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米中対立の枠組みでとらえるな。中国・王毅外相が語った「遠くの親戚より近くの隣人」が意味すること

3月21日、日中韓外相会議に先立つ石破首相への表敬訪問での「遠くの親戚より近くの隣人」という意味深い発言で注目を集めた中国の王毅外相。さまざまなメディアがその真意の読み解きを試みていますが、王毅氏はどのような意図でこの諺を引いたのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、「陣営対立の枠組みでとらえようとするのは大きな誤り」とした上で、中国サイドの意向を解説。さらに今後の日本にとって日中韓3カ国の関係がどれだけ重要であるかを説いています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日中韓が日本にとって死活的に重要な理由と中国の対日政策の変化

中国が見せた対日政策の大きな変化。なぜ日中韓関係が日本にとって死活的に重要なのか

遠くの親戚より近くの隣人──。

訪日した中国の王毅外相が日中韓3カ国外相会談に出席し、こう語った。

遠くの親戚がアメリカを指していることは言を俟たない。ただ、この発言を陣営対立の枠組みでとらえようとするのは大きな誤りである。

中国はすでにバイデン時代の米中対立とトランプ政権下での対立を整理し、その上で対日外交における日中韓3カ国の協力の重要性を確認しようとしているからだ。

ドナルド・トランプの再登板によってアメリカの対外政策は明らかに変わった。ウクライナ支援に冷淡になったことを通じて顕著になったのはヨーロッパとの関係の見直しだ。

中国の専門家はこれを「価値から価格」への転換と表現した。

世界の富をめぐる米中の対決は激化を免れない。だがその戦いの構図は以前とは違う。トランプはおそらく「値札」の付かない関係や支出に見切りをつけ、「ムダ」な資源を国内に回帰させ、圧倒的に強いアメリカの再構築を目指しているからだ。従来の同盟・友好関係も容赦なく精査される。

中国はこの動きを世界の多極化の入り口ととらえ、備え始めている。

アメリカ一極が崩れれば、世界各地で大国が台頭することは容易に想像され、アジアでは中国の台頭が不可避だ。

問題はアメリカがアジアをどう位置付けるかだ。アジアの経済発展の「富」にコミットするためには米軍によるプレゼンスの維持が不可欠か否かという判断だ。

在日・在韓米軍基地の維持というコストはアジアの「富」にアクセスするのに必要なのか否か、とも言い換えられる。不用となればあっさり切り捨てられる可能性もあるのだ。

さて、その上で日中韓の意義について話をすれば、まず日本にとっての重要性は台頭する大国・地域の狭間で埋没しないためのツールとしてだ。

前述したように日米関係にも値札が貼られる時代となれば、中ロを敵視するだけで日本をアメリカが重視することはない。そこにアメリカの確かな利益があることを可視化しなければならないのだが、それは簡単なことではない。

トランプ政権の閣僚たちが欧州で繰り返した発言からは、トランプ政権がもはや欧州のロシアへの脅威にまで責任を持つ必用はないと考えていることが伝わってくる。トランプ政権にとってみれば、単にロシアがアメリカにとって脅威でなければ良いのだ。

アジアにも、この割り切りが向けられる可能性はある。

アメリカ、中国、欧州連合(EU)、ロシア、インド、ASEAN、アフリカといった国や地域が自国や域内優先で発展を続けてゆく時代となれば、日本がその狭間で埋没することにも備えなければならない。

その場合、日本は中国かASEANとの関係の強化が不可欠となるが、いま日本にそのツールがあるかといえば、心もとない限りである。

日中という2国間関係は、どうしてもアメリカとの関係で不安定にならざるを得ない。そんななかで日本が中国やASEANとの関係を深めてゆこうとすれば、それは日中韓という枠組みを通じて進めてゆくのが最も現実的かつ理想的なのだ。

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「中国の理想」に最も近い日中韓での関係強化

またアメリカがゲームチェンジャーとして関税カードを乱発したとしても、あらかじめ3カ国という「枠」がはめられていれば、日中韓の間では、ある程度安定した貿易環境を維持できるというメリットもある。

このことは当然、中国にとっても大きなメリットなのだ。

さらに中国の視点から見たとき、日中韓の関係強化が理想的なのは、各国の政治状況の変化の影響を最小限に抑えられるというメリットがあるためだ。

例えば、韓国の現状だ。

中国はいま、韓国とフィリピンの内政の不安定さを懸念している。それが外交を揺るがす問題をもたらしかねないからだ。

非常戒厳を発動した尹錫悦大統領が弾劾され、その正当性を問う憲法裁判所の判断が待たれるなか、ソウルの街では大統領支持派と反対派が激しく対立している。

尹大統領支持派の集まりでは韓国の太極旗に混じって多くの星条旗が見られるように、政局と外交は韓国では不可分なようだ。

中国にしてみれば、尹大統領が復権してアメリカへと深く傾倒してゆくことは悪夢としても、野党が政権を取り中国との関係を深めてくれたとしても、それは満点とはいえない。

むしろ、どんな政権が誕生しようとも安定した貿易の環境が計算できることこそ望ましい関係なのだ。

その理想に最も近いのが日中韓での関係強化なのである。

日本でも現在、石破政権の支持率が下がり、自民党が安定した議席を維持し続けられるどうかも不透明になってきている。そうだとすれば、なおさらだ。

つまり、日本の視点からだけではなく中国から見ても日中韓の関係強化は国益に沿うものだということだ。

中国が日中韓を積極的に進めようとしていることは、対日関係の変化からも見ることができる。中国はいま、日本に対する不満の表明をごく狭い範囲にとどめようとしている。

これはある意味、バイデン政権が進めた先端技術の囲い込み政策「スモールヤード・ハイフェンス」と似ている。小さな範囲を区切って強く対応する代わりに、広い範囲で穏やかに対応するやり方だ。

では、何をその小さな範囲に入れるのか。明らかなのは台湾問題であり、もう一つは少数民族問題だ。

とくに台湾問題は取扱注意だ。いくら中国が日中韓の役割に期待するといっても、台湾問題に強く踏み込めば中国は態度を硬化させる。そのシグナルを日本がどう扱うのか。慎重に考える時期にきている。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年3月23日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: 首相官邸

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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