんなことして、こんなことできるんだ、ふーん」と頭を使う。

人間も「この子はどこの生まれかな」「何の職業してるのかな」「どういうこと考えてるのかな」と、その人のバックグランドとか、いろんな会話をしてその人のことを合理的に理解しようとする。そこで初めて、こんな子と付き合うと、こんな未来があると空想する。技術も「こんな未来の技術がある」「こんな未来像があって」って想像する。そして、ウェディングベル。つまり数多ある技術は、ワクワクさせてやっぱり恋に落とさないといけない。

だから僕らはですね、全ての技術でガチに映像を作るんです。これはグランドデザインを見せるためにしっかりした映像を作るんです。技術者はただ技術を語るだけで、世の中にインストールしないことが多い。僕に言わせれば技術はナマ物なんですよ。

例えば我々が使っていたPC-8000などの何十年も前の、当時の最新パソコンも、今はローテクです。全ての技術はナマ物で、今の最新技術も10年後にはローテクになる運命なんです。だから僕らは、寿司や刺身と同じように、新鮮なうちにそれを世の中に出して、フィードバックを受けて良くする。常に新しい技術、新しい素材を開発しながら、ちゃんと新鮮なうちに出さないといけない。

この後、AIを使った最新技術、仮想空間でAIを育てる最新の技術、さらに乗り物すらプラットフォーム化しようとしているとか、ハードウェアからソフトウェアまでのプラットフォームとか、これからの技術について中島さんとがっちり話をさせていただきたいと思います。

あとこれはインターネットに出てる映像ですが、ボストン・ダイナミクス社など、いろんなロボットの映像がありますよね。

中島:ええ。

古田:細かくは喋りませんが、皆さん一般の方は、ハイテク詐欺に注意しなきゃいけない。世の中に流れているロボットの映像は、合成だったり編集だったりするんです。実は目の前ではまともに動かない。みんな騙されるんです。だから技術はことほど左様に映像で騙されやすいんで、何が本当で何が嘘かというのは、ちゃんと皆さん見極めてほしいですね。

中島さんは4脚のロボットの技術だと思っているかと思いますが、これは違うんです。4脚ロボットが動いてる技術は氷山の一角で、大きな技術体系の一部なんです。普通のロボットはみんな一個一個の部分で縦割りでしかやっていないんですが、僕は全てをやりながら、狭間の技術もやっているんです。

例えば、少し前に仮想空間やサイバー・フィジカルって言葉が流行りましたよね。日本ではバーチャル・シビアとかバーチャル・ナイキとかがありました。あれも今や「バーチャル作ったのにどうするんだよ、サイバーフィジカルだよ」とか言っていますが、サイバーとフィジカルって全く違うものだから繋がらないんですよ。

この世の中の全ての技術はノリでくっつけても付かない。特に仮想空間と現実空間なんて違う世界だとまったく繋がらない。そういう繋げる部分も含めて、ちゃんと全部で仕立てようというのが僕が考えている今はない学問で、今はない技術を作ろうという体系なんです。

中国よりもアメリカよりも「日本」の方が実はスゴイ!

中島:なるほど、もっと話を聞きたいんですけど、僕が興味があるのは、やっぱり具体性のある部分で、fuRo のようにこんなすごいことをしているところが日本にあるわけじゃないですか。でも、ネットでは「アメリカすごい」とか「中国すごい」とか「日本ダメだ」とかっていう声ばっかり。でも日本にはいい技術者もいるし、こんな面白いこともしているところがあるんだということを伝えたいですね。

ところで、ビジネスモデルはどうしてるんですか。そもそも千葉工業大学っていうのは非営利団体なんですか?

古田:そうです。千葉工業大学は学校法人で非営利団体なので、実はスタートアップを作って運営しています。

千葉工業大学の技術を技術移転してライセンシングする「未来ロボット株式会社」っていう会社を作りました。そこから、いくつかの大手のメーカーとイニシャル・フィーとランニング・フィーの契約を結んでいます。普通にやっていたら700億円ものキャッシュフローは生まれないですよね。

中島:そうですね。じゃあ、その営利企業がちゃんと利益を上げて、それが親の法人に対して配当みたいなのを払ってるという感じで、キャッシュフローが生まれてると。

古田:そういうことです。つまり全てのライセンスは特許に紐付くわけですよね。ただ私が開発しても、申請者が千葉工大なんで、持ち主は千葉工大。だから独占実施権をもらって、それをライセンシングして、そのライセンスフィーをちゃんと千葉工大に契約に基づいた料率で戻す。そういう役割ですね。

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中島:いや、素晴らしい!もっともっと大きくしたいですよね、そういう動きを。

古田:そうなんですよ。あと、中島さん、僕は中国とかアメリカとか、外国の技術がすごいと思ったことは、0.1秒もないですよ。

中島:(笑)

古田:僕を驚かしてくれる技術をもっと見せてくれればいいのに…。僕はすごいと思わせたことはあるけど、すごいと思ったことはないんですね。そんなすごい奴がいるんだったら、うちの研究所が高額で雇いますよ。でも、ロボットの世界にはいい人がいないんですよねー。

中島:僕もこういう話は大好きなので、本当は僕自身が関わりたいぐらいです。僕自身がエンジニアとしてガリガリと働く時代は終わったので、サポートする立場として、別に投資家でもいいし、アドバイザーでもいいし、何でもいいんですけど、関わりたいですよね。

古田:ありがとうございます。心強い!

中島:やっぱりどう考えても、ロボットが次の時代だと思うんですよ。

古田:そうです。この特別対談は、近日公開のVol.2につづきます。ご期待ください)


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