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現役医師が本気で警告。核戦争がもたらす「医学的結末」の恐ろしさ

5月27日に実現したオバマ大統領の広島訪問が大きなニュースとなっていますが、広島、長崎の原爆投下から70年以上が経過した今日でも、核兵器は地球上から根絶されていません。メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』の著者である徳田安春さんは、核戦争の可能性は高まっていると語り、医師の観点から核戦争がもし起こってしまった場合どれほど恐ろしい結末をもたらすかを自身のメルマガで解説しています。

核全廃を求める医師たち

最近、米国医師会と世界医師会が相次いで、核兵器の全廃と禁止を求める文書を全ての国々を相手に提案しました。なぜ、医師の団体がこのような提案をするのでしょうか。それは、核戦争の医学的結末の恐ろしさ」を科学的な正確さで知っているからです。

また、医師が行うべき医の倫理行動には、患者の健康を増進させるための診療活動がもちろん含まれていますが、あらゆる健康被害を最小限にするための患者や一般の人々、そして政治家の教育活動も含まれています。なぜ、いまこの時期なのでしょうか。それは、核戦争の可能性が現実味を帯びてきているからです。

70年前の広島・長崎への原爆投下の直後に広島を訪れた、マルセル・ジュノー(Marcel Junod)医師は、原爆で破壊された広島市を「手のひらのうえのようになにも残っていない」と世界に向けて報告しました。これが、医師による反核活動の始まりでした。

ノーベル平和賞を受けた核戦争防止のための国際医師団

米ソ核戦争の一歩手前の寸前まで来ていた1962年の「キューバ危機」の際、社会的責任のための医師団Physicians for Social Responsibility (PSR)が米国で結成され、核戦争で人間がどのような健康被害を受けるのかについて、初めて詳細な論文を発表しました。

その後、この様な活動を世界的に展開するために結成された、核戦争防止のための国際医師団International Physicians for the Prevention of Nuclear War (IPPNW)は、当時米国のレーガン大統領やソ連のゴルバチョフ大統領と面談し、核軍拡競争をただちに止めるように嘆願書を提出しました。

ゴルバチョフ大統領は、その後の回想録で、IPPNWとの面談は大きなインパクトがあり、その後の核軍縮政策導入を行うきっかけとなった、と述べています。この活動によって、1985年にIPPNWはノーベル平和賞を受賞しています。

今、ここにある核戦争の恐怖

では、現在の世界は核戦争の恐れはもうなくなったといえるのでしょうか。そうではないことは、毎日のニュースや新聞をみると明らかです。北朝鮮とイランは核保有国家となりました。ロシアとウクライナの領土紛争でも、ロシアは核兵器使用の警告を発していました。ゴルバチョフ大統領の核軍縮政策でウクライナは核をすでに放棄していましたが、核兵器を保有していたら、それが使用された可能性もあります。

そして、やはり注意すべきは、テロリスト集団です。イスラム国(IS)は世界各地でテロを展開しており、米軍を応援している日本人も「敵」であると述べています。ISは核兵器を製造はできなくても、他から入手することにより、核を保有する可能性はあるでしょう。北朝鮮やイランから入手するルートもありえます。

そういう意味でも、現存する核兵器の全廃が重要です。世界中には15,000発以上もの核弾頭があり、そのうちの2000発は発射準備段階におかれています。発射準備段階というのは、いつでも15分以内に発射することができて、30分後には大陸を超えて破壊的な打撃を与えることができるというものです。

核戦争の医学的結末

予測モデルによると、仮にロシアから300発の核兵器が米国に打ち込まれた場合、強烈な爆風と熱によって1億人もの人々が最初の30分で死亡するものと見込まれています。経済的なインフラは完全に破壊されつくします。初期の攻撃から生存できた人々も、そのあとの数か月間で、飢餓や放射線被害疾病蔓延などで、死亡すると予測されます。NATOや日米安保で同盟を組むヨーロッパ諸国や日本も同じ運命をたどることになります。

核兵器はまた、その強力な火力によって、大量の黒い「すす」を大気中に放出します。この大量の「すす」は世界的な気候変動をもたらすことになります。1回の核戦争は、1億5000万トンもの「すす」を放出すると予測され、これにより世界の平均気温は8度も低下します。北米やユーラシア大陸の内部地域では、気温が30度も低下すると予測され、これは1万8000年前の氷河期以来の超低温となります。食料生産システムは壊滅し、人類のほとんどは餓死し、人間という種が絶滅する可能性があります。

映画「博士の異常な愛情」で起きたような、偶発的核戦争の可能性も今後残ります。1979年以降、米ソ(現在は米ロ)がお互いに相手から核攻撃を受けているという間違った情報がどこからか流れたために、核兵器の発射準備を行ったことが、通算5回もありました。さらに最近では、ペンタゴンの幹部たちが最も恐れているのは、サイバーテロリストたちが、米ロの核兵器ミサイルを発射してしまうことという。

局地的な限定的核戦争でも地球的な被害は重大です。広島型原発が100個使用された場合でも、地球平均で気温は1.25℃低下します。この程度の気温低下によっても、農業生産へ深刻な打撃となり。8億人の人々が低栄養となり、合計で20億人の人々が「核飢饉」のリスクにさらされることになります。このように、核の使用はどのような場合でも医学的には重大な結末をもたらすのであり、医師はこのような事実を人々に知らせる役割が求められているのです。

文献

Helfand I, Sidel VW. Docs and Nukes–Still a Live Issue. N Engl J Med. 2015 Nov 12;373(20):1901-3.

image by: Shutterstock.com

 

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