コンピュータの中で構築された3次元の仮想空間やサービスの「メタバース」が、障がい者の学びの構築に繋がるかもしれません。生きづらさを抱える人たちの支援に取り組むジャーナリストの引地達也さんは、自身のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の中で、神奈川県藤沢市の挑戦を紹介しながら、障がい者も健常者も関係ないメタバースの世界でのコミュニケーションをどう日常化させるかについて綴っています。
主体的にメタバースを学びに利用する藤沢市の挑戦への期待
神奈川県藤沢市で認定NPO法人藤沢市民活動推進機構がメタバースを活用した18歳以降の障がい者への「学び」の構築に挑戦している。
文部科学省の「学校卒業後における障害者の学びの支援推進事業」の一環で、私もアドバイザーとして関わりながら、この新しいツールと障がい者の学びの可能性をどう組み合わせていくかを思案している。
今年度は4回の交流会のほか、「Fujisawaメタパラダイスof Artsスピンオフ」として、アート作品の展示とワークショップ、市民まつりでの体験会、藤沢支援学校での体験会などを実施した。
昨年度からこの事業に関わり、助走を経て、今年の「知る」「知ってもらう」に重きを置いた内容は、確実に「実践する」一歩を踏み出したといえる。
普及にはいかにコミュニケーションツールとして「日常化させるか」と、メタバース環境の整備の2つの要素は必須だ。
この2つの進展をにらみながら、市民レベルでどう使うかの模索と議論も欠かせない。
今年の4回の交流会では、全国で先進的な取り組みをする団体の4名がそれぞれファシリテーターとして登壇し、ガイド役となりメタバースの世界を案内し解説した。
医療法人稲生会(札幌市)の医師、土畠智幸さん、発達障害コミュニティNeuro Diversity Crewsのオギーさん、メタバース聴覚障害コミュニティの「みみとも。ランド」、慶應大学の学生を中心とするインクルーシブ社会の実現を目指す組織「SFC-IFC」。
メタバースのプラットホームとして1回目が「GAIA TOWN」、2回目が「cluster」、3、4回目が「spatial」を利用した。
プラットホームによって、操作方法の違いもあり、最初は機能の紹介に時間を要するものの、すぐに慣れると交流はスムーズ。
しかし、最後まで慣れないまま、取り残されてしまう人もいた模様で、やりたい気持ちと未習熟の技術というミスマッチは新しい技術導入では必ず起こることではあるが、これを乗り越える方法を考えるのも、大きなテーマでもある。
この記事の著者・引地達也さんのメルマガ
この事業は、藤沢市の「ふじさわ障がい者プラン2026」の中間見直し(2024年発行)で「生涯学習などの充実」「情報の受発信支援を進め、活動の手段や環境を確保」が明記されたことも背景にある。
文科省事業といえども、地域のニーズがあり、地域の機運が盛り上がらなければ、実行の価値は高まらない。
まだ社会に浸透しないメタバースを知ってもらうと同時に活用の仕方を提供するために、「その技術を使って何をするのか」への答えも必要だ。
同機構ではメタバース活用のメリットとして以下を挙げる。
「匿名ながらもリアルタイム交流」「時間や場所の制約にとらわれないフレキシブルな交流」「身振り・手振りで自己表現が可能」「アバターの表情など拡張性が高い」「初対面でも堅苦しくなくコミュニケーション」。
特に私がみんなの大学校でのオンライン講義の効果として示している共通点とも重なる。
それは、移動やコミュニケーション発信に障壁がある重度障がい者がメタバース上で表現できる「自分」の拡張の可能性である。
同機構では、目指す姿を、「知る、考える」から「活かす」を経て「変化を起こす」ことだとの構想を立てている。
事業の成果報告会で、私は、メタバースという新しいプラットフォームは「障がい」「健常」のような垣根は無くなり、そのコミュニケーションを行う際の困難な何か、という問題に焦点が当てられていくから、「障がい者」の前提はなくなり、水平型の関係から始まるから面白い、と説いた。
学びは常に期待と不安のワクワク感の中で進んでいくことを考えると、今後のメタバースの「障がい者の学び」への活用は、楽しい未知な学び、未知なる有機的な反応につながりそうで、本事業はまだまだ広がりを見せていくだろうと期待している。
やはり、どんな人も参加してみんなでワクワクを一緒に作っていくのが、いちばん楽しい。
この記事の著者・引地達也さんのメルマガ
image by: Shutterstock.com