世界のエネルギー情勢などを議題とするG7首脳のテレビ会議を、「回線の接続準備が間に合わない」との理由で欠席した高市首相。しかしその直前まで自民党幹部らと会食していたこともあり、一国の宰相としての時間の使い方が問われる事態となっています。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、G7会議欠席に至る経緯をあらためて振り返り、首相の公務における優先順位について考察。さらに国会出席の削減を巡る議論や日本と英国との党首討論の違いを取り上げつつ、首相が果たすべき役割と国会改革のあり方を論じています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:なぜ高市首相はG7を欠席したのか
さすがに無理がありすぎる。なぜ高市首相はG7を欠席したのか
総理大臣は超多忙である。誰でも知っていることだ。だからこそ、時間の使い方を本気で考え、総理でなければできないことだけに仕事を絞り込んで、熟考できるゆとりの時間をつくり出さなければならない。
10月2日夜、フランスのマクロン大統領の主催で、世界のエネルギー情勢やディーゼル価格の高騰などを議題とする先進7カ国(G7)首脳のテレビ会議が開かれた。
高市首相はこの会議を欠席した。理由は摩訶不思議なものだった。
会議の開催時間が(午後)9時半になるのか、夜中の3時半になるのか直前まで分からなかった。回線の接続、設定のために業者を手配するには時間が間に合わなかった。
公邸でオンラインの会議をするのに、そんなに大層な準備が必要なのだろうか。首脳会談用のセキュアな暗号化回線や専用端末の設置にはかなり複雑な手順を要するのかもしれないが、それにしても、出席を断念しなければならないほど時間的に困難であったとは考えにくい。
テレビ会議が始まる1時間半前の午後8時ごろまで、高市首相は自民党の麻生太郎副総裁や鈴木幹事長、木原官房長官らと公邸で会食していた。麻生氏との対談はさぞかし気が張るだろう。その直後にG7の会議に出て、発言するのはかなりきつい。夜中の3時半にでもなったら、もっと大変だ。
代理出席が認められているので、遠藤和也外務審議官に参加を命じたらしいが、会議が何時からになろうと、最初からその予定で、麻生氏らとの会食にゆったりとのぞんでいたのではないか。
こうした総理の時間の使い方は、いかがなものだろうか。政府関係者によると、議長国のフランスから会議開催の連絡があったのは、2日朝のことだった。その時点では開始時刻について、夜中としかわかっていなかったが、その後、午後9時半スタートと知らせてきたという。何時であろうと開催することは確かなのだから、出席する気さえあれば、回線の接続、設定のために業者を手配し、準備万端にしておけたはずだ。
それをせずに、2日の夜は麻生氏らとの会食だけに時間を費やした。G7首脳会議との優先度の付け方を間違えている。というのが、国民多数の感覚なのではないだろうか。会議での発言内容を練る時間が必要なら、ここはむしろ会食を延期するべきだった。
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「女性の共感」を得るどころか批判の声が上がった首相の答弁
オンラインでのG7首脳会議は2023年に2回、24年に4回、25年に1回開かれている。当時首相だった岸田文雄、石破茂両氏はもちろん参加した。
今回は英国のバーナム首相が実父の葬儀というやむを得ない理由で欠席したが、トランプ大統領を含む5か国のトップが出席した。「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」を標榜する高市首相としては決して軽んじることのできない会議のはずである。リーダーシップという観点からは不可解な欠席というほかない。
超多忙な総理大臣が限られた時間をどう使うかは重要な課題である。かねてから高市首相は睡眠時間を削ってまで国会答弁の準備にあてているとアピールしてきた。野党が求める予算委員会への出席を大幅に削減したいという思いが強い。
その意を受けてかどうか、10月14日の衆院予算委員会で、連立を組む日本維新の会の藤田文武共同代表は、首相の国会出席の時間が多すぎると指摘し、国会改革の必要性を訴えた。そのさい、参考資料として取り上げたのが、元自民党衆院議員の小倉将信氏が所長を務める民間シンクタンク・NXJIリサーチのレポート「総理の時間の使い方」だ。
レポートは、総理が年2,000件をこえる面会をこなし、必須でない面会にも時間が消費されているうえ、年約200日におよぶ国会出席を余儀なくされていることに言及。予算委員会など各委員会への総理出席は原則不要とし、総理答弁を党首討論に集約するべしと提言している。
藤田氏は「首相がここまで国会に出席して長時間拘束される現状は、国際的に見ても普通ではない」と首相に見解を求めた。以下はそれに対する高市首相の答弁だ。
1年近く内閣総理大臣をつとめて感じたのは、わが国の向かうべき方向性を腰を据えて戦略的に考える時間を取るのは簡単じゃないということ。私の場合、山のように書類を持って帰って夜中に読んでいる。それから女性総理であるということに、秘書官たちも慣れてくれなくて、テレビ入りの時にちょっとだけ化粧をする時間もとられていなかった。家に帰ったらクレンジングで落としたり、朝は入浴をし、朝食の支度をし、後片付けをし、お化粧もし、男性総理よりは3~4時間余分に使っているかもしらんなという気がします。
あたかも「女性だから」と言いたげなこの発言は、女性の共感を得るどころか、むしろ「女性が日々工夫して社会進出してきた努力を否定しかねない」「初の女性総理が後続の足を引っ張るようなジェンダーバイアス発言」などと女性識者の間から批判の声が上がっている。男女にかかわらず、国のリーダーとしての自覚を持ってほしいからだろう。
多忙な中で家事や身支度に時間を要するのは多くの働く人々の現実だが、一国のリーダーが国家意思決定の場で時間不足の言い訳として提示すべき内容だろうか。問題はそこではない。
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「国会改革」を言うのならまず改めるべき日本の党首討論
国会対応、各省庁の政策説明、各種会議への出席、政治家や経営者との面会、そして首脳外交…。これらの仕事を前例踏襲で歴代首相はこなしてきたのだろうが、このさい大幅に絞り込んで、ゆとりのあるスケジュールに変えていくべきである。要は、総理大臣でなければできないことを、冷静に判断し実行するということに尽きる。
しかし、予算委員会に出席しない、あるいは出席時間を大幅に削るということになれば、国会が総理の考えをただす機会をどう確保するかが問題となる。レポートは「党首討論に集約すべし」としているのだが、はたして現実的な提案といえるだろうか。
現状、日本の国会における党首討論はお粗末なものである。モデルとする英国のそれ(クエスチョン・タイム)と比較してみたい。
英国では議会の会期中、毎週必ず1回(30分間)開催され、必ず首相が野党の矢面に立つ。答弁中に後ろの秘書や官僚からメモを差し入れてもらうことは一切許されず、頼れるのは事前に用意したファイルのみ。演説力はもちろん、ユーモアや、ヤジをはね返す瞬発力が試され、まさに政治生存をかけた言葉の「決闘」が繰り広げられる。
一方の日本はどうか。毎週開催という決まりはあっても名ばかりで、実際には与野党の合意が得られないという理由で見送られるのが常態化している。このため、せいぜい年に数回開催されるていどで、官僚が作成した想定問答やメモを首相が読み上げる場面が目立つ。とても英国のような激しい応酬を期待することはできない。
英国並みの充実した党首討論がこの日本の国会で可能だろうか。それだけのディベート力を有する首相や野党党首がいるのなら、どしどし実力を発揮してほしい。国会改革を言うのなら、まず党首討論を改革すべきだろう。
今のように目まぐるしく国際情勢が変化し、地政学的なリスクや気候変動、AIの暴走などへの不安が高まる時代にあっては、リーダーの冷静かつ迅速な判断がこれまで以上に求められる。それを、この政治家に任せていいのかどうかを国民は党首討論という名のリングで判定することができる。
総理たるもの、性別や過密日程を言い訳にする前に、その強い権限を用いて慣行的なスケジュールを削り、積極的に「国の方向性を戦略的に考える時間」を生み出す努力をすべきである。
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image by: 首相官邸