ココロにしみる読書ノート

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つらいことが多い世の中ですから、ホッと一息ついたり、元気が出たりするような、ジーンと心に沁みる本にめぐり合いたいもの。そんなあなたにお勧めの本の書評をおとどけします。 このメルマガがきっかけになり、書評集『泣いて 笑って ホッとして…』を2007年に発刊し、それがきっかけになり月刊「宝島」誌に書評を隔々月連載し、それがきっかけになり日経ビジネス本誌&オンライン版「超ビジネス書評」に書評連載し……。 セミプロ書評ライターのお勧めを参考に、ココロにしみる本をお選びください。

 

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【読書ノート】No.611 斎藤美奈子著『文庫解説ワンダーランド』

┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓第611号
┃コ┃コ┃ロ┃に┃し┃み┃る┃読┃書┃ノ┃ー┃ト┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛2017/06/23(Fri)

◇ 今日の一冊
  書名:文庫解説ワンダーランド
  著者:斎藤 美奈子
  出版社:岩波書店  2017年1月刊  \907(税込)  244P
  ISBN:4004316413

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     分かるように書かない方が悪い!
    ────────────────

著者の斎藤美奈子氏は、文芸評論家として多くの文芸評論や書評を
書いている。

僕もブック・レビュアーを名乗っているので、「同業です」と言いたい
ところだが、活動量がまるで違っている。

もちろん出版した本の数は比べものにもならないが、驚くのは斎藤氏の
読書量だ。

1本の書評に1冊の本だけ取り上げたりしない。
数冊から十数冊の書名をならべ、まとめて串刺しにしたり、1冊ずつ
さばいたりしながら1本の原稿に仕上げていく。

次から次と本を飲み込んでいく姿は、まるで大食いチャンピオンのようだ。

こっちが1杯のラーメンを味わっている間に、10杯も15杯もすごい
勢いで飲み込んで消化していく。
人間離れした食欲に、あ然とするばかりだ。

今回の斎藤氏の食材、もとい題材は「文庫解説」。

単行本と違って、文庫本の巻末には解説が付いている。
有名な作品は複数の出版社から文庫が出ているから、解説文も文庫の数
だけ種類がある。

本書は、複数の版元から出版されている文庫本作品を取り上げ、解説
文を読み比べる評論である。

名作と呼ばれる作品、外国語文学、評論、思想、現代文学と、取り
上げるジャンルもいろいろ、解説もさまざま。
文庫解説のめくるめく“ワンダーランド”を斎藤美奈子らしく分析している。


では、「斎藤美奈子らしく」とはどのような分析なのか。

それは「分析対象を舌鋒鋭く切り刻む」という作風で、端的にいうと
「毒舌」である。

斎藤氏の手にかかると、多くの解説がけちょんけちょんにケナされて
しまうのだ。

もちろん、内容によっては褒めているものもあるのだが、ダメ出しの
強烈さ、見事さの印象が強く、読みおわったあと褒めていた箇所を
思い出そうとしても浮かんでこない。

たとえば、川端康成『伊豆の踊子』『雪国』の解説の読み比べ。

新潮文庫版『伊豆の踊子』巻末の三島由紀夫が書いた解説を一部引用したあと、

  世の読者は、これを読んで『伊豆の踊子』の何かがわかった気に
  なるのだろうか。私にはチンプンカンプンだ。

とバッサリ。

伊藤整の『雪国』解説も、

  わかったような、わからぬようなだ。

と切り捨てたあと、2人まとめて次のようにとどめを刺す。

  三島由紀夫や伊藤整のようなタルい評論は、今日の文芸批評界で
  はほとんど目にしなくなった(そうでもないか)。いまやほとん
  ど骨董品。その歴史的価値は認めるも、古色蒼然たる解説の前で
  途方に暮れる読者こそ災難だ。そこで温存されるのは「よくわか
  らないけど、スゴイらしい」という無根拠な権威だけ。文学離れ
  が起きるのも当然かもしれないな。


また、村上龍作品の解説読み比べでも、金原ひとみの文庫解説を引用
したあと、

  まあ「私と『コインロッカー・ベイビーズ』」という題の似合う
  高級読書感想文ですね。

とディスる。

三島由紀夫も伊藤整も、文学史に載っているような有名作家だし、
金原ひとみは綿矢りさと芥川賞を同時受賞して話題になった作家
なのに、全く容赦しない。

それは、斎藤氏が権威を恐れない、いや、恐れないだけでなく、むしろ
権威に逆らわずにいられない御仁だからだ。

もう一つ例を挙げると、難解とされる小林秀雄にも斎藤節が炸裂している。

まず、小林秀雄の『無常という事』の本文に、

  ということで読んでみたのだが、一行目で早くもつまずいた。
  意味が全然わからん!

と、かみつく。

難解とされる評論家の文章に接すると、ふつうの人は「理解できない
自分が悪い」と考えてしまうのだが、斎藤氏は違う。

分かるように書かない方が悪い! と、堂々と主張する。

それでも読者のために、この分かりづらい文章を放り出さずに追いかけ
るのだが、とうとう、

  なぜよりにもよって教科書は、数ある小林秀雄のテキストの中か
  ら論理が迷走したこの作品を選択したのか。そもそも評論文では
  なく随筆だし、これなら骨董関係の随筆のほうがまだマシだ。

と、教科書編集者にまで文句を言う。

著者本人へのダメ出しが一段落したところで、こんどは解説を書いた
江藤淳を標的にする。

まず、

  江藤の解説も小林の本文同様けっして論旨明快とはいえない。

と前置したあと、『モオツァルト』の解説を引用する。

しかし、つっかえずにすっと読めるのは、

  『モオツァルト』が書かれたのは、昭和二十一年七月である

という書き出しだけ。

他の3ヶ所の引用文は、何を言っているのか分からない。

読者になり代わり、斎藤氏は次のように糾弾する。

   このへんでもうお手上げ。わけがわからん。初読の読者には
  なおさらだろう。
   江藤の解説が分かりにくいのは、二つの理由による。
   第一に、小林の内面に寄り添おうとしていること。
   第二に、にもかかわらず、小林の内面の背後にある伝記的事
  実は伏せていること。
   このモヤモヤを埋めるには、江藤淳『小林秀雄』(講談社文
  庫/二〇〇二/現在品切れ)を読まなければならないという面
  倒臭さ。不親切すぎるぜ。


以上、斎藤氏が怒っているところばかり紹介してしまったが、怒って
ばかりでは読むほうも疲れてしまう。

もう少しアドレナリンが少ない箇所もあるので、やわらかめの小説も
見ておこう。

斎藤氏が取り上げたのは渡辺淳一著『ひとひらの雪』。

「恋愛小説というよりソフトポルノ」という性質の作品なので、文庫
の解説も、ストレートに内容に触れるのははばかられる。

代わりに何を書くかというと、ともかく「遠回り」するのが一つの
方法である。

代表的な「遠回り」解説は、文芸評論家の川西政明が書いている。

編集者時代に渡辺淳一の編集者だった川西政明は、
「渡辺淳一が京都へ行きはじめたのは、十五年前だったろうか」と
書き出したが、すぐに話題が京都の「遊び」に脱線する。

里見弴が祇園で遊んだ姿を瀬戸内晴海が書いていることを紹介した
あと、志賀直哉、武者小路実篤、里見弴ら白樺派の天皇観について
述べ、こんどは白樺派とは別に日本の美を形成したのが谷崎潤一郎で
あることに言及し、渡辺淳一が谷崎潤一郎に早くから傾倒していた
ことを示す。

文学者の名前がやたら出てきたあと、やっと渡辺淳一が登場した。
……と思ったら、遠回りはまだ続く。

「ここで問題になるのは自然である」と、やれ水上勉が雪深い寒村を
背負っているだの、北海道の自然は違っているだの、まだまだ続く。

斎藤氏は、次のような賛辞を送る。

  げに評論家とは恐るべきものなり。語るべき要素が少ない作品
  をどう語るか、という難問への、ひとつの回答がここにはある。
  作品そのものには深入りせず、余った紙幅はできるだけ絢爛豪
  華な固有名詞で埋める。天ぷらを大きく見せる「はなころも」
  の技法である。

褒めてないだろ!

遠回り作戦の次に出てくるのは、「もてなし」である。

女性作家たちが頼まれた解説の多くは、文学賞のパーティーなどで
渡辺淳一に「恋愛指南」されたエピソードを綴っている。

対等な立場なら「セクハラ!」と訴えたくなるような渡辺淳一の
発言だが、相手が大御所なので女性作家たちは言い返すことができ
ない。

そこで、渡辺淳一の失礼な発言を全く気にしていないふりをして、
スナックのママが「まあセンセ、お久しぶり」と客をもてなすよう
に、単なるセクシートークに変えてしまう。

私は気にしていませんからねー、と言いながら、セクハラの内容を
バクロする。

斎藤氏が引用したのは、直木賞作家の唯川恵、村山由佳、直木賞
選考委員の林真理子、角田光代などの有名作家たち。

「褒めず殺さずの高等テク」との評価に納得してしまう。


著者なんかエラくない。
解説者も、著者にリップサービスしてないで、ちゃんと書け! という
斎藤氏のお言葉を堪能あれ。

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◇ 今日のひとこと

昨夜、久しぶりにクラシックのコンサートに行ってきました。

東京オペラシティコンサートホールで開催された
  「さくらんぼコンサート2017東京公演」
というコンサートです。

飯森範親(いいもり のりちか)指揮、山形交響楽団の演奏で、
曲目は、次の3曲でした。

 サリエリ:歌劇「ファルスタッフ」序曲
 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 「皇帝」 作品73
    (ピアノ:横山幸雄)
 モーツァルト:交響曲 第40番 ト短調 K.550

僕はベートーベンの第九「合唱付き」のステージに11回立った
ことがあるのですが、はじめて舞台に立ったときの指揮者が、
実は飯森さんでした。

飯森さんの指揮は、動きが溌剌としていてアマチュア合唱団にも
分かりやすい指揮ぶりです。

印象的だったのが、合唱団にフォルテッシモを要求する場面。
なんと、飯森さんの目が青く光り、体から炎が上がったように見えた
のです。

これが指揮者のオーラなんだなあ、と感嘆し、すっかりファンになり
ました。

以来、ゆったりとした“追っかけ”になった僕は、池袋の東京芸術
劇場までベートーベンの「合唱」を聞きに出かけたこともありますし、
川崎のミューザで開かれたマーラー「千人の交響曲」にも行きました。

NHKの名曲アルバムや映画『おくりびと』で飯森さんが指揮する
曲を聞いてはいましたが、「千人の交響曲」が2009年7月でしたので、
今回は約8年ぶりの飯森さんの生演奏。

いやー、やっぱりナマのコンサートはいいですねーー

いつも仕事に追われていることも忘れ、集中して聞くことができました。

ただ、一瞬だけ、モーツァルトの交響曲第40番の冒頭、

  あっ、そういえば、小林秀雄がこの曲のエッセイを書いていて、
  斎藤美奈子がおちょくっていたっけ!

と、雑念が入ってしまいました。


帰ってきて読みかえしてみると、『文庫解説ワンダーランド』に
小林秀雄のエッセイの紹介が載っていました。

   『モオツァルト』は古今の文学者の言葉を引きつつ天才モーツァ
  ルトの音楽の秘密に迫らんとしたハイテンションのエッセイだ。
  いかにもコバヒデな箇所はここだろう。
   〈僕の乱脈な放浪時代の或る冬の夜、大阪の道頓堀をうろつい
  ていた時、突然、このト短調のシンフォニィの有名なテエマが頭
  の中で鳴ったのである〉
   出ました、突然、降りてくるモーツァルト。

また、別の箇所で、

   そうだった、思い出したよ。コバヒデの脳内では、よく何かが
  「突然、降りてくる」のである。こういう箇所を読む人は(少な
  くとも私は)鼻白む。しかし、小林にとってはこの「突然、降り
  てくる」が重要で、こうした一種の神秘経験を共有できるかどう
  かで、コバヒデを理解できるか否かが決まるといっても過言では
  ない。

とも書いています。

やっぱり斎藤美奈子の毒舌は強烈だなぁ。

これからは、モーツァルトの40番を聞くたびに、小林秀雄を通り越して
斎藤美奈子のことを想い出しそうです。


話をコンサートに戻します。

「さくらんぼコンサート」というだけあって、受付で渡される曲目解説
パンフレットの最後に抽選ページがあり、このページに「当たり」シール
が貼ってあると山形県産のさくらんぼがもらえます。

くじ運は強い! と信じている僕ですが、今回はハズレ。

残念だなぁ、と思っているとロビーでさくらんぼを売っているのが目に
止まりました。

アメリカ産チェリーと違って、山形県産のさくらんぼは高い!

ちょっと迷いましたが、200グラム入り900円の「佐藤錦」パックを一つ
おみやげに買いました。

さくらんぼの他に、飯森さんのCDが何種類も並んでいたので、
チェコ・フィルハーモニー室内管弦楽団を指揮した『プロムナード・
コンサート』※というCDを買って、終演後のサイン会に並びました。

CDのジャケットにサインしてもらいながら、
  「鎌倉の第九で合唱団に入ってました」
と自己紹介したところ、
  「懐かしいですねぇ。もう20年くらい前ですかねぇ」
と言っていただきました。


来年も6月21日(木)に東京オペラシティコンサートホールでさくらんぼ
コンサートが開催されるそうです。

来年はどうしようかな~

※『プロムナード・コンサート』
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◇参考書評

飯森範親 監修『マエストロ、それはムリですよ』書評
  ↓
http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20090914

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書評集『泣いて 笑って ホッとして…』発売中。
 ・本の内容紹介は http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20070730 を参照ください。
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◆発行者:浅沼ヒロシ(1957年生まれ、東京都在住のITエンジニアです)
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