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今も周囲は敵だらけ。大統領なのにトランプ叩きが止まぬ理由

ヒラリー優勢と言われたアメリカ大統領戦で、堂々の勝利を収めたトランプ大統領。しかし先日行われた世論調査では早くも支持率が前政権の最低記録を下回り、内外からのトランプバッシングは止む気配がありません。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』メルマガの著者である北野幸伯さんは「大統領自身、アメリカの権力を把握しきれていない状態が続いている」と見ているようですが…、米政府内で今、何が起こっているのでしょうか。

いまだにアメリカを掌握しきれていないトランプ、敵は誰?

先日、中国主導AIIBの加盟国が、さらに13か国増え、70か国になったという話をしました。まだ読んでいない方は、こちらをご一読ください。

中国主導のAIIB、参加国が70か国に激増。日米さらに孤立

アメリカは、同盟国群親米国群に、「入るなよ!と命令していた。ところが、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国などが、続々とアメリカを裏切った

2015年3月に起こった「AIIB事件」。オバマはこれで目覚め、以後「中国強硬路線」に変わりました。ウクライナ、イラン、シリア問題で、ロシアとの協力関係を復活させた。しかし、2016年、大統領選が近づくにつれ米ロ関係は再び悪化していきます。これは、皆さん記憶に新しいことでしょう。

トランプの弱点は、「プーチン愛」

トランプは、選挙戦中から「過激なナショナリスト」と思われていました。例えば、

「アメリカとメキシコの国境に万里の長城を築く!」
「イスラム教徒の入国を制限する!」
「日本、NATO、韓国にもっと金を払わせる!」
「TPP脱退!」

これらの主張は過激ですが、大衆には喜ばれました。なぜ? 不法移民が大量に入ってくることで、元から住んでいる人の賃金が下がったり、失業したりする人がいる。イスラム教国から入ってくる人のうち、誰が「ISメンバー」で誰がそうでないのかわからない。

「日本、NATO、韓国は、アメリカに守ってもらっているのだから、金を出すのは当然!」
「TPPで、アメリカ人の職が奪われる!」

等々。トランプの言っていることは過激でも、とても「大衆受け」する。それで、彼が話せば話すほど人気が上がっていった

ヒラリーと、彼女を支持するオバマは、「トランプの弱点はどこだろう?」と考えた。すると、トランプは、一貫して「プーチンと和解したい。協力したい」と語っている。ヒラリーとオバマは、「これは使えるぞ!」と確信。そこで、以下のような「選挙戦略」を思いついた。

  1. 「プーチン悪魔化プロパガンダ」をする。
  2. トランプは、「(悪魔のような)プーチンの操り人形です」とプロパガンダする。
  3. だから、ヒラリーに投票してね!

先に「意図」があり、その次に「事実」と「ウソ」がある

私たちは、世界情勢をみる際、「最初に意図がある」ことを意識している必要があります。たとえば、皆さんご存知のとおり、イラク戦争の根拠は、イラクの独裁者フセインが、「大量兵器を保有している」「(9.11を起こしたとされる)アルカイダを支援している」でした。この二つの理由がウソだったことアメリカ自身も認めています。以下の記事を熟読してみましょう。

米上院報告書、イラク開戦前の機密情報を全面否定

 

[ワシントン=貞広貴志]米上院情報特別委員会は八日、イラク戦争の開戦前に米政府が持っていたフセイン政権の大量破壊兵器計画や、国際テロ組織アル・カーイダとの関係についての情報を検証した報告書を発表した。
(読売新聞2006年9月9日)

報告書は『フセイン政権が(アル・カーイダ指導者)ウサマ・ビンラーディンと関係を築こうとした証拠はない』と断定、大量破壊兵器計画についても、少なくとも1996年以降、存在しなかったと結論付けた
(同前)

では、一体何が本当の理由だったのでしょうか? 諸説ありますが、FRBのカリスマ・グリーンスパン元議長は、こんな衝撃的発言をしています。

「イラク開戦の動機は石油」=前FRB議長、回顧録で暴露

 

[ワシントン17日時事]18年間にわたって世界経済のかじ取りを担ったグリーンスパン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長(81)が17日刊行の回顧録で、2003年春の米軍によるイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露し、ブッシュ政権を慌てさせている。
(2007年9月17日時事通信)

グリーンスパン元議長が、「米軍によるイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露」した。これ、その辺の「トンデモ本著者」とか「陰謀論者」とは、重みが違いますね。この記事、ものすごく面白い続きがあります。

米メディアによると、前議長は「イラク戦争はおおむね、石油をめぐるものだった。だが悲しいかな、この誰もが知っている事実を認めることは政治的に不都合なのだ」と断言している。

 

ブッシュ政権は、当時のフセイン政権による大量破壊兵器計画阻止を大義名分に開戦に踏み切ったが、同兵器は存在しなかったことが後に判明。「石油資源確保が真の目的だった」とする見方は根強く語られてきた。
(同前)

グリーンスパンさんに言わせると、「イラク戦争の動機が石油利権だったこと」は「誰もが知っている事実」(!)なのだそうです。

もう一つ、比較的最近の例をあげておきましょう。2013年8月、オバマは、「シリアを攻撃する!」と宣言しました。理由は、なんでしたか? そう、「アサド軍が、化学兵器を使ったから」です。これに関連して、以下の記事、目をサラのようにして熟読してください。

2013年5月5日、AFP=時事。

シリア反体制派がサリン使用か、国連調査官

AFP=時事5月5日(月)配信

 

[AFP=時事]シリア問題に関する国連(UN)調査委員会のカーラ・デルポンテ調査官は5日夜、シリアの反体制派が致死性の神経ガス「サリン」を使った可能性があると述べた。スイスのラジオ番組のインタビューでデルポンテ氏は、「われわれが収集した証言によると、反体制派が化学兵器を、サリンガスを使用した」とし、「新たな目撃証言を通じて調査をさらに掘り下げ、検証し、確証をえる必要があるが、これまでに確立されたところによれば、サリンガスを使っているのは反体制派だ」と述べた。

どうですか、これ? 国連が調査した結果、化学兵器を使っていたのは、「アサド派」ではなく、「反アサド派だ!」と言うのです。

以上二つの例でわかることはなんでしょうか? アメリカは、イラクやシリアが「悪いことをしたから」攻撃するのではなく、「攻撃したいから」、後から理由をでっちあげた」のだ。つまり、最初に「攻撃したい」という「意図」があった。

私たちは、「アメリカは〇〇が悪いことをしたから仕方なく攻撃する」と考えている。つまり、「因果関係」が「正反対」になっているのです。

トランプ、プーチン関係の真実とウソ

ヒラリー、オバマの選挙戦略は、

  1. 「プーチン悪魔化プロパガンダ」をする。
  2. トランプは、「(悪魔のような)プーチンの操り人形です」とプロパガンダする。
  3. だから、ヒラリーに投票してね!

イラク、シリアに関して、アメリカブッシュとオバマ世界にむけて堂々とウソをついた。ということは、「プーチン悪魔化オペレーション」についてもウソを使うことは、十分あり得ます。正直言えば、「ウソとホントを混在させる」ことで、「どこまでがホントで、どこまでがウソ」かわかりづらくしている。

たとえば、2月13日に辞任したフリン大統領補佐官は、政権発足前に駐米ロシア大使と接触していた。これは、事実でしょう。しかし、「プーチンがアメリカの選挙結果を操作した」という話。日本のメディアは、米英メディア経由の情報しか入ってこないので、皆さん「絶対的真実」と考えているでしょう。ところが、以下のような話もあります。

最近話題になった、ウィキリークスの暴露について。その全体像を、高島康司先生が、すばらしく解説してくださっています。

暴露された米CIAの「監視・盗聴技術」と森友スキャンダルを繋ぐもの=高島康司

この記事から、ロシアに関わる部分を引用してみましょう。

CIAは、ロシアが開発したマルウェアを自分のものとして使いハッキングした。

 

マルウェアはCIAが使ったとしても、開発者がロシアであることを示す指紋を残す。

 

もしこのウィキリークスの情報が正しければ、民主党本部のサーバがロシアによってハッキングされ、その情報がウィキリークスに流されたという非難はでっちあげである可能性が出てくる。ロシア製マルウェアをCIAが使っているのであれば、民主党本部のサーバをハッキングしたのは、実はCIAである可能性がある。

現在までのところ公開されたリークで、今後大きな問題になると考えられるのは(2)だ(=CIAは、ロシアが開発したマルウェアを自分のものとして使いハッキングした。マルウェアはCIAが使ったとしても、開発者がロシアであることを示す指紋を残す)。

 

CIAが、ロシアの開発したマルウェアを使っており、それがロシア製であるとの指紋を残すとすれば、いま民主党と主要メディアがさかんに攻撃している「ロシアによる民主党全国委員会サーバへのハッキング」は、実際はトランプを引き下ろしたいCIAが行った可能性が出てくる。

要するに、「プーチンがアメリカ選挙に干渉したのではなく、CIAがプーチンのフリをして干渉したのだ」と。

「…陰謀論だ!!!!」

確かに。しかし、「イラク問題」「シリア問題アメリカが大ウソをついていたことは事実です。そして、そのことを、「日本国民の99.9%は知らない」というのも、また事実。ですから、「アメリカさんが言うのだから、本当なのでしょう」と妄信するのはナイーブすぎるかもしれません。

戦いは、アメリカで起こっている

現在、トランプと敵対している勢力は、誰なのでしょうか?

1.アメリカ民主党

これは、当然ですね。聞いた話でホントかどうかわかりませんが、オバマとヒラリーは引退せず、「反トランプ工作」を指揮しているとか。

2.アメリカ共和党の一部

共和党の中にも、トランプが「親ロシア」「親プーチン」であることを嫌っている勢力があります。たとえば、元大統領候補のマケインさんなど。

3.マスコミ

トランプさんは、「CNN」「ABC」「ニューヨーク・タイムズ」等を、「偽ニュースばかり流している!」と批判している。これらのメディアは、選挙戦中、露骨に「反トランプ」「ヒラリー支持」でした。トランプが大統領になってからも、変わらず「反トランプ」をつづけています。

4.国際金融資本

ダボス会議に出席するような国際金融資本は、当然「グローバリスト」。それで、「ナショナリスト」「保護貿易主義者」のトランプを嫌っています。たとえば、ソロスは、「トランプは失敗する!」と断言しています。

5.諜報機関

トランプは、「イラク戦争」など、「諜報機関の失敗」を批判してきました。諜報機関も、「反トランプ」になっています。

一つの証拠は、フリンさんの辞任ですね。フリンさんの辞任は、彼とロシア大使の電話の内容が問題になったからです。誰が「フリンーロシア大使電話会談」を盗聴したのでしょうか?

というわけで、トランプさんの現状は、「まだ国内で権力を掌握できていない状態」である。とても「特殊だ」と感じるのは、大統領選挙が終わった時に、「リセットされなかったことです。普通は、大統領選の勝者が決まれば、そこで一旦戦いは終わる。新大統領、最初の100日は批判を控え、好きにやらせてみる。

しかし、トランプさんの場合、「選挙前」と「選挙後」でほとんど状態が変わっていません。民主党、共和党の一部、マスコミ、国際金融資本、諜報が、かわらずトランプバッシングを続けている(その際、プーチンは、しばしば「ネタ」「ダシ」にされている)。

現在、全世界どこを見ても、「安定した政権」はないです。私たちも、「今は1930年代並に変化が激しい情報不足と判断ミスが命取りになる」と自覚し、日々世界情勢をみていきましょう。

image by: Marie Kanger Born / Shutterstock.com

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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