本来は刷新や改良を意味する「リニューアル」という言葉が、なぜか今、中国自動車業界で飛び交っています。日刊で中国の自動車業界情報を配信するメルマガ『CHINA CASE』では、なぜこの言葉が多用されるようになったのかという背景を探っています。
トヨタも参戦。リニューアルという言葉の裏にある中国自動車業界の今
一汽トヨタは2025年5月11日、「時光リニューアル計画」と題するプロモーションを公式SNSで展開し始めた。
その内容は正直どうでもよく、トヨタすらも「リニューアル」を使い始めたか、という意義の方が大きい。
実は今、中国の自動車業界でこの「リニューアル」が乱用されている。
必ずしも悪いことではないが、その背景にあるものを探ることで、中国自動車業界の今、が見えてくるかもしれない。
起源は?
中国自動車業界における「リニューアル」という言葉は、2020年代初頭から急速に広まり、現在では業界全体に蔓延している。
その起源は2021年、東風柳汽の東風風行ブランドが「乘風計画」を発表。
全製品に新たな「Lion Power」のロゴを導入しながら、「リニューアル」をブランドアップグレードの核心コンセプトに据えたことに遡る。
ドイツ勢が愛用
ただし、その際は別に特段浸透しなかったものの、ドイツ勢もこの言葉を多用するようになった。
VWはマイナーチェンジやフェイスリフトを「リニューアル」として位置付け、技術的な変更が限られていても「新しさ」を強調するようになった。
アウディも2025年に新ブランドのロゴを導入し、「リニューアル」という言葉を使用してブランドイメージを刷新。
こうしてじわじわ使われていく中で、この「リニューアル」は単なる技術的な改良を超え、ブランドイメージの再構築やマーケティング戦略全般を表現する用語へと進化した。
決定づけたのはLi
それを決定づけたのは、理想(Lixiang)が2025年5月に行ったLシリーズのモデルチェンジだ。
L6からL9までの全車種全グレードにわたり、「スマート“リニューアル”版」という新グレードを導入した。
すべてのグレードで、軽量化、高性能化を果たした次世代LiDARを標準装備、計算力に関わる半導体チップも高性能なものに一新した。
スマートコックピットも強化され、ディスプレイ、音声アシスタント、シートの快適性まで刷新された。
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モデルチェンジの言い換え
Lシリーズの今回のものは、従来的な観点で言えば、マイナーチェンジと言える。
ただし、実質的にはフルモデルチェンジに匹敵する進化を実現し、これを「スマート“リニューアル”版」というグレード名で示した形だ。
このように「リニューアル」という言葉は、もはや単なるモデルチェンジやマイナーチェンジを超え、中国自動車業界における競争と進化の象徴となっている。
乱用には問題も
しかし、その乱用には問題もある。
技術的な進化がほとんどない場合でも「リニューアル」という表現を使うことで、消費者に誤解を与えるリスクはある。
また、頻繁な「リニューアル」表記は消費者に「どれが最新か分からない」という混乱をもたらし、ブランドイメージの一貫性も損なう恐れがある。
激しすぎる競争
それでも各社がこの「リニューアル」を一斉に乱用しているように見えるのは、中国における急速な技術進化と競争激化が存在する。
中国市場は世界最大ではあるものの、電動車やスマートドライビングの分野での進化が特に早い。
新技術を即座に反映させることが消費者に対する差別化要素となるため、各メーカーは「リニューアル」を通じて進化をアピールし続けなければならない。
OTAの普及
また、OTA(Over-the-Air)技術が普及し、ハードウェアを変更せずとも「リニューアル」を謳うことが可能になったことも一因となっている。
消費者側も、技術の進歩を極端に求めている風潮があることも、各社が「リニューアル」を乱用する背景になっているようだ。
出典: https://mp.weixin.qq.com/s/VyKS9G3gTQCIFXQgLeTTDQ
※CHINA CASEは株式会社NMSの商標です。
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