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何が予測を難しくしているのか。元お天気お姉さんが解説する「ゲリラ豪雨」と「線状降水帯」の違いと発生のメカニズム

6月10日までに関東以西が入梅した日本列島。鹿児島県の大隅地方では9日夜に線状降水帯が発生し、災害級の大雨に襲われる事態となりました。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、気象予報士として『ニュースステーション』のお天気キャスターを務めていた健康社会学者の河合薫さんが、「ゲリラ豪雨」と「線状降水帯」の違いについて解説。さらにその予想の困難さを記すとともに、被害を最小限に抑えるためどのような意識を持つべきかを伝えています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:ゲリラ豪雨と線状降水帯の違いって?

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

ゲリラ豪雨と線状降水帯の違いって?元お天気お姉さんが徹底解説

今年の梅雨は豪雨と真夏日の繰り返しが多くなりそうです。いわゆる「陽性の梅雨」と呼ばれています。そこで今回はメディアでも度々登場する「線状降水帯」についてお話します。是非とも減災にお役だてください。

みなさん、ゲリラ豪雨って覚えてますか?最近はあまり聞かなくなりましたが、1990年代後半~2000年代初頭にかけて頻繁に使われました。

当時私は報道番組の気象キャスターです。西日本で1時間に100ミリ近い雨が記録された時は、筑波の気象研究所で「人工的に100ミリの雨」を降らせてもらい中継するなど、それはそれはビックニュースとなりました。

「ゲリラ豪雨」という言葉は気象用語ではありません。マスコミが使い始めた言葉です。しかし一方で、気象の現場では使われていたようで、私が知ったのも民間の気象会社のとき。気象庁の元予報官の人たちが「限られた地域に短時間集中して降る雨」を、「ゲリラだな」と呼んでいたのです。

ゲリラ豪雨を降らせるのは積乱雲です。豪雨、豪雪、竜巻、突風など激しい気象現象を起こす、背が高く幅の狭い雲です。当時は、ゲリラ豪雨は長くても2~3時間で終わるとされていました。積乱雲の寿命が30分~数時間程度ですから、集中・短時間が基本なわけです。

ところが、2000年代になるとゲリラ豪雨が断続的かつ継続して降るケースが観測されるようになります。私がその“異変”を番組で最初に伝えたのは2000年9月11日~12日の東海豪雨です。

11日未明から名古屋を中心に雨が降り出し、夜には急激に雨が強まり、19時には1時間に97ミリの猛烈な雨を観測。21時過ぎには雨が弱まったため、ここで「山を超えた」と専門家も含めて多くの人が安堵しました。これが当時の認識です。

しかし、驚くべきことに雨は24時前から再び急激に強まり、12日の朝まで降り続きます。名古屋地方気象台では、大雨・洪水注意報を大雨・洪水警報を切り替え、その後も9回にわたって、警報→注意報→警報を繰り返しました。

東海道新幹線の運行も一回でおわる“ゲリラ豪雨”基準でしたから、断続的にゲリラ豪雨が繰り返されたことで、最終的に5万人を超える乗客が車内に取り残され、一夜を明かす事態となりました。

この中には翌日、阪神甲子園球場で行われる阪神タイガース戦に出場するジャイアンツの選手も乗っていたため試合は中止。選手が試合に間に合わないことが理由で中止になるという、前代未聞の事態になりました。

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一人ひとりが持つことが極めて重要な「危機感」

天候が回復した翌12日もダイヤの乱れは続き、博多発東京行き「のぞみ」が22時間21分遅れで終点の東京駅に到着するという、開業以来最悪の遅延も記録されています。

はい、おわかりですね。このゲリラがゲリラ的で終わらず、継続して降るのが「線状降水帯」です。

「線状降水帯」という言葉は、気象研究所の加藤輝之博士が、07年に自身が執筆した研究者向けの教科書の中で使ったのが最初です。加藤博士は、「次々と発生する積乱雲が線状に並び、数時間にわたって同じ場所を通過または停滞することで、線状に伸びた雨域を作り出し、局地的な集中豪雨をもたらす現象」と定義しています。

ゲリラ豪雨も線状降水帯も「積乱雲」が降らす雨ですから、予測が難しい点は全く同じです。積乱雲の幅はだいたい3キロ~5キロ、大きくても10キロ程度なので、時間と場所を事前に特定するのが極めて難しいのです。

数時間前ならなんとかなりますが、明日の予報は「可能性」しかわかりません。さらに、線状降水帯が発生するメカニズムも、まだわからない点が多いのでそれも予測を難しくさせています。

実際、2024年の的中率は10%に満たず、気象庁が目標とした25%を大きく下回りました。また、見逃しも5割と、半数が予測すらできていません。

予測の精度を上げるには、観測データを集めまくり、メカニズムを解明する必要があります。気象庁は、スーパーコンピューター「富岳」を活用した予想技術の改善に取り組むほか、新型気象衛星「ひまわり10号」でデータ精度を高める計画です。

これが実現すればある程度精度はあがることでしょう。

しかし、大気にはカオス的性質があり、初期値が少し違ってくるだけでも大きく結果が変わります。

なのでやはりあとは、「自分の頭の上でも降るかもしれない」という危機感を「私」が持つことが極めて重要です。

天気はナマモノです。雨が予想される時には、最新のフレッシュな天気予報をチェックし、どうか身を守る行動をとってください。

みなさんのご意見、お聞かせください。

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