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トランプの大誤算。“身内”も批判する米軍「イラン核施設」爆撃を中国はどう見ているのか?

イスラエルの先制攻撃に端を発し、激しい攻撃の応酬が続くイラン・イスラエル戦争。一歩間違えば世界に戦火が拡がりかねないこの状況を、中国はどのように受け取り、そして今後の展開をどう見ているのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、この軍事衝突を巡る習近平政権の「読み」を分析・解説。さらにイラン核施設への攻撃を行ったトランプ大統領の思惑と、その決断が招きかねない結果を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:イスラエル・イランの軍事衝突を中国はどう見ているのか

ついにトランプがイラン核施設を攻撃。中国はイスラエル・イラン軍事衝突の今後をどう見ているのか

6月22日、アメリカがB2爆撃機を出撃させ、イランのフォルドゥにある地下のウラン濃縮施設をバンカーバスターで攻撃した。そんなニュースが世界を駆け巡った。中国やロシアは、このアメリカの動きにどう反応するのだろうか。

まずは問題の発端から少し振り返っておこう。

イスラエルが「ライジング・ライオン作戦」を発動し、イランの主要な核施設、軍事施設を破壊したのは12日のことだ。イランも直ちにミサイルで応戦した。中東地域で一気に危機が高まった瞬間だ。

その後、両国の応酬は激しさを増し、多くの国の国民がイスラエル・イラン両国からの退避を急いだ。

米軍によるイラン地下核施設への攻撃のニュースはそうしたなかで流れたのだ。

根底にあるのは「イランが核兵器を製造している」とイスラエルが長年に亘り疑ってきたことだ。

ドナルド・トランプ大統領も「イランは数週間か数カ月以内に核兵器保有国になるだろう」と語り、ネタニアフ政権と歩調を合わせた。

イランは本当に核兵器保有に向けて動いていたのだろうか。

この疑惑への答えは、トランプ政権内部でも大統領と国家情報長官の見解が異なるなど、意見は定まっていなかった。それだけに一部では、「早くも2003年のイラク戦争の二の舞いになる」との懸念の声が上がった。

ただ中国は、トランプ政権が単純にブッシュジュニア時代の過ちを繰り返すとは見ていないようだ。

米軍が核施設を爆撃したといっても、限定的な攻撃であればイラク戦争のような泥沼には陥らないからだ。

ただ問題は、イスラエルとの関係だ。

イランに核協議で妥協を迫るため、トランプは明らかにイスラエルの持つ攻撃性を利用してきた。脅せばイランが慌てて合意になびくという発想だろうが、それは事態を複雑化させかねない危険性を孕む。

中国の懸念も、実はそこにある。

以前にもこのメルマガで指摘してきたことだが、中国はこうした複雑な背景を持つ紛争に、一国で向き合おうとせず、多国間の枠組みで慎重に関わろうとしている。

今回のケースでは中ロ伊3カ国の枠組みである。その上で上海協力機構、BRICS(新興5カ国)、国連にも重心を置いた外交を展開している。

安全保障理事会で即時停戦を呼び掛けたのも、その延長線上の動きだ。

中国とイランの関係は「包括的戦略パートナーシップ」だが、中国はエネルギー輸入で深くイランに依存している。

その一方で中国は、イスラエルとの対立にも慎重だ。

だからこそ「政治・外交的手段によって紛争を解決し、武力行使や不法な制裁に反対する」(王毅外相)という発言になるのだ。

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「イランが一方的に攻撃されて終わることはない」と見る中国

では、今後の展開を中国はどのように見ているのだろうか。

少なくとも専門家レベルの話では、米軍の攻撃が限定的であれば、イランが一方的に攻撃されて終わることはないと見ているようだ。

戦いの初期段階でモサドにより特定された防空システムが破壊され、制空権を握られたイランは、イスラエルの攻撃が戦闘機と無人機に偏るなか、ミサイルで応戦している。これが戦いの簡単な図式だ。

ニュースを見る限り、イランの被害が大きいようだが、これも戦闘が長期化すれば分からないとの予測だ。

イランのミサイルを迎撃するためのイスラエルのミサイルが早晩底をつくのでは、との見方があるからだ。イスラエルはハマスに続くヒズボラとの戦いで、すでに多くのミサイルを使ってしまった。ミサイルのストックが追い付かないという意味だ。

またイランが使用する多種多様なミサイルは、イスラエルの防空システムでは限界があるとも言われる。

こうした問題を含めて今後の戦いをみたとき、勝敗を大きく左右するのは、やはりアメリカ軍という変数だ。

イランのウラン濃縮施設を破壊した米軍にイランが報復した場合、トランプがどんな選択をするのかは未知数だ。

それを想定して7日、米軍はすでに、カタールのアル・ウデイド空軍基地をはじめバーレーン、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の米軍基地から兵器や部隊を安全な場所まで移動させている。

前述のように今回のトランプの決断は2003年のイラク戦争と酷似している。支持率が低迷するトランプは、戦争という起爆剤が必要だと判断したのだろうか。大統領がイランの核開発を強く疑っていたことは既述した。

しかし、イラク戦争との相違点も少なからず見つかる。

例えば、アメリカ国民の厭戦気分だ。

米テレビCNNが番組内で紹介したメリーランド大学の世論調査によれば、米軍がイランに軍事行動をとったことを支持するか、質問に「イエス」と答えたのはわずかに14%だった。逆に反対と答えたのは69%に上ったという。

いずれも爆撃前の調査結果だが、興味深いのは反対した69%のうち64%が共和党支持者だったという点だ。

共和党のなかにはアメリカが戦争に巻き込まれることを極度に警戒する勢力がある。第一次トランプ政権を支えたスティーブ・バノンもその一人だ。

今回の大統領の決断は共和党内部にも亀裂をもたらしながら、支持率にも貢献しないという残念な結果を招くかもしれない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年6月22日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: Steve Travelguide / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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