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川端康成『雪国』の冒頭は「こっきょう」か、「くにざかい」か

川端康成の有名な小説『雪国』の冒頭には「国境」という言葉が出てきます。この漢字には読みが2種類ありますが、『雪国』に関してはどちらが正解なのか、いまだにわかっていないといいます。このような読みが2つある熟語は意外と多く、それぞれがまったく違うイメージになるものも。無料メルマガ『1日1粒!「幸せのタネ」』では、そんな日本語の奥深さを紹介しています。

読み方が二通りある熟語

以前のメルマガで、川端康成の『雪国』の冒頭について少しだけ触れました。

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」

という冒頭の一文。「こっきょう」と読むのか「くにざかい」と読むのかというのは、実は決着がついていない問題なのです。

「こっきょう」は国と国の境目であって、日本国内で使う場合は「くにざかいが正しいのではないか、という意見があります。

一方で、この小説の舞台となる場所である「上越国境」は「じょうえつこっきょう」と読むのが普通だ、という意見もあります。

当の川端康成はどう思っていたのか? というのは、「こっきょう」だったらしいというのはありますが、決定打はないようです。

興味深いのは、出典は忘れましたが、川端康成の弟さんが、「あの美意識の高い兄が、冒頭の一語に濁音を入れるわけがない」というのを書いてらしたのを見たことがあり、おおっと思いました。なるほど、そういう見方をすると確かに「こっきょう」のほうが切れがいい感じです。

これは「国境」が「くにざかい」とも「こっきょう」とも読めるのが原因ですね。ちなみに「くにざかい」というのは訓読み、「こっきょう」は音読み。一般に「訓読み」は和語で、日本語本来の言葉を読む時の音です。「音読み」は主に中国から入ってきた言葉を日本語に合うようにして読んだ音です。

このように漢字表記は同じなのに、訓読みなのか音読みなのかで印象がまるで違ってくる言葉は結構あります。

「風車」は「かざぐるま(和語)」と「ふうしゃ(漢語)」で二通り読めますねドン・キホーテが「腕をぐるぐる回す怪物」と見立てて向かっていくのは「ふうしゃ」であって、「かざぐるま」ではないですね。子供が遊ぶのはもちろん「かざぐるま」。

「草原」は「くさはら」と「そうげん」。なんとなく「そうげん」の方が広々とした感じがします。「春風」は「はるかぜ」と「しゅんぷう」とありますが、これは「はるかぜ」と読んだときに、柔らかさを感じます。

文脈で私達はうまく読み分けているのですが、ちょっとした違いでいきなり雰囲気が変わることもあります。

「閉園後の人気のないテーマパーク」というのは、たぶん「ひとけのないテーマパーク」と読む方が多いと思いますが、「閉園後」がないと「人気のないテーマパーク」で、「にんきのないテーマパーク」と読んでもおかしくありません。

日本語は、漢字があるので意味がすっと取れる便利な言語ではありますが、時々こうした「同じ熟語で読み方が2つある」というのもあります。言葉の印象がまるで違ってきますので、文章を書く時には誤解が生じないか、ちゃんと伝わるかを考えたいですね。

川端康成はどう思っていたのでしょうか。あえてルビをうたないことで世界を広げようとしたのかもしれませんね。

image by: Shutterstock

 

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