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高校生の孫による老夫婦殺害、中3男子による通り魔。いま何の「低下」が事件を引き起こしているのか?

千葉市若葉区の路上で11日午後5時過ぎ、近くに住む84歳の女性が背中を刺され死亡した事件で、警察は市内に住む15歳の中学3年生の少年を殺人の疑いで逮捕したと発表しました。なぜ、このような若年者による凶悪な事件は繰り返されてしまうのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、他者との「共感」が薄れつつある現代において、「感情リテラシー」の低下が大きな社会問題を引き起こす原因になっているとして警鐘を鳴らしています。

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

自分の「感情」がわからない子どもたち

防ぎようのない、恐ろしい事件が相次いでいます。

容疑者たちの「誰でもよかった」という犯行動機には怒りしか湧きせん。

思い出されるのは、2008年の「秋葉原通り魔事件」です。

当時25歳で派遣社員だった男は、秋葉原の交差点にトラックで突っ込み3人をはね、持っていたナイフで無差別に歩行者を切りつけました。

白昼の繁華街で起きたことから、誰もが「自分がそこに居合わせた可能性」に震え、その一方で、男のSNSでの書き込みや思考に一定の「共感」を示す人たちが、当時はいました。

「誰でもいいから殺したかった」という自己中心的な犯行動機で、他人の命を奪うなど、絶対に許すことなどできません。

しかしながら、世間やマスコミの関心は男の「派遣社員」という身分に集まり、負け組、社会的孤立、学歴、容姿への自己評価にスポットをあて、男の「誰かに認められたい」という欲望が満たされずに犯行に至ったのではないか、という議論を展開。

リーマンショックで派遣切りが社会問題化していたことも重なり「氷河期世代のテロ」とも言われました。

しかし、今回起きている事件は、まったく理解も、共感もできないものばかりです。

特に千葉市に住む84歳の女性が中学3年の少年に背中から刺され亡くなった事件、愛知県に住む70代の夫婦が同居する高校生の孫に殺害された事件(高校生の供述による)は、理解不能としか言いようがありません。

ただ、これらの事件を聞いたときに頭をよぎったのが「感情リテラシー」です。

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「感情リテラシー」を獲得できないまま大人になる子供たち

これは「自分の感情と他者の感情を正確に理解し、適切に表現し、管理する能力」のことで、成長していく過程で、様々な経験を通して徐々に育まれていきます。

幼少期には、親との関わりの中で安心感や信頼感が育まれ、そこから基本的な感情表現や他者の感情への気づきを学びます。学校に行くようになると、友達と協力して何かをやり遂げたり、競争する中で喜びや悲しみといった様々な感情を経験し、それらを言葉で表現したり、相手の気持ちを理解したりする練習を重ねます。

思春期になると感情も複雑化してきます。友人関係や恋愛関係など、より深い人間関係の中で、ときにぶつかり、ときにともに喜び、ときに困難を経験する中で、自分の感情と向き合い、感情のコントロールや共感性が発達していきます。

ところが最近は、感情リテラシーを獲得できないまま大人になる子供が増えていることがわかってきました。

感情リテラシーが低下すると、自分の感情や他者の感情を理解することも難しくなり、共感する力の欠損につながります。私たちは感情リテラシーを育む過程で、社会の基本的なルールや物事の道理、倫理的に正しい行動を学ぶのに、それもできない。結果として、人間関係のトラブルや事件の加害者になってしまう可能性が高まってしまうのです。

NHKの「クローズアップ現代」でも、感情リテラシーの低下が若者の犯罪につながる可能性について警鐘を鳴らし、自分の気持ちを言葉にできない若者が、闇バイトの勧誘者に利用されやすいという事例も取り上げていました。

衝撃的だったのは、犯罪に加担してしまった若者が「人を殺せって言われたらなんら躊躇うことなく殺したと思う」と話していたことです。

若者の感情リテラシーが低下している原因は、さまざまな角度から研究が進められています。貧困や家庭内DVを指摘する研究者もいますし、SNSなどのデジタルコミュニケーションも原因の一つと考えられています。

社会的動物である「私」は、他者とつながることで生き残ってきました。

つながるとは「共感」であり、共感は相手と対面し、見つめ合う状況で生まれる感情です。

対面のコミュニケーションでは、視覚・聴覚・臭覚・味覚に訴える言葉では表現できない、何百もの情報のやりとりがあります。

対面のコミュニケーションが当たり前じゃなくなった今、「私」が考える以上に、「私」たちに必要な力が弱体化してるのかもしれません。

みなさんのご意見、お聞かせください。

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image by : Ned Snowman / Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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