深刻な経営危機に見舞われているイタリアの大手銀行モンテ・パスキ。その影響は今のところ同国内に留まっていますが、「いずれEU全土に飛び火する」とメルマガ『高城未来研究所「Future Report」』の著者・高城剛さんは見ています。さらには「今年中にEUは金融危機に限らないあらたな危機を迎える」とも。その論拠はどこにあるのでしょうか。
あらたな危機を迎えるEU
今週は、綱渡りを続けるイタリアの銀行につきまして、私見たっぷりにお話ししたいと思います。
事実上、国営化同然になったイタリアの金融機関モンテ・パスキの火種は、現在、イタリアの地方銀行に飛び火しました。昨年から施行されたEUのベイルイン(株主や機関投資家も痛みを分ける制度)の適用となりそうなモンテ・パスキの破綻処理ケースは、BRRD(銀行再建・破綻処理指令)と呼ばれるプログラムで、本来、大きな損出を出すはずだった投資家に対しても、イタリア政府が補償を与えることが可能な特例となります。
すでに、ロイターはコラムで「モンテ・パスキへの公的支援は債権者が損失を負担する『ベイルイン』を装っているが、実体は納税者が負担を負う『ベイルアウト』だ」と指摘しています。
しかし、今後EUが今回のイタリア政府の公的救済を正式に承認するとなると、初めて例外条項を認めることになりますので、慎重をきたしますが、ただ、そのように装っているだけなのかもしれません。
EUから国民の痛みを伴わない公的救済の承認を取ることができれば、政治リスクが高まることはありませんが、逆に国民が損失負担ということになれば、庶民の怒りは、再度、反EU政党支持拡大につながる恐れがあり、金融危機は一時的に去っても、EUを離脱する動きにつながることになる板挟み状態なのが現状です。
そして、もともと破綻が近かった地方銀行のいくつか、「Banca delle Marche」、「Cassa di Risparmio di Ferrara」、「Cassa di Risparmio della Provinincia di Chieti」は、この機に便乗するかのように、公的資金による救済に大きく手を上げはじめました。なせなら、モンテ・パスキ同様にEUとして公的資金を入れることを認めなければ、今後国がEU離脱に動くことになりかねませんので、それを人質にとるも同然の行為として、救済を叫びはじめたのです。
また、今月に就任予定の米国のトランプ次期大統領が、「ウォール街改革・消費者保護法」と呼ばれるドッド・フランク法の廃止や新たな金融規制導入の凍結など、大幅な規制緩和かつ厳しい姿勢を打ち出していることなども、EUを考え込ませることになっています。
このドッド・フランク法の廃止により、「大きすぎてつぶせない」巨大金融機関の救済に公的資金が使われることが、なくなります。すでに、米国の著名投資家ジョージ・ソロスは、今後のドッド・フランク法の廃止を見込み、「大き過ぎてつぶせない」銀行、「Citigroup」「J.P. Morgan」「Bank of America」の株をすべてて売却しました。このソロスの動きを見る限りにおいて、米国ではこの三行に注意が必要ということが理解できます。
もし、米国だけタガが外れされること(ドッド・フランク法の廃止)になれば、欧州全体の金融機関が出遅れること(大きな処理がいつまでもできないこと)を意味しますし、一方、今回イタリアでルールが壊されれば、さらなるカオスに向かいかねないことも事実です。
現在、モンテ・パスキ破綻処理は飛び火していますが、まだイタリア国内に収まっています。ですが、これがイタリア国内だけに止まる可能性は極めて低く、なぜなら、それがEUという制度だからです。
今年、EUはあらたな危機を迎えます。それは、もはや金融危機に限りません。
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著者:高城 剛
1964年生まれ。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。毎週2通に渡るメルマガは、注目ガジェットや海外移住のヒント、マクロビの始め方や読者の質問に懇切丁寧に答えるQ&Aコーナーなど「今知りたいこと」を網羅する。
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