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トランプへ報告せずにシベリア奇襲。プーチンを激怒させたゼレンスキーが自ら摘んだウクライナ戦争「停戦の芽」

ウクライナ戦争をはじめ、国際社会がどれだけ非難の声を上げようとも終わりを見ない各地の紛争。その根本原因はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、すべての国際紛争の背後にアメリカ、ロシア、中国が必ず存在する事実と、それらの国に共通する行動原理を解説。さらに彼ら新旧超大国の思惑に左右される「世界の今後」を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:新旧超大国の意向が左右する国際安全保障の行方-デリケートな安定か終わりなき大戦か?

終わりなき大戦のトリガーが引かれるのか。新旧超大国の意向が左右する国際安全保障の行方

新旧超大国とは“だれ”を指すのか?それは米・ロ・中の3か国です。

欧州各国も、日本も、グローバルサウスを纏めるインドやブラジル、南アも、国際情勢を左右しうる力を十分に持つ存在ではありますが、現状の混乱の国際社会・国際情勢の行方を左右しているのは、米ロ中の“新旧超大国”の3か国です。

アメリカがいつから超大国として認識されるようになったかという点については、歴史家の間でも諸説あります。孤立主義を破って第1次世界大戦に参戦し、欧州で勢力を拡げていたドイツの野望を挫き、アメリカの実力の大きさと欧州全域の衰退の始まりを知らしめたウィルソン政権時代という人もいれば、第2次世界大戦において欧州・アジアにおける勝利を決定づけた出来事にstarting pointに置く人もいます。

第2次世界大戦後、圧倒的な軍事力と経済力を武器に、世界で唯一、世界7つの海すべてに港を持ち、艦隊を配置するようになったことがきっかけと考えることもできます。

世界の警察官、というよりも自由資本陣営の警察官として“西側世界”を支配する立場から自ら降り始めた最近の外交姿勢をもってしても、まだアメリカの持つ圧倒的な力は、アメリカを超大国として位置づけることになっており、America Firstと声高に叫びつつも、国際社会がその一挙手一投足を注目せざるを得ない存在であることには変わりがありません。

ロシアについては、旧冷戦時代の超大国ソビエト連邦の地位と軍備という遺産を受け継ぐ存在ですが、再び超大国と言われるような位置づけに戻るまでにはそれなりの時間と痛みを経験しています。

ソ連が崩壊した後、ロシア共和国をはじめ国は15の共和国に分かれ、バルト三国などはいち早く欧州への仲間入りを図りました。その後もジョージア(かつてのグルジア)が欧州への接近を図ったり、スタン系の国々が欧米とロシアとの間で微妙な立ち位置を取りはじめたりしたことなどがありますが、このような混乱の中で、旧ソ連の中核をなしていたウクライナは念願の独立を果たしました。

しかし、今でも旧ソ連の崩壊を歴史上最大の悲劇と嘆き、旧ソ連の再興を目論むプーチン大統領は、隣国でかつ兄弟姉妹の存在と認識されてきたウクライナが欧米化され、ロシアの構想から切り離されることは決して受け入れられないレッドラインで、それを防ぐために他の国々に対してロシアの影響下から逃れようとする試みをことごとく打ち砕くことで、ロシアの力の復活を成し遂げてきました。

世界最大の核保有国というだけでなく、軍事大国という力を源泉とした支配と、地域における対欧米懐疑派の思いを結集し、飴とムチを駆使して、プーチン大統領のロシアは国際社会における影響力を拡大しつづけています。

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「誰も中国の意向を無視することはできない」という現実

2014年のクリミア半島の一方的な編入後、欧米によって国際社会からの孤立が深まっていますが、皮肉なことに、2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、プーチン大統領のロシアを再び世界のパワーハウスに押し上げ、中国と共に、国家資本主義体制の拡がりを後押しし、“無視できない存在”として世界に再度君臨しています。

アフリカでの武力衝突に政治・軍事的な影響力を駆使し、中東の安定と不安定化の背後(シリア、イランなど)に常に存在していますし、非難が拡大しつつも、国連安全保障理事会の常任理事国という“特権”を存分に生かして、国際社会のパワーハウスとして振舞っています。

そして中国は著しい経済発展により、アジア太平洋地域への野心に火が付き、習近平国家主席の指導の下、アメリカに追いつき追い越せという戦略の下、着実に力を蓄え、2010年代以降は決して無視できない大国の地位を築きました。

中国については、台湾という例外を除けば、軍事的な野心は抱えておらず、アジア太平洋地域での圧倒的な覇権を確立できればそれで十分とする戦略を立てています。

ただこの方針はアメリカが推し進めるアジア太平洋地域でのプレゼンスの維持という戦略と見事に衝突するため、自ずと米中の対立軸が太平洋上に築かれることになりますし、アジア太平洋地域でプレゼンスを高めるインドや、経済発展著しいフィリピンやベトナムなどの東南アジア諸国との間に緊張が高まることに繋がっていますが、確実なのは「だれも中国の意向を無視することはできない」という現実です。

そして現行の国際紛争のすべての背後に、必ずこの3か国が存在します。

ロシア・ウクライナ戦争では、ロシアは当事者ですのでもちろんそこに絡んでいますが、ロシアの盟友として中国もどっぷりつかっていますし、ウクライナ側にアメリカがついてきたことと、最近は仲介役を自任していることで、米ロ中のそろい踏みとなる紛争になっています(つまり、ウクライナや欧州各国の存在や要求は、超大国主導の国際情勢においては、ほのかなスパイス程度の役割しか果たしていないと言えるかもしれません)。

ガザ紛争については、3カ国中最も目立つのはアメリカ政府の存在ですが、ハマスを含む14のパレスチナにおける諸勢力を纏め、United Palestineを作ったのは中国政府の仲介によるものですし、アサド政権下で強化されていた反イスラエル・親ロ方針によって地域における軍事プレゼンスをロシアは築き、今でもイスラエルの隣国レバノン、追い出されたと思われていたシリアなどでもロシアの影響力は存在します。

米ロ中が戦火を交えてはいませんが、対峙しているのがイランを巡る事態です。

オバマ政権下でイラン核合意が成立した際にも、ロシアと中国は協議の当事国であり、トランプ第1政権下でアメリカが離脱した後も、協議・合意の当事国として影響力を駆使しています。イランは、高まるアメリカとイスラエルからの圧力に対抗すべく、中ロを戦略的なパートナーとして迎え入れ、3か国の結びつきは非常に強くなっています。

知っての通り、ロシアのウクライナでの作戦をイランは支援しています。さらに、中国の仲介で、イランとサウジアラビア王国との間で外交的な関係修復が行われ、ペルシャ半島からパレスチナに至るまでのエリアに対して中国の影響力が拡大し、今後、ガザ地区はもちろん、中東地域の安全・安定に対しても無視できない存在です(そして今、米ロ首脳会談の内容の中に、トランプ大統領がプーチン大統領にイランとの協議に参加してほしい旨、依頼したという情報もあります)。

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東アフリカでの内戦の激化にも加担する新旧3超大国

ミャンマー情勢からは、基本、アメリカは離脱しているように見えますが、中国とロシアの影響力の高まりを受けて特使を任命する形で対応しています。

ただ、トランプ政権下では、これまでのところ、さほどプライオリティは高いとは言え、状況の変化に迅速に対応するためにローキーで待機しているに過ぎません。

インド・パキスタン間のカシミール地方を巡る緊張の背後にも、今度は準当事国として中国がおり、これまでのところは、いらぬ核戦争の緊張を高めないようにと、事態の鎮静化に奔走していますが、しっかりと背後に控え、パキスタンに軍事・経済支援を拡充することで、ライバルであるインドにメッセージを送っています。

ロシアはインド・パキスタン双方と関係がありますが、今回はあえて中国への配慮もあり、積極的にコミットはしていませんが、国連安保理などの外交の舞台では、しっかりと存在感を発揮しています。

アメリカは、インドとパキスタンの緊張が高まった際にルビオ国務長官が“仲介”に乗り出し、地域の不安定化が進まないようにAmerica watches you的な圧力を両国(と中国)にかけて存在感を示しています。

例を挙げればキリがありませんが、内戦が激化するスーダンでも、この3超大国は勢ぞろいし、対立する勢力の背後に控えて、遠く東アフリカで代理戦争・勢力争いを繰り広げています。現時点までは、問題の解決に貢献するのではなく、残念ながら、内戦の激化に加担していると思われます。

これまではこのような“超大国All in”な状況で国際紛争が進んでいたため、ほんの5年ほど前まではまだ、ここに英仏を交えた国連安保理P5(常任理事国)の国々が、表面的には外交戦を続け対立していても、安保理の下に位置するP5しか入れない部屋に籠って、何とか落としどころを探るという慣行が成り立ち、紛争が世界戦争に発展する危険性を帯びないように調整され、停戦が成り立っていました(安保理の議論を担当させていただいたことで、このお部屋に入れていただくことができ、「ああ、国際情勢はこうやって決められていくのか…」と非常に勉強になり、その後、紛争調停を担当する際に非常に役立ちました)。

この調整システムが今、全く機能しないのが現実です。

常任理事国でもある英仏については、外交力はあるものの、単純に相対的な影響力の低下が理由として挙げられると思いますが、問題解決のために主導権を取るほどの力は存在しません。

米ロ中については、それぞれが主導権および外交的影響力の拡大のための争いに興じ、国際的な平和と安定のための調整や協調よりも、自陣営の利益の追求に重きをおくようになったことで、紛争の落としどころを互いに探るのではなく、紛争を長引かせてでも、自国陣営の利益を最大化できるタイミングを探るという、MediatorからPlayerへのP5の役割の格下げと呼んでいい状況が起きています。

これまでと変わらないのは、アメリカ政府のイスラエルへの肩入れの姿勢ですが、それでも少し前までの安保理では暗黙の了解で、アメリカの拒否権発動のレッドラインになるからと、イスラエルに対する非難決議や安保理決議は避けて、代わりに非難声明に止めてきたところが、アメリカが拒否権発動を行うことは変わらないとしても、安保理の場で、アメリカの国連大使がイスラエルの非人道的行為に対して苦言を呈するという異例の事態が見られるようになってきました。

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ゼレンスキーがシベリア攻撃で犯した痛恨のミス

ロシアと中国が北朝鮮の核開発に懸念は示しても、制裁決議は阻止するために、どうしても北朝鮮に核開発およびミサイル技術の向上のための時間稼ぎを許すことに繋がっています。

特に今は、ロシアにとって、ウクライナでの戦争を継続するにあたり、北朝鮮はなくてはならないパートナーとして位置するため、北朝鮮絡みの案件でロシアが非難に回ることはありませんので、今後、北朝鮮の挑発の頻度と程度が上がることになっても、ウクライナでの借りを返すかのように北朝鮮支援に回るでしょう。

国際的な平和と安全の保障のために集って対策を協議することになっているはずの国連安保理は、その真の目的と役割を失い、すでに各国の思惑を助長させるための政治的・外交的な道具になってしまっており、現行の国際紛争の解決に貢献できる性格は期待できません。寂しい限りです。

ゆえにロシア・ウクライナ戦争も、イスラエル絡みの中東情勢も、これまでのような多国間調整プロセスでの解決が難しく、当事国とその関心国というMinilateralな取り組みに変わってきていますが、協議内容が安保理などでの議論の時と違い、さらに内輪だけの情報共有になってしまうため、有事の際に問題解決に向けた多面的な国際的プレッシャーをかけづらくなっているのが現実だと認識しています。

(中略)

では、ロシア・ウクライナ戦争はどうでしょうか?

これもご存じの通り、非常に難しく、様々な利害が複雑に絡み合った案件と言えます。

まず、超大国の一つ、そして安全保障理事会の常任理事国でもあるロシアがこの戦争の当事者となっていることが挙げられます。

ロシアにはロシアの大義があるというのが、ロシアの言い分であり、根本的な原因の除去が行われない限り、その追求のために戦争を続けるという立場です。

内容としては、「すでに2014年に一方的に編入したクリミア半島を国際法的にロシア領と認め、かつロシアが一方的に編入したウクライナ東南部4州全域のロシアへの帰属と、ウクライナ軍の完全撤退、ゼレンスキー大統領の退陣と親ロシア政権の樹立、ウクライナのNATOなどへの加入を永久的に凍結すること」など【欧米勢力の東進を止め、ロシアの国家安全保障を尊重すること】が挙げられていますが、実際のところは、プーチン大統領によるウクライナ全土の掌握が視野に入っており、旧ソ連時代のように、ロシア・ウクライナ・ベラルーシを核とした統治体系を作り、“裏切り者”であるバルト三国やジョージアなどを巻き込んで、各国の国内政治基盤を壊すことで、ロシアへの回帰を図るというグランドデザインが存在します。

今週に入って、ロシア・ウクライナ国境から4,300キロメートル離れたシベリアのイルクーツク州ベラヤ基地や、モスクワ近郊のイワノボ州イワノボ基地、リャザン州ティアギレボ基地、そして北部ムルマンスク州オレニア基地に対するウクライナ保安局(SBU)」による大規模無人機攻撃が行われ、ロシアのミサイル戦略に打撃を与えたという、新しい軍事的展開がありましたが、それでもロシアの軍事的な優位性は変わらず、昨夏のクルスク州への越境攻撃同様、ロシアにウクライナへの攻撃レベルを格段に上げる口実を与えてしまったように思われます(欧米の支援国の事前了承を得ていないことは、痛恨のミスではないでしょうか?)。

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ウクライナへの報復の必要性をトランプに伝えたプーチン

これでロシア国内において対ウクライナ核兵器使用を含むいろいろなオプションが再考され、超強硬派の意見が強まって、プーチン大統領も報復攻撃を行わないわけにはいかない事態が生まれてきます。

もし報復しなければ国内での政治的な基盤が揺るぐ可能性がありますが、どのような策を講じるにせよ、“対話のチャンスを無にしたのはロシアではなくウクライナ”という構図を作り出す必要があり、今週行われたトランプ大統領との首脳電話会談も、プーチン大統領としては「一応、あなたには報復の必要性を事前に伝えましたよ」という状況をつくったものと考えられます。

先のウクライナによる攻撃がまずいのは、クルスク州への攻撃時と同じく、アメリカ政府に事前通告していないことで、「自分の知らないところで自ら墓穴を掘るなんて」とトランプ大統領とその周辺は考えているようで、「アメリカが今、何とか停戦のためのお膳立てを助けようとしている時に何をしているのだ」という怒りにも似た感情が、もしかしたら、仲介プロセスからのアメリカの離脱を早め、それがプーチン大統領にさらなるフリーハンドを与えることに繋がるかもしれません(これがアメリカからウクライナに相談されることは決してありません)。

ちなみに、トランプ政権による仲介プロセスについては、賛否両論あるものの、個人的には十分に役割を果たしたと考えています。

まず、ロシアとウクライナが直接協議を再開するきっかけを作り出したことは、現状では協議そのものはうまく行っていませんが、人質・捕虜の交換など、ポジティブな方向に進む材料を用意する場を提供することに繋がったと言えます。

さらには、ウクライナには到底受け入れられる内容ではないものの、ロシアの口から直接、ロシアの条件を聞くことに繋げたのは、交渉を始めるにあたっての第1段階をスタートすることになるため、それを間接的にでも支援できたのは、アメリカの半ば強引な介入なしにはできなかったものと思います。

ただロシアとウクライナの直接協議をスタートさせたにもかかわらず、その場(イスタンブールでの協議の場)に同席することを(ロシアに)拒否されたことを受けて、そろそろアメリカとしては一旦手を退いてもよいステージに達したのではないかと考えます。

そのために必要なのは、いかにトランプ大統領が“成果”をアピールできる【撤退のためのsaving faceアイテム】をロシアとアメリカが用意するかでしょうが、それをトランプ大統領とその周辺も、ロシア政府も考えているはずですので、その日はさほど遠くないように思います。

もちろん、何としてもアメリカを引き留めておきたいゼレンスキー大統領としては、いろいろと抵抗し、ウクライナはアメリカの支援があれば負けません、というアピールを続けることになるでしょうが、もろもろの米・ウクライナ間のディールも、合意が以前表明されたものの、実質的には実現のための細部は決まっていないため、トランプ大統領としては退くなら今で、その後はしばらく情勢の進捗を横目で見つつ、ロシア・ウクライナ間の終わらない、または終わることができない戦争の行方を、しばらくの間、見つめるくらいの距離を保っておくとよいかと考えます。

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在外中国人の呼び戻しを開始した習近平政権

なかなか終わりの見えない中東での緊張とロシア・ウクライナ戦争ですが、両者に意外にも影響力を持っているのが、3つ目の超大国中国の存在です。

ロシアについては、いくらイランや北朝鮮が挙ってロシアに貸しを作ったとしても、ロシアから軍事的な見返りをたくさんもらえても、ロシアに対して停戦を迫るようなことはできません。

しかし、中国については、ロシアによるウクライナへの侵攻直後から、ロシアへの直接的な軍事支援はしていなくとも(間接的には迂回支援を多数行っている模様)、習近平国家主席はプーチン大統領に耳の痛いことも伝えられるだけの地位を確立しています。

それがはっきりしたのが、今年の対独戦勝記念式典・パレードの際の、プーチン大統領から習主席に対する格違いの扱いで、経済的にも軍事的にも、そして外交面でも、ロシアにとって中国は不可欠のパートナーであるという意識が見えてきます。

ウクライナに対しても、戦後復興にあたって中国との経済的な結びつきは不可欠であり、これまで様々な国々に対して不満を並べてきたゼレンスキー大統領でさえ、習近平国家主席には不平不満をぶつけたり、やり玉にあげたりできずにいます。

これは、面子を重んじる中国流のスタイルを理解しているという評価をすることもできますが、それよりは経済的なつながりと、プーチン大統領が習近平国家主席の言うことには耳を貸すということに賭けているように見えます。

当の中国はロシア・ウクライナの戦争に直接的に巻き込まれることは絶対に避けたいと願い、当初から話し合いによる解決の必要性を解き、かつ望めば仲介の労を担うとまで言い、一時は停戦案まで提示したこともありましたが、中国に功をさらわれることを恐れた欧米諸国からの横やりが入り、不発に終わっています。

しかし、中国政府関係者によると「いつでも話し合いの仲介をする」というオファーはテーブルに載せられたままであるとのことで、トランプ仲介が停止された後、何らかの形で復活してくる可能性はあると考えます。

ただ、現時点では、即時停戦が望ましいという姿勢に変わりはないものの、ロシア案件が終われば、欧米諸国は挙って中国叩きに勤しむとの危機感があり、それが中国の掲げる国家的なプランを狂わせることを懸念して、現在のところ、あまり積極的にロシア・ウクライナ戦争の解決に手を出そうとしていないように感じます。

中国の掲げるプランとは、以前、米国内でペンタゴンが掲げた「中国は2026年までにアジア太平洋地域において、アメリカの持つ軍事力を凌駕することになる」という計画であり、それはまた、必要であれば台湾を武力によって併合するための基盤整備が完了するという計画でもあると考えられます。

今のところ、中国からアクティブに台湾に対する軍事行動を仕掛けることはないとのことですが、外部勢力が(欧米諸国と日本?!)台湾をダシに、中国のsphere of influenceを侵そうとする行動に出るなら十分に受けて立つだけの力を備えることに勤しんでいるようです。

コロナ対応などで若干の遅れが生じたという専門家もいますが、それでもほぼ体制は整いつつあるというように聞いています。

その体制が整った暁には、すでにロシアの教訓から、どのレベルで誰がどのように対中攻撃を仕掛けてくるか(経済制裁などを含む)の研究・分析と、対策の立案が完成し、かつ有事の際に十分に戦える軍事力も築かれていると思われますので(そして気のせいか、ここ数カ月の間に、在外の中国人が中国に戻されているようです)、その段階に達した際に、ロシアへの何らかの働きかけがあるかもしれません。

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「戦争の継続」で利益を得ている新旧3超大国

中東案件については、イランとサウジアラビア王国の融和をお膳立てしたことと、パレスチナの諸団体をまとめあげたことからも、大きな影響力を有することは見えてくるかと思いますが、イスラエルにとっても中国は敵ではなく、技術および経済におけるパートナーです。

ゆえに、中国は中東地域におけるユニークな立ち位置を活かし、イランとアラブ諸国にも働きかけを行うことができるでしょうし、それを梃子に、イスラエルに強めに迫ることも戦略上可能であると考えます。

どこまで中東案件、特に和平案件に中国が関与してくるかは、その時のアジア太平洋地域での安全保障環境の状況とパワーバランスによるかと思いますが、もしかしたら、明らかにイスラエル寄りのアメリカが仲介を続けるよりは、はるかによい仲介の仕事ができるかもしれません。

とはいえ、この新旧3超大国は、現在のところ、実際に戦争当事国になっているロシアを含み、戦争が続いていることで利益を得ていることは否めず、今、決して急がず、代わりにそれぞれがそれぞれの影響力を駆使するベストタイミングを計っているという、なんとも微妙な現実が私たちの目の前に広がっていることを、長くなりましたが、ちょっとだけ皆さんにお話ししてみました。

米ロ中の3頭体制が、最近になって解決不能とさえ考え出され始めた同時進行の国際紛争に終止符を打ち、再び国際社会を非常にデリケートなバランスの上に立つ安定に導くことに繋がるのか?

それとも相互間の対立構造が漏れ出して、それが一気に世界各地の紛争とつなげるような事態になってしまうのか。

もしかしたら、今月か来月にはその方向性が見えてくることになるかもしれません。

うーん、こんなことを書いたら、次の多国間調停イニシアティブの会議の際に、誰かから怒られるかもしれませんが。

以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2025年6月6日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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