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トランプがイスラエルに出した「ゴーサイン」。イラン核協議で優位に立ちたい「裸の王様」が選択した“攻撃容認”というあまりに危険な賭け

世界に衝撃を与えたイスラエルによるイランへの突然の攻撃。その裏にはトランプ大統領の「思惑」も大きく働いていたとする見方もあるようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、中国の中東地域専門家たちによる見立てを紹介。さらに内政外交双方におけるトランプ政権の迷走ぶりを分析・解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:内外で混乱を引き起こすトランプ政権は、「アメリカの世紀」の終わりへとアメリカを向かわせるのか

米有力紙までもが「アメリカの世紀の終わり」論文を掲載。内外で混乱引き起こすトランプ政権の迷走

トランプ政権は迷走しているのか──。現段階で評価するのは時期尚早かもしれない。

だが、トランプ2.0で打ち出された政策が、当初の思惑通りに進んでいないことは、現実が如実に物語っている。

国内では米国際開発庁(USAID)を破壊し教育省廃止を進め、法の支配にも挑戦し、政治対立を激化させている。

そして、外交だ。

同盟諸国のアメリカへの信頼を低下させ、帝国的野望を主張し、国連機関から脱退する一方でトランプ大統領は、世界の戦争や紛争の仲介に熱心である。

だが、華々しい成果がともなったのはサウジアラビア、UAE、カタール訪問だけで、今中東では危機が高まっている。

6月13日、イスラエルはイランの核関連施設などを標的に先制攻撃を行った。この攻撃でイランの軍指導者や核科学者が死亡、軍指揮統制施設や防空施設が破壊されたという。

核施設の被害は「限定的」とも伝えられたが、イランは14日未明イスラエル国内の軍事施設などに対し報復攻撃を行った。

トランプ大統領が進めるイランとの核協議は5回を終え、15日には6回目の協議がオマーンで行われると発表されていた。

6回目の協議では大きな進展が予想されていただけに、イスラエルには危機感が募ったという見方もある。

カタールのテレビ・アルジャジーラは、ネタニアフ首相が国内で政権を維持するための攻撃だったと解説している。

結局、第6回協議は見送られ、アメリカが協議で成果を得る機会は見送られた。

トランプ大統領はさぞかし落胆したかに思われたが、中国の中東地域の専門家たちはみな口をそろえて、今回イスラエルが攻撃に踏み切ったのはトランプ大統領から「ゴーサイン」を得たとイスラエルが受けとったからだと、こう解説した。

バイデン大統領はイランの核施設への攻撃に、明確に「ノー」を公言していた。しかしトランプ大統領はこれを曖昧にした。それだけでなく、イランが核協議でアメリカの提案に乗ってこざるを得ないようにする「圧力」としてイスラエルの攻撃を利用していた。

もちろん、一方では地下施設にまでダメージが到達する兵器の使用や、それを搭載する攻撃機の出動もなかった点から、トランプ政権も一定の抑止は効かせていると見方もある。

だが、それにしても攻撃の容認はあまりにも危険な選択であり、それは反面、トランプ政権が紛争解決の手段をあまりにも単純に考え過ぎているという懸念にもつながるのだ。

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朝鮮半島にまで触手を伸ばし始めたトランプ

同じ傾向はロシア・ウクライナ戦争でも顕著に見られた。

大統領選挙で、「自分が当選すれば24時間以内に戦争を終わらせる」と豪語したことはさすがにご愛敬としても、ロシアやウクライナが、単純に圧力をちらつかせるだけで屈すると考えるのは単純すぎる。

実際、いまは停戦の見通しさえ大きく遠のき、4月半ばには政権幹部や大統領自身も「仲介からの撤退」を口にするまでに後退した。アメリカ自身が放置を決めこむのであれば無責任のそしりは免れない。

そのウクライナからイランの核協議に乗り換えて成果を焦った結果が現在のイスラエルとイランの危機の高まりだとすれば、なおさら罪深い外交だと言わざるを得ないが、そのトランプ政権はいま中東地域だけではなく、朝鮮半島にも食指を伸ばし始めたと聞かされれば複雑だ。

6月にはトランプ大統領が北朝鮮の金正恩国務委員長に親書を送ろうと試みてきたという情報が流れ、12日にはメディアが一斉にそれを報じた。これを受けホワイトハウスも、「2018年にシンガポールで開かれた米朝首脳会談のような外交的進展を望んでいる」と応じたのだ。

下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるというわけでもないのだろうが、性急さばかりが目立つ外交だ。

同じ批判は前述した関税政策や国内の移民対策にも向けられている。

筆者はアメリカの内政を評論する立場にはないが、トランプ政権の強硬な移民取り締まりが引き起こす混乱はもはや分裂という言葉を越えた衝突へと発展している。

内政の分断と政界の相互不信も深刻だ。

ロスアンゼルスではアメリカ合衆国移民・関税執行局(ICE)の強引な手法に抗議する人々のデモが起き、これに対しトランプ大統領は州兵と海兵隊を現地に派遣した。その過程では州の要請を無視し、州兵派遣に反対したカリフォルニア州のニューサム知事の「逮捕」までも匂わせた。

またノーム国土安全保障長官の記者会見で質問を試みた野党民主党のアレックス・パディヤ上院議員(カリフォルニア州選出)は、名乗っているにもかかわらず警備担当者に取り押さえられ、後ろ手で手錠をはめられ一時的に拘束された。

ウィスコンシン州では、ハンナ・ドゥガン地裁判事が移民をかくまった疑いで逮捕された。

政敵には強気一辺倒だが、その反面では政策の修正を示唆するような発言もトランプ大統領の口からは聞かれた。移民の取り締まりの影響で農場では労働者不足が問題になり始めているからだ。

トランプ大統領は慌てて「良い移民もいる」と修正を試みたが、この展開は対中関税での軌道修正とも重なり、政策実行での準備不足や拙速がつきまとう。

米誌『フォーリン・アフェアーズ』は7月号で「『アメリカの世紀』の終わり」という論文を掲載した。終わりの始まりなのだろうか。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年6月15日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: IAB Studio / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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