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もう「生み出す」時代は終わった。これからの主流は「引き算」

これまでのビジネスは「生み出すこと」が主流でした。しかし、その足し算思考のビジネスは、モノがあふれかえる飽和状態を生み出し、地球を汚し続けています。これからは「引き算思考」でビジネスを考えましょうと、無料メルマガ『ビジネス発想源』の著者・弘中勝さんは提案しています。

引き算思考で考えてみる

最近読んだ本の内容からの話。

2002年から佐賀大学の学長を務めた上原春男氏は、「海洋温度差発電」の世界的権威であり、実用を可能にするウエハラサイクルを発明して、その発電は実用段階へと入っている。

海の海水温度は、表面は20~30度と温かいが、表面から1kmもぐった深層では5度ほどの冷たさで、その表層と深層の海水の温度差を利用して電気エネルギーに変換するのが、海洋温度差発電である。

原子力発電や火力発電が主流の日本では、20度ほどしかない温度差を利用する海洋温度差発電はエネルギー効率が悪いとほとんどの研究者から無視され、理解者が少なく研究の資金集めにも非常に苦労した。

しかし、原発事故や石油価格高騰、二酸化炭素による地球温暖化が問題視されている今、ウエハラサイクルは次世代の有力エネルギーとして大きな注目を集めるようになっている。

上原氏はかつて、核融合の研究がやりたくて九州大学の助手になり、2年間研究に没頭したが、はかばかしい成果はついに得られなかった。

核融合を起こすためには1億度という高温が必要で、1億度になると温度測定器まで溶けてしまうので、そもそもいつ1億度に達したのかも分からない。

いたずらに時間ばかりが過ぎ虚しさを覚え、博士論文も書けずに悩んでいる時に、退屈しのぎにと指導教授から渡された課題が地球上の自然対流に関する研究である。

自然対流の解析とは、地球上の自然エネルギーの流れをシミュレートする学問だが、それを勉強するうちに、核融合や原子力発電などの人工エネルギーのやり方は自然の摂理に逆らう、ひどく強引な力まかせのエネルギーであることを実感する。

1億度という想像を絶する高温状態を作り出すのは、実験プラント内だと言っても危険であるし、火力発電にしても二酸化炭素を大量に出すから地球の温暖化に悪影響を与えないわけがない。

既存のエネルギーのあり方に疑問と失望を覚えた上原氏は、もっと自然に近い形のエネルギーの重要性や活用法を模索する気持ちが高まり、海洋エネルギーに着目する。

また、人工エネルギーの研究をしていて分かったことは、部分適応主義とでもいうべき姿勢である。

発電所というシステムは、ボイラー、タービン、発電機、復水器、ポンプなど複数の工程が組み合わされているが、研究者はそれぞれの分野に特化されていて、他の工程のことにはほとんど興味も知識も交流もない。

中でもボイラーやタービンといったエネルギーを生み出す側の研究者はたくさんいるのに、復水器などエネルギーを捨てる側の研究者は極めて少ない

同じ発電でも「押す部分」にヒトもカネも集中していて、「引く部分」はほとんど空白状態だったのである。

そこで、上原氏はその押すと引くのアンバランスに着目し、エネルギーを引く側=捨てる側の研究、つまり「捨て方」をよく考えたエネルギー開発こそ未来があるのではないかと確信し、そこに行き着いたのが海洋エネルギーであった。

海は太陽エネルギーのほとんどを蓄えており、資源としては無尽蔵で、地球環境に悪影響を及ぼさない。

発電過程で利用した温海水からは真水が作られ、その真水を分解して水素を作るので、水は人間の生活水として、水素は新しいエネルギーとして、残った海水放流すれば漁場も作れる

発電設備にはチタンやセラミックなど、鉄と違ってほぼ100%の再利用が可能な、耐久性に優れてリサイクル度も高い素材を利用している。

研究の開始当時、チタンはまだ日本に1トンほどしかなく値段も恐ろしく高くて「そんな高価なものを使うのか」とあちこちから非難されたが、上原氏は開発段階から「回収できないものは使わない」と決めていた。

これからのエネルギーは「いかに捨てないか」を重視し、最初からリユースを視野に入れた再処理型のエネルギーでなければならないことが時代の要請だ、と上原氏は下積み時代の経験から分かっていたのである。

若い頃の上原氏が憧れた核融合の研究から、いまだにこれといった成果が出ておらず、また原子力発電や火力発電などの人工エネルギーも、その技術は行き詰まりを見せており、押すエネルギーはいまや限界にきていることが分かる。

だからこそ、川下から発想された、ムダを出さない再利用型の「商品」でないと21世紀の社会では生き残っていけない

これは電力エネルギーだけではなくビジネスでも同じで、川下といえば消費の現場、消費者のことでありお客様の側に立って発想しない限り、いい企画やヒット商品は生まれない。

商品を企画する側は、消費者は何を欲しがってるだろうとつい自分を上に置いた「押す視線」で考えがちだが、自分がお客さんなら何が不満だろうと考える、お客様の立場に立った低い引く視線で考えることから企画は始まる、と上原春男氏は述べている。

 

▼出典は、最近読んだこの本です。

海洋温度差発電の世界的権威、上原春男氏の著作。自然の摂理とビジネスの関係性がよく分かります。

抜く技術

(著・上原春男 サンマーク出版) 


 どんどん作って、どんどん市場に供給しよう、というのが、20世紀の企業の発想でした。

その結果、モノがあふれすぎて地球も汚れてきて、21世紀の企業の発想は、逆向きになります。

現に、リサイクル事業や省電力事業のようなものがどんどん注目されていっています。

「いかに作らないか」「いかに供給しないか」という発想から来る事業が注目をされていって、「え。でも作らないと儲からないじゃないですか」という従来通りの考え方の人は取り残されます。

会議での提案も、
「これだけ金をかければOKです」
「これだけ時間をかければ、成功します」
「これだけ多くの人が集まれば、うまくいきます」
というような提案は思考が前時代すぎて、とても「良い発想」とは思われません。

「お金なんて、この程度しかかからないで済みます」
「時間なんて、これっぽっちで余裕です」
「人数なんて、こんなに少なくても大丈夫です」
という発想が二重にも三重にも重なってようやく、「これからの発想」と言えるようになるのです。

つまり、足し算思考ではなく引き算思考です。

引き算思考のない、追加追加の足し算思考は、それだけムダな理論を武装し、ムダなお金を使わせ、ムダなゴミを大量発生させるという、誰にとってもプラスにならない悲劇を生んでいくことになります。

何を引いたのか、何をなくしたのか、という引き算思考で物事を考えるようになり、何を引いたのか、何をなくしたのか、という引き算評価で物事を見極める、そんな意識を持ちたいものです。


【今日の発想源実践】(実践期限:1日間)————- 
・現在の主力商品をノートに書き、そこから引き算的に、「現在の商品-価格=?」「現在の商品-人数=?」「現在の商品-場所=?」など、いろいろなものを削除・削減した新たな商品、サービスを考えてみる

image by: Shutterstock

 
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