自分と意見が異なる人に対して、「それは違う」とばかりに正論を並べてばかりでは、到底解決には至りませんよね。こんな時、「交渉のプロ」でもある弁護士さんだったらどのように事を進めるのでしょうか。そんな疑問に、無料メルマガ『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』の著者で現役弁護士の谷原誠さんが、ご自身が体験したエピソードを上げつつ答えてくださっています。
頭の中で何が起こっているか
こんにちは。
弁護士の谷原誠です。
ある時、地方のホテルに泊まった際、こんなことがありました。
最近、私はトレーニングをすることが習慣になっています。そのホテルには備え付けのフィットネスジムがありましたので、利用しようと考えました。しかし、そのホテルは小さなホテルで、ジムは解放されておらず、ジムのドアには、鍵がかかっていました。従業員に開けてくれるよう頼んだところ、こういわれました。
「予約はされていますか?」
そのフィットネスルームは予約制のようです。私は残念ながら予約はしていません。
「ああ、予約制か。予約しておけば良かったな」
一瞬そう思いました。でも、待てよ。その時点では、部屋を誰かが使っている様子はありません。この後、すぐに予約者が来るのかもしれませんが、短時間でも空いているのならば使っても問題はなさそうです。
そこで私は、落ち着いてこう聞いてみました。
「では予約をお願いしたいのですが、今から1時間予約できますか?」
「確認します」
とフロントに戻った従業員。数分後、しばらくは予約が入っていないとのことで、カギを開けてくれ、私は無事トレーニングを行うことができました。
このやり取りは、考えてみると非常に奇妙です。予約を入れる、入れないは、フロントのシステム上のこと。私がフィットネスルームを今から使いたいと思っていることは明白なのですから、本来であれば、最初からその時間の予約の有無を確認すべきだと思われます。
とはいえ、従業員の方に悪気はないのでしょう。おそらくマニュアルに「予約が必要」と書いてあり、それを忠実に守っただけなのだと思われます。そのルールの是非はともかくとして、マニュアルに従うことは従業員としての務めでもあります。もしかすると、そのホテルでは普段フィットネスルームの利用者が少なく、「今から使いたい」といった利用客に、臨機応変に対応した経験がないのかもしれません。
何はともあれ目的を達した私ですが、最初の時点で引き下がってしまっては、部屋はがら空きのまま、なぜか入れないという変なことになるところでした。かといって「空いているんだから使わせろ!」と逆上しても、解決にはつながらなかったでしょう。おそらく、従業員は余計にかたくなになり「クレーマーが来た! このルールを守れない困った人に、どうお引き取り願おうか」としか考えなかったはずです。
なんてことのないエピソードですが、この出来事は、様々な対立、問題解決に共通して起こることだと思います。問題解決に必要なことは、起こっている問題を定義し直し、問題の本質はどこにあるのかを考えることです。
意見を異にしている人にも、その人なりの正しさがあります。その相手に自分にとっての正しさをぶつけるのではなく、相手の思考回路にできる限り入り、相手の価値観、相手がよって立つルールを理解したうえで、そのルールを自分のために解釈しなおし、利用するロジックを考えることが、問題解決の糸口になることがあるのだと思います。
今回は、ここまでです。
人生で成功するには、論理的思考を身につけること、他人を説得できるようになることが必要です。テレビ朝日「報道ステーション」などでもお馴染みの現役弁護士・谷原誠が、論理的な思考、説得法、仕事術などをお届け致します。
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