イスラエルによるイラン核施設への先制攻撃からおよそ10日。両国による激しい応酬が続く中、トランプ大統領がイランへの直接攻撃に加わるか否かが大きな注目を集めています。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、トランプ氏の決断が中東のみならず今後の世界全体を左右する理由を解説。さらに国際交渉人として今現在の状況下で抱いている「偽らざる予感」を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:アメリカの中東回帰は世界を地獄に突き落とす?!-中東の勢力図を書き換えたいイスラエルの魂胆とイラン・アラブ連合の背後に控える中ロの影
トランプは世界を地獄に突き落とすのか。イスラエルの魂胆と中ロの思惑
「イスラエルとの停戦のための調停プロセスをお願いできないだろうか?」
そのような依頼が入ったのは6月15日。イスラエル軍がイランの防空網を破壊し、革命防衛隊の幹部を次々と殺害するとともに、ウラン濃縮施設をはじめ、イランの虎の子のエネルギー関連施設の破壊を続ける中、イラン政府高官から入った依頼の内容です。
直ぐにイスラエル政府にコンタクトを試み、同時にアラブ諸国とトルコに協力を要請しましたが、どこからも前向きな返答は得られませんでした。
イスラエルはアメリカを引きずりこみ、圧倒的な軍事力をもってイランの革命体制を崩壊させて20年来の懸念材料だったイランの核開発の恐れを無くし、それが一段落したらアラブ諸国への攻撃を通じて自国の勢力圏の拡大を図ろうとしていると思われるため、現時点ではいかなる停戦にも応じるつもりはなく、ガザおよびヨルダン川西岸地域の破壊とレバノンとシリアの支配、そしてあわよくば隣国ヨルダンやエジプトにまでちょっかいをかけて“イスラエルの拡大”を目指している可能性があります。
これが実現するか否かは“アメリカが本当に中東地域の泥沼に引きずり込まれるか”というポイントにかかっていますが、もしトランプ大統領が決断して、アメリカが誇るバンカーバスター爆弾とB2ステルス戦略爆撃機をイラン戦線に投入し、イスラエルによるイランへの全面攻撃を支持するような事態になったら、中東地域の非常にデリケートなバランスの上に成り立ってきた平和と安定は崩れ去り、大戦争に突入することになります。
これまでの対イスラエル戦争との違いは、サウジアラビア王国をはじめ、アラブ首長国連邦などスンニ派諸国が実質的にはイラン側に立っており、仲介役を引き受けていることもあって表面的には中立な立場を保とうとしているカタールやエジプトも、どちらかというとイラン側に味方しているように見えることです。
そしてそのイランとアラブ諸国の“連帯”の背後に、その仲直りを仲介した中国と、イランに影響力を持つロシアが控えており、アメリカが直接的に参戦した場合には、イラン側に立って参戦することもあり得るという、何とも言えない究極の緊張状態と代理戦争の様相がそこにあることです。
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カタールとエジプトは現時点での調停の協力を拒否
冒頭のイランからの調停依頼があった際、ガザ問題で仲介の労を担うカタールとエジプトに相談したのですが、両国からは「調停を行うためには、イスラエルがその領土的野心と、イスラエル国民に対して暗示をかける“存亡の危機”という脅しを一旦取り下げ、話し合いのテーブルに就く意思を示す必要がある。しかし、残念ながらイスラエルは国際社会における孤立の深まりを逆手にとって一切の話し合いに応じるつもりはなく、ヒズボラの指導者たちを排除することでその影響力を削ぎ、イスラエルに対する安全保障上の懸念を排除できることを知ったため、とことん軍事的な解決を図ろうとするかもしれない。また、モサドによるハメネイ師の殺害の可能性にまで表立って言及し始めたことで、自らもう元には戻れない動きに出ようとしているように見える。イスラエルの暴走を止めることができるのは、トランプ大統領のアメリカ合衆国が力ずくでイスラエルを制止することしかないと考えるが、トランプ大統領にその気はないようだ。このような状況下で調停を実施することは、我々にとって実りのない自殺行為になりかねない。残念ながら現時点では協力できない」と言われました。
当のトランプ大統領はG7サミットを中座してワシントンDCに戻り、8時間とも9時間とも言われる時間、Situation Roomに籠り、対イラン戦略を練ったと言われています(これが連日継続されています)。
そこで協議され、方針が示された内容については諸説ありますが、方向性としては「イランとの核協議(By ウィトコフ特使)、つまり話し合いによるイラン核問題の解決を目指しつつ、いつでもバンカーバスターを用いたウラン濃縮施設への爆撃を行えるように作戦を作成し、実行に備える」という硬軟織り交ぜた対応になるようです。
まだ攻撃命令・作戦の実行を命令していないので、近日中に行われるアメリカとイランの7回目(6回目?)の協議を前に最大限の圧力をかけ、イランのアラグチ外相を協議の場に引っ張り出してくることを狙っての動きであると考えますが、イスラエルによる容赦ない破壊に直面しつつ、それを黙認どころか称賛しているアメリカとの協議において、イランの核開発(イランはずっと平和的利用のためと主張し続けている)を止めるということは考えづらいでしょう。
「ここ1週間ほどが大事だ」とトランプ大統領は発言していますが、“アメリカが納得する結果”(イランの無条件降伏?!)を得られなかった場合、本当に一線を越えてバンカーバスターによるイランへの直接攻撃を加えるのか否かは、今後の国際安全保障情勢を見るうえで、重要な分岐点となります。
バンカーバスターを用いるのは米軍のみであり、その使用はアメリカによるイランへの直接攻撃と誰の目から見ても明らかで、これはアメリカを再び中東情勢の泥沼に引き戻すだけでなく、中東全域を反イスラエルに替え、かつ親米国がことごとく反米に転換する危険性をはらんでいます。
この歴史的な転換と危機への回帰を、トランプ大統領は本当に決断することになるのでしょうか?
それについては、アメリカ政府内でも見解が分かれているようです。4月末・5月初旬に対イラン強硬派だったウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官が更迭されたことで、話し合いによる問題解決を主張するグループが主流になったと考えられてきましたが、今、イスラエルとイランの応戦が続く中、トランプ大統領の頭の中にアメリカによるイランへの本格的な攻撃が視野に入ったことに驚いているようです(とはいえ、随分、他人事のような言い方だなあと呆れておりますが)。
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露呈したG7の空洞化と世界の調整役としての役割の終焉
アメリカが攻撃に加わった場合、イラン政府は対イスラエルのみならず、アメリカに対する報復も宣言していますが、これはメディアがいう中東地域の米軍基地への攻撃はもちろんのことながら、以前からずっと言われているアメリカ国内の権益および市民に対するテロ攻撃も含むと考えられており、アメリカ国内では、現政権下での反移民工作と相まって、イラン系およびイスラム教系の工作員の洗い出しと摘発が加速されているようです(9/11の再発を防止するため)。
このような危機の高まりに直面して明らかになったのが、G7の空洞化と世界の調整役としての役割の終焉、そして欧州諸国の影響力の著しい低下です。
イスラエルによるイランへの大規模攻撃と、その後のイランとイスラエルの報復合戦は、カナダでのG7サミット開催時に発生しましたが、“法の支配”を訴えるG7各国が挙ってイスラエルの自衛権を尊重するという、耳を疑うような一方的な発言を行い、イスラエルによるサプライズ攻撃に対するイランによる報復を悪としたのは、誰の目から見ても明らかなダブルスタンダードであり、残念ながらG7各国の完全な日和見主義の現れです。
今回のイスラエルによるイランへの攻撃は、どの観点から見ても明らかな国際法違反であり、自衛のための行為とは見なされないと考えます。
宣戦布告もなく、ガザやヨルダン川西岸、レバノンやシリアへの攻撃と同じく、一般市民を巻き込む暴挙であり蛮行という点だけでも明らかな国際法違反ですが、どうしてそれをG7は挙って支持するのかについては、理解ができません。
G7でも日本政府は少なくともイスラエルによるイラン攻撃という行為を非難しただけ、他の欧米諸国メンバーとは一線を画したことは評価できると考えますが、国際法の祖と自他ともに認めるフランスも、それを発展させ、現在の国際的な規範に仕立てた英国、米国も、そして戦後、その遵守を徹底することを誓ったドイツも、ぶれることなく“法による支配”および“国際法の遵守”を世界に訴えかける立場にあるはずですが、今回、気持ちが悪いくらいイスラエルの行動を支持しているのは明らかな自己矛盾だと考えます。
イランによる核開発が、軍事目的に転用され、かつ伝えられているように9発の核弾頭が製造されるに至るという行為は決して看過できない行為だと考えますが、そのイランを非難し攻めたてているのは、核兵器に安全保障を依存する米仏英の核保有国であり、ロシアによる脅威に対抗するために、フランスと英国の核の傘の充実を謳い、欧州における核戦力のアップグレードを推し進める国々です。
なぜ英仏、そしてアメリカによる核兵器の保有とその充実はOKされて、他国が力の充実を図ろうとしたら非難し、それを潰そうとするのか?
アメリカ政府による執拗なイランの核開発阻止に向けた主張は何度聞いても異様に感じますし、トランプ第1政権時にアメリカがイラン核合意から離脱した後、英仏独はその合意に留まり続け、イランに対して何らかの働きかけを行えた、行うべきだったにも関わらず、実質的に何もしなかったのに、今になってアメリカに倣って大騒ぎしているのは、非常に滑稽に映り、かつ欧州の時代の終わりを鮮明に感じる事態になっています。
欧米としては懸念すべきは中国の急激な核戦力の拡大姿勢の方でしょうし、旧ソ連圏外におけるロシアの核の脅威の拡大だと考えますし、イランよりは北朝鮮の核開発とその背後に中ロがしっかりと控えていることだと考えるのですが、なぜ今、すでに煮えたぎりつつある中東地域の火に油を注ぐような行為に出るのか、不可解と言わざるを得ません。
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「最低限の礼節を欠く」と怒り心頭のアラブ諸国
皆さんもご存じの通り、そして今、テヘラン市民が北へ向かって避難していますが、そこには隣国アゼルバイジャンがあり、そこには今でも火種がくすぶり、いつ再発火するか分からないナゴルノカラバフ、そしてトルコをまたぐ形でウクライナ、そしてロシアへとつながる道が存在します。イランに欧米諸国が攻撃を加えるような事態が起こった場合、それはロシア・ウクライナ戦争との接続の危険性の高まりを意味します。
もし今は静観を決めつつも、イスラエルの蛮行に対する国民の怒りが爆発し、いつイスラエルとの戦いを始めざるを得ないかの頃合いを判断しなくてはならないアラブ諸国は、すでにイスラエル・イラン双方のミサイルが自国の領空を侵犯し、かつ事前のお伺いもなかったことに対して「最低限の礼節を欠く」と怒り心頭で、特に予告なく攻撃を行ったイスラエルに対しては怒りが爆発寸前という情報が入ってきています。
もし何らかの偶発的な事態、例えばイスラエルが発射したミサイルがサウジアラビア王国の領内に堕ちて被害が出たというような事態が起こった場合には、全地域を巻き込んだ終わりなき戦いが始まることを意味します。
実際にサウジアラビア王国、アラブ首長国連邦などは軍事的な対応のための備えを始めていますし、カタールについては外交的なプロセスを行う準備をしつつ、万一の場合に備え、防衛協力をアラブ諸国に訴えかけているとのことです。
そこに支援の手を差し伸べているのが、中国とロシアです。アラブ諸国の防衛のための支援を両国が行っていますし、イランに対しては軍事的なサポートを行うものと思われます。さすがに核兵器の提供はないと思われますが、メディアで頻繁に指摘されるようなイスラエルとイランの軍事的な装備の差を埋めるべく、動くのではないかと思われます。
そしてそれと並行して、イスラエルに圧力をかけるべく、地中海対岸の東アフリカ諸国(日本が自衛隊機を待機させるジブチ含む)におけるプレゼンスを、元ワグネルの部隊と装備などを用いて強化し、アメリカが送り込む空母攻撃群に対するにらみを利かせるという作戦に出るものと考えられます。
この中ロの動きが加速するのが、アメリカがイランに自ら攻撃を加えたことが確認された瞬間です。
イスラエルからの要請に応える形でアメリカがバンカーバスターを使用してイランを攻撃した暁には、イスラエルは地中海を挟んだ東アフリカ諸国と、イランとの間に位置するアラブ諸国からの攻撃の挟み撃ちに遭う可能性が高まり、そこに瀕死のイランや、イスラエルに怒り心頭のトルコが加わるような事態になれば、東アフリカから中東、ペルシャ半島、そして中央アジア、さらにはロシア・ウクライナにまたがる広域を巻き込み、かつその影響は地中海沿いに南欧に広がり、同時にロシア・ウクライナ戦争の影響が東から欧州に及ぶことが予想され、そうなると日和見で、いろいろと大国ぶってものを言っても実際には何もしない欧州の中枢を戦争の波が襲うことになるかもしれません。
イスラエルへの軍事的働きかけを行わない中ロの算段
またスタン系の国々は、カザフスタンを北端とし、その後、インド・パキスタンに至るSouthern Corridorを通じてアジアに戦火の影響を及ぼすことになるかもしれません。
ちょうどカナダでG7サミットが開催されていた際、カザフスタンで中国とスタン系の国々のサミットが行われましたが、その際に「戦争の影響がアジアに及んできた際の対応策」についての議論が行われたとカザフスタン政府の要人から聞きました。
これだけ聞くと「ああ、中国は自国に戦火が及ばないように考えているのか」と考えたり、「最近、自ら調停のための国際組織を設立したこともあり、国際社会の安定と紛争の終結のための体制を整えるのだ」とポジティブなイメージを持ってみたりしたくなりますが、実際には全く別の戦略と思惑が働いていると思われます。
今回、イスラエルによるイランへの攻撃と、圧倒的な軍事力の差を用いて、徹底的にイランに攻撃を加えている様子を中国もロシアも激しく非難していますが、イランを支援して背後に控えつつも、表立って本格的にイスラエルに対する軍事的な働きかけを行っていない理由は、国際社会の非難に対する目くらませとして、イスラエルとイランの戦闘が貢献してくれるという算段が存在するからでしょう。
実際にメディアの取り上げ方を見てみても明らかですが、(中ロを非難する欧米メディア)は挙ってイスラエルとイランの報復の応酬とエスカレーションについて報じ、これまで取り上げてきたロシアの蛮行とウクライナの足掻きについての報道がほとんど見られなくなりました。
とはいえ、ロシアとウクライナが停戦したという状況は存在せず、国際社会の目が少しロシアとウクライナから離れている隙に、ロシアは大規模攻撃をウクライナ全土に浴びせかけ、徹底的にインフラと市民生活を破壊し、同時にウクライナ東南部4州の完全掌握に勤しんでいます。
またクルスク州に北朝鮮と中国の企業体を呼び込んで開発・復興案件を与えることで、この戦争に参加するインセンティブを与えて、戦争を有利に進めています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、戦時中にもかかわらず、カナダのG7サミット会場に出向き、各国首脳に対ウクライナ支援の継続と支援を要請しつつ、「ウクライナの戦いは自由資本主義陣営を代表して全体主義と戦っていることの象徴」と位置付けてアピールをしましたが、トランプ大統領不在の場での訴えは、体裁だけを気にする欧州の企てに用いられただけで、実質的な対ロ戦の継続と戦況の好転のための材料を何一つ与えられないという惨めな状況を生み出しました(またすでにトランプ大統領とアメリカ政府のウクライナ離れが加速していることも知らしめた結果となりました)。
プーチン大統領とロシア政府は、中国と共に、イスラエルとイランの戦闘の激化に対しての懸念を明確に述べながら、国際社会の目をロシアとウクライナから離し、その隙に一気にこの戦争を終わらせ、同時に国家としてのウクライナを終焉させるべく動いています。
そしてその場からアメリカを引きはがすために、トランプ大統領とプーチン大統領の間での電話首脳会談を行い、イラン核問題でのロシアの協力の可否とその内容についての議論にアメリカの注意を惹き、ロシア・ウクライナ戦争からアメリカの関与を無くすことに尽力しています。
今、ネタニエフ首相がイランの対イスラエル攻撃の方策をことごとく削ぐ動きをしているように、プーチン大統領は今、ウクライナがロシアに反撃し、奇襲攻撃など二度と行うことができないように徹底的に打ちのめそうという戦略を実行に移そうとしています。
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プーチンとネタニヤフが熟知している欧州各国の対応
イスラエル・イランの問題と大きな違いがあるとしたら、イスラエルはイランを敵と見ても、自国の一部とは考えないため、いろいろな攻撃手段を用いて核施設への攻撃を強行するのに対し、プーチン大統領とロシアにとっては、ウクライナは不可分なロシアの一部であり、“自国”への核攻撃や放射能汚染を起こしかねない行為は絶対に行わないという方針の存在です。
ただ共通点があるとしたら、ロシアもイスラエルも圧倒的な武力を用いて相手を叩きつつ、相手国内における様々な工作活動を実施して、相手国内の内部からの崩壊も狙っていることと、どちらも「欧州各国はいろいろと言ってくるが、戦況に影響を与えるようなことは何もしないことを知っている」ことです。
ゆえにロシアもイスラエルも、イランもウクライナも、その注意の先は欧州ではなく、トランプ大統領のアメリカ政府に向いているわけです。
トランプ大統領の思考は恐らくご本人も含め、誰も読み解けないものと思われますが、この緊張が世界各地で同時進行的に極限まで高まり、暴発寸前のところまで来ている状況で、皆、トランプ大統領の言動と一挙手一投足に注目し、少しでもアメリカの関心と支持を獲得しようと様々な工作を行っています。
トランプ大統領がいろいろと発言しつつ、アメリカによる直接的な軍事介入という最後のカードを切らずにチラつかせている限り、戦争が終結することはないですが、引き返すことができない状況に現在の戦争が発展することも、ギリギリのラインで止めることができるものと考えます。
そのデリケートなバランスを一気に崩し、負の波をドミノ現象で世界中に拡げる可能性があるのが、今、検討されているアメリカ軍によるイラン核施設(ウラン濃縮施設)破壊のためのバンカーバスターの使用という“直接的な軍事介入”の有無です。
これまでの政権の方針をトランプ大統領は非難しますが、評価できるとしたら、アメリカを中東から引きはがし、世界中の紛争に直接的に介入しない方針を作ったことだと考えますが、今、トランプ大統領がイランに対するバンカーバスターの使用に踏み切ることは、アメリカを再び海外の紛争の泥沼に引き戻し、多くの生命を奪う、まさに60年代から70年代のベトナム戦争への直接介入と泥沼化、そして敗北という最悪のシナリオの再来を予感させます。
そのような状況に陥ってしまった場合、アメリカのクレディビリティは地に落ち、復活してきたロシアと、台頭してきた中国によってオセロの駒が瞬く間にひっくり返され、かつ中国による台湾の一方的な併合を許し、アジアにおける覇権の確立を手助けすると同時に、ロシアによる“ソビエト連邦”の再興に繋がるプーチン大統領による中央アジア、バルト三国、中東欧に対する軍事攻撃と政治的工作を後押しすることに繋がると考え、大きな懸念を抱いています。
もしアメリカがイランに対する攻撃に直接参加することを選んだら、その先にあるのは(第何次かはもう分かりませんが)世界戦争による破壊と恐怖の拡大に他ならないと恐れています。
また読者でもある親友に怒られてしまいそうですが、私が紛争調停のお仕事を始めてから初めて感じる世界大戦の勃発危機の足音が刻一刻と近づいてきているように思います。
これを書いている最中に次々と召集の連絡が入ってきていますが、はてどうしたものでしょうか…。
以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2025年6月20日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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