日本中の女子大学が次々に共学化や閉鎖を選ぶなか、その存在意義があらためて問われています。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』ではジャーナリストの引地達也さんが、今こそ女子大の重要性は増しているのではという考えを明らかにし、現時点での「女子大」の役割について力説しています。
女子大で探求する世界が社会課題を乗り越えていく
女子大の閉鎖や募集停止が相次いでいる。
2024年度は、恵泉女学園大(東京都)と神戸海星女子学院大が募集停止、2025年度は、名古屋女子大、神戸松蔭女子学院大、清泉女学院大(長野県)、園田学園女子大(兵庫県)が共学化された。
学習院女子大は2026年度にも学習院大に統合されるという。
ダイヤモンド社発行の記事「77%が入学定員割れの女子大学! 人気下落の5つの理由とそれでも女子大を選ぶメリットは?」は、現況の理由を「少子化」「共学化志向の高まり」「実学・理系志向の高まり」「『総合大学』志向の高まり」「売り手市場の就職状況」を挙げている。
この現象を踏まえながら、私自身、女子大に勤務する立場として、新しい社会の創造に向けての女子大の役割は極めて大きいと強調したいし、それを共生社会の実現を目標とする社会と共有したい。
特に「ケア」の概念と実践を視野に社会科学を考える上で、社会に女子大は欠かせない機関である。
少子化に伴う「18歳人口の減少」は数字の現実として、短期大学や女子大にその減少分のしわ寄せがきている構図である。
さらに共学化、実学志向などは、社会や政府が示す政策が雰囲気を醸成しており、最近特に加速化している感がある。
共生社会の実現の文脈でインクルーシブ教育の推進も語られているが、「みんな一緒」の大きな括りは、男女区別しなくの流れの中で、少子化への対応とともに高校が共学化していくのも社会に大きなインパクトを与えている。
減少が止まらない高校生=受験生の数が限られる中で、その約半分の女子(2024年の大学進学率は男性61.9%、女性56.2%)の選択として女子大が選ばれるには、積極的な動機付けが必要だ。
先ほどの記事によると、学問領域で見ると、人文科学系、家政学系、教育学系の入学者が減少し、経済・経営・商学・法学のような社会学系や理学系、工学系、農学系、医・歯・薬を含む保健系の入学者が増加傾向にある「実学・理系」志向と指摘している。
この記事の著者・引地達也さんのメルマガ
日本社会では活躍する女性がまだまだ少ない。
根強い男女の役割分業の文化が未だに男性と女性が水平な関係で構成されている社会にはなっていない。
内閣府の「女性版骨太の方針」2024年度版は女性活躍・男女共同参画の推進に向けた「人材の育成」を強調している。
方針では「企業等における女性活躍の一層の推進」、「女性の所得向上・経済的自立に向けた取組の一層の推進」、「個人の尊厳と安心・安全が守られる社会の実現」、「女性活躍・男女共同参画の取組の一層の加速化」の4つの柱を示しているが、実現には文化や考え方が根付いた社会基盤を整えなければならない。
それは男性と女性という違いをどう整理し、女性あるいは男性以外の立場の人が自分の立場を深く考え、それを言語化し共有し、行動や実践を示し、新しい社会を創造するプロセスが必要だ。
その担い手を育成することが出来る女子大は、新しい社会に向けて、未だに整えられていない社会課題を「深く」考え、真理に向き合い、新しい社会を担う力を養う場でもある。
この新しい社会のキーワードは「ケア」である説く私であるが、この言葉は、女性の立場と親和性が高い。
ケアと対比される「正義」優先の社会が行き詰まり、窮屈さの原因ともなっている今、ケアの感覚で社会を創造することの必要性を説くことは、すべての性が水平型で考えられる社会に向けて、社会へのケアを自分事として考え、行動の第一歩を踏み出すのが女性であることは必然的な流れだ。
男性中心の社会から共生社会へ向かう中で、これまでの長い男性中心から変革するのは、女子大で考え行動していく役割は重要。
日々、学生と向き合い、対話する私も女子大だから、語り合える、真理に向かおうとするエネルギーが慄然と存在しているのを肌で感じている。
女子大だから培えた知見を社会で発揮してほしいと願いながら、学問を探求する場としての大きな可能性を示し続けたい。
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