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トランプ「中間選挙前にイランを攻撃しない」の自縄自縛。敵に自由を与えてしまう“期限を切った約束”の副作用

各地で軍事衝突が激化する中、国家間の合意や安全保障上の約束が実効性を失いつつある国際社会。紛争の拡大を食い止めるはずの仕組みが機能せず、戦火が新たな地域へと広がる事態が続いているのが現状です。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、サウジアラビアへの相次ぐ攻撃や米イラン間の駆け引きを詳細に分析。さらに各国の思惑が交錯する中で、「合意の履行を誰が保証するのか」という国際秩序の根本的な問題を提起しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:誰が約束を守らせるのか-撃ち抜かれた王国の玄関、3日で崩れた「エネルギー停戦」、そして法の支配への逆風

誰が約束を守らせるのか-撃ち抜かれた王国の玄関、3日で崩れた「エネルギー停戦」、そして法の支配への逆風

10月10日、土曜日の午後、サウジアラビアの首都リヤドの玄関口であるキング・ハーリド国際空港に、ミサイルが落ちました。着弾したのは第3と第4のターミナルが入る建物群で、サウジの民間航空庁は翌11日の未明、12人が死亡し、309人が負傷したと発表しました。

亡くなったのは、サウジ人4人、バングラデシュ人2人、そして米国、ヨルダン、パレスチナ、シリア、スーダン、エジプトの出身者が1人ずつでした。この攻撃で負傷したインド人1人が翌11日に亡くなり、10日の攻撃による死者は13人になりました。

2月28日に米国とイスラエルがイランへの攻撃を始めて以来、湾岸のアラブ諸国で起きた一度の攻撃としては最大の被害で、サウジ国内でも2015年のモスク爆破事件以来の惨事だと伝えられています。同じ空港では8日にも、サウディア航空の機長を含むサウジ人3人が亡くなっています。

ロイター通信の集計では、別の日の攻撃も含め、この1週間にリヤドの空港への攻撃で亡くなった人は18人にのぼります。空港は10日から閉じられ、民間航空庁は閉鎖を少なくとも17日まで延ばしました。空港とは、国がどれだけ世界に開かれているかを示す玄関です。その玄関が、1週間のうちに何度も撃ち抜かれたのです。

サウジ当局は、防空態勢が攻撃を防げなかった経緯を調べています。AP通信は関係者の話として、初期の分析では、先に飛ばしたドローンが防空網を引きつけ、その間にミサイルが通り抜けた可能性があると報じました。ただし、これは当局の調査結果が公表される前の説明で、攻撃の手順として確定したものではありません。

揺らいだのは、サウジアラビアの防空だけではありません。サウジアラビアは迎撃ミサイルの在庫が細り、同盟国に支援を求めていると、AP通信や米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じています。ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、キーウへの弾道ミサイル攻撃について、パートナーから早期の警戒情報を受け取れなかったと訴えました。

英フィナンシャル・タイムズ紙のギデオン・ラックマン氏は、ロシアの核の脅しが以前ほど恐れられなくなったことを論じ、それが米国の「核の傘」の信頼性にも跳ね返ると警告しています。そして10月9日、ノーベル平和賞が国際法の守り手に贈られたその日に、米国は国際刑事裁判所(ICC)そのものに制裁を科しました。

迎撃ミサイル、早期の警戒情報、核の傘、そして国際法。守りの仕組みの弱さが各地で相次いで表に出た1週間でしたが、それ以上に深刻なのは、約束を守らせる「保証人」の席が空きつつあることです。

トランプ大統領は11日、ロシアとウクライナの「エネルギー停戦」を一方的に発表しましたが、ロシアは合意を一度も認めていません。14日の未明にはウクライナの電力施設が大規模な攻撃を受け、15日にはゼレンスキー大統領が、製油所への攻撃を控える措置は終わったと表明しました。発表から3日余りで、停戦はその形を失ったのです。

「誰が約束を結び、誰がその履行を確かめ、破った者に誰が代償を払わせるのか」

この問いは、サウジアラビアとイエメン、米国とイラン、ロシアとウクライナ、そして国際法をめぐる今週の動きのすべてに通じており、日本にもそのまま跳ね返ってきます。

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1.撃ち抜かれた王国の玄関-フーシ派のサウジ攻撃と守りの限界

前号で私は、イラン戦争が「二つの海峡」をめぐる戦いに広がったとお伝えしました。

【関連】「トランプ政権を変えろ!」アメリカ国民に「公開書簡」で直接語りかけたイランが狙う、“交渉相手の背後”を揺さぶる手法

この1週間で、その二つ目の海峡、バベルマンデブ海峡の側から放たれた矢は、サウジアラビアの心臓部に届きました。

【1-1.1週間に重なった空港攻撃】

サウジ当局の発表と各社の報道をもとに整理すると、次のとおりです。攻撃の主体や個々の被害がどこまで確認されているかは、発表の時点と情報源によって異なります。

記事ごとの死者の数を足し合わせると、同じ犠牲者を重ねて数えるおそれがあります。7日の1人、8日の3人、10日の13人、11日の1人を合わせると18人となり、ロイター通信やUAEの英字紙ハリージ・タイムズが伝える1週間の死者数と一致しますが、10日の死者を12人とする発表もあり、個々の数字には報道によって差があります。サウジ政府は累計の数字を公表しておらず、全体の死者数はなお確定していません。

フーシ派のサリー報道官は11日、10日の攻撃を認めたうえで、「最悪の事態はこれからだ」と述べました。フーシ派は、10月5日の時点で、メッカとメディナの上空を除くサウジの領空全体を「軍事作戦の地域」とすると宣言しており、11日にもこれを繰り返しています。

これを受けて、ルフトハンザ航空は16日まで、エールフランスとKLMは24日までリヤドへの運航を取りやめ、キャセイパシフィック航空は2027年1月末まで運休すると伝えられています。英国、フランス、ドイツは、渡航への警告を出しました。

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【1-2.アラムコ本社への一撃】

13日には、東部ダーランにある国営石油会社サウジアラムコの本社の管理棟が狙われました。エネルギー省の当局者は国営通信に対し、「限定的な火災」が起きたが死傷者はなかったと述べています。一方で、ロイター通信や米ブルームバーグ通信の情報源は、主要な運用センターが入る建物の複数の階に被害が出たと伝えており、被害の程度については食い違いがあります。

同じ日、リヤドでは迎撃したミサイルの破片が落ちて4人が負傷し、住宅15棟が壊れました。14日にもリヤドの上空でミサイルが迎撃され、破片で住民1人が負傷したと連合軍が発表し、フーシ派は空港やアラムコの施設を狙ったと主張しています。

フーシ派のサリー報道官は13日、サウジアラビアの石油施設を「正当な標的」だと述べ、周辺の住民に退避を命じています。その直前、サウジアラビア主導の連合軍は、イエメンの首都サヌアの石油施設に退避を命じた上で攻撃し、紅海沿岸のラス・イサやホデイダの石油施設も攻撃していました。

石油の施設を互いに狙い合う段階に入ったということです。

この週末、リヤドでは「WPCエネルギー会議」(旧世界石油会議)が空港から約10キロの会場で開かれていました。ロイター通信によれば、12日に公表された日程からは、エクソンモービル、トタルエナジーズ、シェル、シェブロン、BPの最高経営責任者の名前が消えています。

10月26日から29日に予定される、サウジアラビアが投資を呼び込むための看板の会議「未来投資イニシアティブ」について、主催者は警備の強化を打ち出しました。ロイター通信は13日、関係者2人の話として、サウジ側が経営者らに遠隔での参加も認めるハイブリッド形式に切り替える計画だと独自に報じており、一部の参加者はリヤド郊外の滑走路や近隣の湾岸諸国を経由して現地に入る可能性があるとしています。

ムハンマド皇太子が進める脱石油の国家改造は、湾岸が「安全な商売の場所」であることを大前提にしています。空港とサウジアラムコ本社への攻撃は、その大前提そのものを狙ったものだと私は見ています。

【1-3.防空能力の限界】

なぜ、これほど防空態勢が破られるのでしょうか。

AP通信は9月16日、地域の当局者2人の話として、サウジアラビアがフーシ派との戦いで防空のための迎撃弾が足りなくなり、同盟国に支援を求めていると伝えていました。ウォール・ストリート・ジャーナル紙も今週、サウジアラビアが迎撃ミサイルの不足に直面し、パキスタンなどに支援を求めていると報じています。

前号でご紹介した米ハドソン研究所のマイケル・ドーラン氏の試算を思い出してください。

9月8日夜のヨルダンの空軍基地をめぐる攻防で、同氏の試算によれば、1発数百万ドルの迎撃ミサイルを撃ち続けた守る側の費用は一晩で4億ドルを超え、攻める側の約20倍にのぼったという話です。

安いドローンを先に飛ばして高価な迎撃ミサイルを吐き出させ、盾が薄くなったところにミサイルを通すというのは、相手の財布と在庫を同時に空にする戦い方です。

広い国土を持つサウジアラビアは、イランの本土からの脅威にも備えなければならず、限られた防空の装備を北へ東へと動かし続けています。

盾の数より守るべき場所の数の方が多いとき、どこかに必ず穴が開きます。安い矛で高い盾を削り、盾の数そのものを上回る数の矛を放つ、この非対称を、私は「盾の算術」と呼んでいます。

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【1-4.「あり得る」と言った米国】

トランプ大統領は10日、米国がサウジアラビアの作戦に加わる可能性を記者団に問われ、「あり得る、検討して決める、我々は素早く動く」と答えました。12日にはフーシ派について「受け入れられない」と述べ、ムハンマド皇太子と話したことを明かし、13日には、フーシ派は「おそらくイランの指示で」再び現れたとSNSに書いています。

ただ、15日の時点で、米国がフーシ派への攻撃を決めたという報道は見当たりません。米NBCは、米軍の指導部の中でも意見が分かれていると伝えています。

振り返れば、ムハンマド皇太子は9月10日、トランプ大統領に電話でフーシ派への直接の空爆を求め、断られていました。米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、9月20日にも、皇太子の電話を受けてトランプ大統領がいったん攻撃の準備を命じ、同じ日のうちに撤回しています。

フーシ派の側も、政治局員のブハイティ氏が12日、米国が参戦すれば「米国と地域のすべての権益を標的とする」と警告しました。

米国にとって、11月3日の中間選挙を前に、新たな戦線に兵を送ることは、選挙の争点そのものを変えかねない賭けです。

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【1-5.メッカ協定の「矛」と「盾」】

では、8月にサウジアラビア、トルコ、パキスタンが結んだメッカ共同防衛協定は、どう動いたのでしょうか。

3カ国は10月5日にリヤドで協定の発動に合意しましたが、その後、トルコとパキスタンははっきりと線を引きました。

トルコのフィダン外相は8日、「これは防衛のための協定であり、攻撃のための協定ではない」と述べ、攻撃を仕掛けるために他国の領土に部隊を送ることはないと明言しています。トルコの国防省も同じ日、サウジアラビアへの部隊の展開は協定のもとで協議中で、憲法の手続きに従うと説明しました。

ロイター通信によれば、トルコが提供しているのは、ドローンの操作員、情報収集と監視、サウジアラビアの防空の調整、そして兵站の支援です。

英国を拠点とするミドル・イースト・アイは、トルコ政府の高官の話として、大規模な派遣には議会の承認が必要で、そのための議案が今月後半にも出されると伝えています。エルドアン大統領も12日、メッカ協定を近く議会に送り、批准を求める考えを示しました。

パキスタンの外務省も9日、パキスタンはリヤドに「相当数の部隊と資源」を防衛のために置いているが、フーシ派を攻撃するために「国境を越えることはない」と述べました。パキスタン軍の報道官も8日、米CNNに対し、パキスタン軍はすでに「複数の能力と領域」でサウジアラビアに展開していると述べる一方、自国の空軍機がフーシ派への攻撃に使われているとした米ニューヨーク・タイムズ紙の報道は否定したと伝えられています。

現時点で確かなのは、協定の参加国が、サウジアラビアの防衛への協力と、イエメンでの攻撃作戦への参加とを区別して語っていることです。

協定の具体的な発動の条件や各国の義務は、公表された資料だけでは十分に分からず、この線引きが今後も保たれるかどうかは見通せません。これを「協定の空洞化」と見る向きもあるでしょう。しかし、私は少し違う見方をしています。

同盟は、結んだ瞬間よりも、発動した瞬間に「どこまでやるのか」が問われるものです。トルコとパキスタンは、サウジアラビアの国土の防衛とイエメンでの戦闘を切り分けることで、協定の信頼性と、フーシ派の後ろ盾であるイランとの関係の両方を守ろうとしています。

同盟には、相手の戦争に巻き込まれる恐れと、いざというときに見捨てられる恐れという、二つの恐れが常につきまといます。

トルコとパキスタンは巻き込まれる恐れを抑えるために線を引き、その結果、サウジアラビアは見捨てられる恐れを和らげるために、米国への働き掛けと、イランとの電話の回路の両方を手放せなくなっているのです。

とりわけパキスタンは、国内で大きな混乱を抱えました。ザルダリ大統領は11日、北西部のカイバル・パクトゥンクワ州に非常事態を宣言し、イムラン・カーン元首相の政党が率いてきた州政府の権限を止めて、連邦政府が任命する知事の管轄下に置いたのです。州首相は首都への抗議の行進を呼び掛けていましたが、12日に拘束され、警察筋によれば党員ら278人が拘束されました。

米国の研究機関の分析によれば、パキスタンは9月中旬から、アフガニスタンのタリバン政権を相手に、アフガン領内への空爆を重ねてもいます。国内と西の国境に火種を抱えた国が、遠いサウジアラビアの戦場に攻撃の戦力まで差し出す余力は大きくないとみるべきでしょう。

約束の信頼性は、約束した者の余力で測られます。

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【1-6.支える側からの仲介の申し出】

11日には、一本の電話が注目を集めました。イランのアラグチ外相が自らサウジアラビアのファイサル外相に電話をかけ、サウジアラビアとイエメンの間の対話を始めるために「あらゆる支援」を申し出たのです。

アラグチ外相は、軍事的な手段は事態を複雑にするだけだとも述べ、サウジアラビア外務省も電話会談があったことを認めています。フーシ派を支えてきた側が、フーシ派の攻撃のさなかに仲介役を申し出るという、矛盾をはらんだ構図です。

ただ、この申し出は一蹴して済む話でもありません。サウジアラビアにとって、イランと話せる回路が開いていること自体には価値があり、申し出を断るにも受けるにも代償が伴うからです。

受けるかどうかを決める物差しは、イランが仲介の「入場料」として、例えば空港への攻撃を一定の期間止めさせるといった、目に見える行動を示せるかどうかでしょう。

断れば、イランは「サウジアラビアが対話を拒んだ」と国際社会に訴えるでしょう。受ければ、フーシ派への影響力という最も高い札を、イランに握らせたまま交渉の席に着くことになります。

この点について、英王立国際問題研究所のニール・キリアム氏が、日本経済新聞の10月14日のインタビューで鋭い指摘をしています。

同氏は、フーシ派は単なるイランの代理勢力ではなく独自に動く権限を持っており、たとえ何らかの合意ができても、それに従わなかったり、履行を妨げたりする可能性があると述べています。

そして、カタールやオマーンのような地域の仲介者にできるのは一時的な停戦までで、国際的な保証人が入らない限り、長く続く合意を裏付けることはできないと語っているのです。

後ろ盾が仲介を申し出るとき、問われるのは、その後ろ盾が代理勢力の行動を本当に約束できるのかという点です。

約束できない者の約束は、受け取った側にとって交渉の材料にならず、むしろ合意が破られたときの責任の所在をあいまいにするだけです。

そして、その保証を誰が与えるのかという問いに、今の中東は答えを持っていません。

【1-7.イエメンの地上で起きていること】

地上では、サウジアラビアが支えるイエメン暫定政府が10月5日に始めた「イエメンの夜明け」作戦が続いています。

作戦の開始から1週間となる12日の時点で、暫定政府軍はバベルマンデブ海峡の近くでフーシ派の部隊を囲み、ズバーブの空港に向けて前進していると、汎アラブ紙のアシャルク・アルアウサトが伝えていますが、これは暫定政府側の情報に基づく報道で、独立した確認はありません。

ただし、前号でお伝えした港町モカや、海峡の真ん中のペリム島をフーシ派から取り戻したという報道は、今週も確認できませんでした。

内陸のタイズでは、暫定政府軍が7日にアル・ワジイーヤの奪還に向けた攻勢を始め、市の南東と西で戦闘が続いています。

国連によれば、9月以降に家を追われた人は20万人を超え、国連世界食糧計画(WFP)は14日、約80万人への食料支援を減らさざるを得ないと発表しました。

空からの攻撃と地上の攻勢がどれだけ戦果を上げても、そのたびに人道の危機は深まっています。

私自身、2022年以降のイエメンの事実上の停戦を支える調停の一端に関わってきました。あの停戦は完璧なものではありませんでしたが、少なくとも空港と港を開き、人々の暮らしの細い道を通すことはできました。

しかし今、その道が、空港と石油施設を撃ち合う形で、両側から閉ざされようとしています。

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2.撃たない約束と撃つ準備-米イランとホルムズ海峡

サウジアラビアの空が撃ち抜かれていた同じ週、米国とイランの間では、奇妙な静けさが続いていました。

【2-1.「選挙の前は撃たない」】

米アクシオスは10月7日、国防総省が中央軍に対し、イランとの大規模な戦闘の再開に向けた準備を整えるよう指示したと報じました。

想定される標的は、エネルギー施設、インフラ、核施設で、イスラエルとの共同作戦になる可能性があるとされます。

ただし、指示には戦闘を始める日付は書かれておらず、トランプ大統領も最終的な決定は下していないと伝えられました。

その翌日の8日、トランプ大統領はSNSに、11月3日の中間選挙の前に米国がイランを攻撃することはないと書き込み、イランとは「生産的な協議」を続けているとも述べています。

「撃つ準備は進めるが、選挙の前には撃たない」

私はこれを、二つの聴衆に同時に語りかける言葉だと読んでいます。

一つ目の聴衆はイランで、準備の報道は「交渉で譲らなければ、選挙の後に何が起きるか分かっているな」という圧力になります。

二つ目の聴衆は米国の有権者で、「選挙の前に新たな戦争で原油価格を跳ね上げることはしない」という約束になります。

ロイター通信と調査会社イプソスが9月30日から10月5日に行った調査では、米国の成人の78%が物価高の責任の一端はホワイトハウスにあると答え、54%が生活費は「大きく」上がったと答えました。戦争の判断が、ガソリンと軽油の値段に縛られているのです。

イスラエルのネタニヤフ首相も14日、国防軍のラジオ局のインタビューで、10月27日の総選挙の前にイランを先制攻撃することは「我々にとって都合が良くない」と述べ、「イランがミサイルを撃ってきても、私のせいにされるだろう」と語りました。

ただ、トランプ大統領自身も13日、アラスカでの集会で、イランに対し「我々が何をするか見ていろ」と述べており、言葉の振れ幅は小さくありません。

米国とイスラエルの両方で、選挙の日程が攻撃をめぐる判断に影響している可能性はあります。ただし、選挙の前に攻撃を控えるという発言から、選挙の後に攻撃が再開されると結論づけることはできません。

【2-2.返事を急がないイラン】

イランの側は、返事を急いでいません。

米国は9月末、カタールの仲介を通じて、ホルムズ海峡を7日以内に再開するというイランの提案への回答を届けていました。イランのガリババディ外務次官は12日、カタールのアルアラビー・テレビに対し、イランは回答を「詰めている」ところで、国内の協議が終われば仲介者を通じて伝えると述べました。同次官は、米国がイスラマバード覚書を破ったとして、イランに「これ以上の柔軟さを期待することはできない」とも語っています。

バガイ外務省報道官も同じ日、カタールやパキスタンなどの仲介者を通じて返答すると述べました。その前日の11日には、イランの安全保障担当の高官が、米国の回答はイランの「7条件」に十分に応えていないと述べたと、ロイター通信が伝えています。

ロシアもまた、扉の前に立っています。

ウシャコフ大統領補佐官はタス通信に、9日の米ロ首脳の電話会談で、プーチン大統領がイランの濃縮ウランをロシアに移す提案は「依然として有効だ」と伝えたと説明しました。軽油で米国に恩を売りながら、イランの核問題では仲介の席を確保するという、ロシアの二つの顔がここに表れています。

15日の時点で、イランが返答を送ったという報道は見当たりません。UAEの英字紙ザ・ナショナルは14日、カタールの仲介者がイランからの返答を待っていると伝えています。

前号で私は、米国とイランが「核か、海峡か」という議題の入り口で割れているとお伝えしました。米国は核を先に、イランはホルムズ海峡を先に、という構図は、今週も変わっていません。一見すると、時間を味方につけているのはイランの方に見えます。

ただし、イランの側の時計も止まってはいません。

イランの港の封鎖は7月から続いており、米国が自らの手を縛った期限は11月3日で切れます。イランにとって合理的なのは、返事を引き延ばすことそのものではなく、選挙の前に取れるものを取り切ることであり、その意味で、10月の残りの2週間が一つの山場になるとみています。

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【2-3.海峡で積み上がる既成事実】

イランが回答を検討している間に、ホルムズ海峡の周辺では、船への攻撃や被害の報告が増えました。ただし、個々の事案における攻撃の主体は、確認されたものと分かっていないものが混在しています。

ロイター通信は7日、9月28日から10月5日までの1週間に、原油、LNG、LPGのタンカーへの攻撃が少なくとも12件あり、開戦以来、週単位で最も多くなったと報じました。翌8日には、海峡を通る船の数が7月下旬以来の低い水準に落ち込んだと伝えています。

11日には、英国の海事当局が一日に複数のタンカーへの攻撃を報告し、米海事専門誌マリタイム・エグゼクティブによれば、オマーンのソハール沖で被弾したタンカーでは2人が行方不明になりました。ロイター通信によれば、13日には一日で4隻が攻撃を受けています。

アルジャジーラが英国の海事当局(UKMTO)の記録を集計したところ、10月6日から14日までに15件の事案が報告され、その多くが後半の数日に集中していました。UKMTOの記録は海上での事案の報告であり、それぞれの攻撃の主体を独自に特定したものではありません。

米軍もまた、10日にオマーン湾で、イランの港の封鎖を破ろうとしたとする貨物船を戦闘機で攻撃したと発表しました。これは米中央軍の発表で、独立した確認はありません。

イランの側の言い分を聞けば、これは米国による港の封鎖への対抗であり、「海峡を開くかどうかを決めるのは我々だ」という意思表示です。

ロイター通信は14日、イランが中間選挙を前にホルムズ海峡で「新たな戦術」をとり始めていると報じました。

時系列を確かめておくと、イランが海峡での圧力を強め始めたのは、トランプ大統領の8日の投稿よりも前のことです。ただ、米国が「11月3日までは撃たない」と自らの手を縛ったことで、イランにとっては、それまでの間、大規模な報復を恐れずに圧力をかけられる時間の窓が開きました。

期限を切った約束は、相手にその期限までの行動の自由を与えるという副作用を持つのです。

【2-4.回復の数字と、その翌週】

皮肉なことに、国際エネルギー機関(IEA)が14日に公表した月報は、9月の数字としては明るい内容でした。

湾岸の産油国からの9月の原油輸出は日量1,390万バレルで、前の月から440万バレル増え、戦前の75%を超える水準まで戻ったのです。

サウジアラビアの原油の供給(生産量)は日量約830万バレルと、8月の約597万バレルから大きく回復しました。ホルムズ海峡を通る量も日量1,090万バレルまで増え、オマーン沖でタンカーからタンカーへ原油を移し替える動きが回復を支えたとされます。

ところが、その「回復」は、IEAの月報が出た時点ですでに過去の話になりかけていました。10月に入ってからのホルムズ海峡での攻撃の急増と、13日の東部ダーランのアラムコ本社への攻撃は、9月の数字には含まれていないからです。IEA自身も、回復は「依然として脆弱」だと書き添えていました。

IEAの月報によれば、北海ブレント原油の先物は9月の初めから約13%上がり、報告の時点で1バレル約107ドルに達していました。IEAはまた、軽油の不足が2027年まで続くおそれがあると指摘しました。

この「軽油」という言葉が、今週、ワシントンとモスクワを結び付けることになります。

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3.軽油で結ばれた米ロ、置き去りにされるウクライナ

【3-1.電話一本の取引】

トランプ大統領とロシアのプーチン大統領は10月9日、約90分間、電話で会談しました。タス通信によれば、両首脳は石油製品に関する共同声明を出しています。

トランプ大統領はSNSで、ロシアが30万トンを超える軽油を「直ちに」、11月に50万トン、その後に100万トン、さらに製油所の状況次第で300万トンを供給すると明らかにしました。

合計すれば約480万トンで、米ブルームバーグ通信は、このうち当初の約180万トン分を約1,350万バレルと換算しています。

米財務省の外国資産管理室(OFAC)は同じ9日、一般許可135号を出し、ロシア関連の制裁規則のもとで禁じられてきたロシア産の軽油の販売や輸入にかかわる取引を、2027年4月7日まで認めました。ロシアのノヴァク副首相も、軽油の輸出の制限を予定より早く解除し始めると述べています。

米自動車協会によれば、米国の軽油の全国平均の小売価格は10月8日に1ガロン6.28ドルで、9月に初めて6ドルを超えてから高止まりしていました。

トランプ大統領は、米国民、とりわけ農家や牧場主、トラックの運転手のために価格を下げることが自らの最優先事項だと書いています。ウクライナの通信社UNNは、トランプ大統領が記者団にプーチン大統領への感謝を口にしたと伝えていますが、他の報道では確認できていません。

ただし、これはあくまで制裁の規則のうえで取引を認める許可であり、2022年に議会が法律で定めた輸入の禁止そのものを解くものかどうかには争いがあります。2022年4月に成立した米国のロシア産石油輸入禁止法は、関税分類の第27類にあたる、軽油を含むロシア産のエネルギー製品の輸入を禁じています。

同法によれば、大統領が禁止を解くには、ロシアがウクライナ政府の受け入れる形で部隊の撤退と戦闘の停止に合意したことなど三つの条件を満たしたと、書面で議会に証明しなければなりません。しかも、その証明の45日前までに議会の関係委員会と協議して報告書を出し、証明の後も、不承認の合同決議が成立しないまま90日が過ぎて初めて禁止が解けます。

政権がこの手続きをとったという報道は、15日の時点で見当たりません。ベッセント財務長官は「持てるあらゆる法的権限を使う」と述べていますが、具体的な根拠は示していません。

2022年の法律は禁止の実施を大統領令14066号に沿って行うと定めているため、政権はこの大統領令に基づく許可の権限を根拠にする可能性がありますが、それが法律の定める解除の手続きに代わり得るのかについては争いがあります。

英国の法律事務所クライド・アンド・カンパニーも、一般許可は2022年の法律と緊張関係にあり、法廷で争われる可能性があると指摘しています。

実際の取引も、まだ形になっていません。ロシアのバルト海の港プリモルスクでは13日に軽油の積み出しが再開されましたが、ロイター通信によれば最初の船の行き先はモロッコで、米国に向かう軽油の船は確認されていません。

【3-2.「誕生日プレゼント」】

ゼレンスキー大統領の反発は激しいものでした――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』2026年10月16日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録ください)

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今、国際情勢は混沌としています。様々なニュース・情報が飛び交い、何を信じていいのか分かりづらくなってきています。そのような中、様々な情報に触れ、多方面から分析を加える紛争調停官そして高次元利害調整のプロとしての視点から、ただ『何が起きているのか?』を伝えるのではなく、本当に起きていること、つまり『なぜそれが起きたのか?』という理由を紐解きつつ、『次に何が起きうるか?』という戦略的なインテリジェンス・レポートをお送りいたします。ぜひ一緒に国際情勢の裏側を解き明かし、明日からの行動に活かしてください。

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この記事が気に入ったら登録!しよう 『 最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート 』

【著者】 島田久仁彦 【月額】 ¥2,750/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 金曜日

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