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「戦う準備はできている」中国の駐米大使館がSNSに“ケンカ腰”で発した米トランプ関税への回答

大統領に返り咲くや、遠慮会釈なく各国に関税戦争を仕掛けるトランプ氏。その矢面に立たされている中国はといえば、アメリカに対して厳しい言葉で自らの姿勢を表明しています。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、王毅外相の発言や駐米中国大使館が発したメッセージの意味するところを考察。さらに中国がトランプ2.0の関税攻勢に冷静に対処できている理由を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:対トランプで「ディールには応じない」姿勢を貫く中国の勝算

勝算はあるのか。対トランプで「ディールには応じない」姿勢を貫く中国

中国に(関税という)圧力をかけ続けるなら、われわれは徹底して抵抗する──。

北京で開会された全国人民代表大会(全人代)に合わせた内外記者との会見に臨んだ王毅外相は、第2次トランプ政権(2.0)との関係を問われてこう断じた。「中国を抑圧しつつ良好な関係を発展させられるという幻想を抱いてはならない」とも述べた。

ケンカ腰にも聞こえる中国の反応だが、もはや驚きはない。米中対立が急速に悪化すると予測する声も聞こえてこなかった。

理由は2つある。

1つは、中国のこうした反発には既視感があり、予定調和な印象を拭えないからだ。

実際、王毅自身も2月14日のミュンヘン安全保障会議で、「アメリカがさらに圧力をかけるなら、われわれも最後までつきあう」と発言したばかりだ。

2つ目の理由は後に詳述するが、中国は「対決」を前面に打ち出しながらも、一方で「話し合いによって妥協点を探る」呼び掛けも、常に発信し続けているからだ。

欧米メディアが「聞く耳をもち、話し合いには応じる姿勢」(BBC)、「慎重な姿勢で臨んでいる」(米ブルームバーグ)と中国を評したのは、こうした理由からだ。

その上で中国の「最後までつきあう」の意味を考えてみたいのだが、それはどの程度の対立を想定しているのか。

中国の駐アメリカ大使館がSNSで発出したメッセージは、王毅発言より、さらに踏み込んだ。タイトルは「トランプ関税への回答」だ。

関税戦争、貿易戦争、また別のあらゆるタイプの戦争にも中国は最後まで戦う準備はできている。

「腹を括った」と意訳できる。

もちろん、「腹を括った」からといって現状の「冷戦」を直ちに「熱戦」に変えてもかまわない、という意味ではない。

中国のこれまでの主張をまとめてみれば、

  1. アメリカの覇権に挑戦するつもりもなければ興味もない
  2. 但し、競争から下りることはないし、もし中国の発展という正当な権利を侵害するのならば受けて立つ
  3. 対立のデメリットに目を向け、中米は協力というウインウインのメリットを重視すべきだ

という3点に集約できるだろう。

3.の主張の具体的な例は、関税である。

中国からの輸入品に関税を上乗せしても、対中貿易赤字は減少しない。そのことはこれまでの歴史が証明しているし、関税は結局アメリカの消費者の負担となるだけだからだ。確かに、中国の輸出業者にもダメージは及ぶが、結果として双方が傷つき、損害はむしろアメリカ側に大きいことは明らかなのだ。

であれば米中両政府がきちんと話し合い、交渉により双方にメリットのある関係を模索することこそ、より効果的な解決策ではないかと中国は繰り返してきた。

至極まっとうな主張だが、問題はこの考え方にトランプ政権が耳を貸すのか否かだ。

中国を批判し敵視することは、いまのアメリカの政界では完全な「コレクト」で、また票にも繋がる。そんな状況下で、正論がどこまで通用するのか、という問題だ。

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中国の実力を知らしめた「DeepSeek」を巡る米中の攻防戦

興味深かったのは、アメリカ公共放送PBSのニュース番組『NEWSHOUR』で解説を担当した経済アナリストのローベン・ファルザの以下のコメントだ。

かつての共和党員は(安価な労働力である)移民に静かに感謝し、また中国のお陰でたった20ドルでCDプレーヤーが買えることに感謝し、その余剰金を生活の質の向上に向けられたことに静かに感謝してきた。

ファルザは、こうした現実的な思考をする共和党員がみな言葉を発せられなくなっていると嘆くのだ。

つまりアメリカから正論がなくなったわけではなく、正論に聞く耳を持たない状況がアメリカ国内に広がっているのだ。

そうであればトランプ政権が中国の言葉に耳を傾けるまで、双方が無駄な血を流し続けなければならなくなる。それが「最後までつきあう」の意味だ。

関税戦争であれば、アメリカの消費者が物価高騰に耐えきれなくなるまで、貿易戦争ならばアメリカの企業の収益が下がり悲鳴を上げ、この対立の愚かさを実感するまで、だ。

中国の長期目標はアメリカと落ち着いたウインウインの関係を構築することだ。対立の容認はその過程の一つに過ぎないのだ。

ただ中国が比較的冷静にトランプ2.0の関税攻勢に対処できている理由は、長期戦略だけでは説明できない。忘れてはならないのは、中国がいまトランプ1.0のときにはなかった自信を持ったことだ。その背後にはアメリカからの攻撃に対し、ある程度それを退けられる準備と自信も整えたことが指摘される。

それを象徴する戦いが、サイバーの世界で繰り広げられたのは、今年1月28日から30日にかけてのことだ。

アメリカから中国のAI「DeepSeek」を狙って行われた大規模サイバー攻撃だ。従業員わずか140人の「DeepSeek」は、アメリカ側からと思われる攻撃により、一時、最終防衛ラインを突破され、決定的な破壊にさらされる寸前まで追い詰められた。

だが毎秒50万回を超えたとされる激しい攻撃のなか、「DeepSeek」のために中国IT系の巨大企業が続々と防衛に参加。これを跳ね返すことに成功したのだ。

サイバーセキュリティ企業大手の奇安信や「360」、そして世界にその名を知られたファーウェイやテンセントである。

83時間に及ぶ「DeepSeek」をめぐる国を挙げた攻防戦で、中国はその実力を改めて世界に知らしめたといえるだろう。

過去には、GPSや宇宙関連技術からも完全にシャットアウトされ、バイデン政権下では最先端半導体技術へのアクセスも制限されてきたが、中国はこうした逆風をほぼすべて乗り越え、むしろそれを発展の動力に変えてきたのである。

そして今回は「DeepSeek」という中国の大きな成果を悪意ある攻撃からきっちり守ってみせ、サイバー領域での防衛力を見せつけたのである。

ただでさえ国内に重厚な工業のベースを持つ中国が、IT分野でも大きな存在感を示したことは、「対立より協力」という中国の主張にトランプを誘う一助となるはずだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年3月9日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: bella1105 / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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