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韓国にいる米国市民12万人に「退避」警報は届いているのか?

米国による北朝鮮への軍事圧力が日に日に増しています。朝鮮半島沖に展開する米空母カール・ビンソンの軍事力などが連日報道される一方で、これだけの危機を煽りながら、在韓の米国人に退避行動を促していない現状から「米は北を攻撃する意思は無いのではないか?」と予測する専門家も少なくありません。メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、この意見を「もっともである」と肯定しながら、9.11の前例を紹介し、米国人には既に「情報」が通達されている可能性を指摘しています。

韓国にいる米国市民には警報が届いている?

北朝鮮の核実験と弾道ミサイル発射に向けて、米国の軍事的圧力がぐんぐん増している印象があります。

これまで述べてきたように、トマホーク巡航ミサイルによるサージカル・ストライク(精密誘導兵器を使った重要目標へのピンポイント攻撃)の態勢はできあがっていると考えてよいでしょう。

メディアは南シナ海から針路を朝鮮半島に変更した空母カール・ビンソンばかりに目がいっているようですが、それ以前に横須賀を母港とする空母ロナルド・レーガンの打撃群のイージス艦12隻と巡航ミサイル原潜の約500発が北朝鮮全域を射程圏内に収めていることを忘れてはなりません。

ここにカール・ビンソンの打撃群が加われば、トマホークの数は少なくとも700~800発になる可能性があります。

二つの空母打撃群が搭載している戦闘機も、定数だと120機にものぼります。小さな国の空軍力を上回る戦力です。

米空軍のゴールドファィン参謀総長も14日、自分のツイッターに嘉手納基地に勢揃いしたF15戦闘機などが整列した写真を掲載し、「このすばらしい戦闘空軍力のディスプレーを見よ! 戦闘態勢だ!」と、米空軍のトップとしては異例のツイートをしています。

こうした米国側の軍事的圧力に対して、軍事力の行使はないのではないかと言う見方もあります。

その見方の根拠は、韓国在留米国関係者12万人以上に対するNEO(非戦闘員退避行動)が実施されていないことです。使える軍事力を突きつけてはいるものの、北朝鮮側の主にソウルに対する火砲による反撃だけでも甚大な損害が出ると予想されるのに、本気で軍事力を行使するのにNEOを実施しないわけがない、というわけです。

NEOには戦争のほか災害時などについての計画もあり、福島第1原発事故の時にも実施されました。

私が知っている計画は朝鮮半島での戦争に関するものですが、12万5000人の米国関係者を10日ほどかけて、航空機でグアムに避難させるというものです。

NEOの動きは1か月前から始まり、北朝鮮は米国が本気で戦争を始める気になっていると感じるわけで、譲歩を強いるための圧力にもなるというものです。

その動きが今回は感じられないことで、米国が軍事攻撃をしない可能性もあるとの見方も出てくるのももっともではあります。

私もその通りだと思う人間の一人ですが、ひとつだけ気になっていることがあるのです。

2001年9月11日の米国同時多発テロの時、米国が自国民の安全のために出した警報と同じものが出されていないかという点です。

9.11の時、米国はよもや自国本土が攻撃されるとは思っていなかった結果、アルカイダによる大規模テロを許すことになってしまいました。しかし、米国関係施設などへのテロについては事前に察知し、その標的が韓国と日本だということで、メディア関係者を含む自国民に警報を出していたのです。

大規模テロを防ぐことができなかったのですから、なにを言っても言い訳にしか聞こえないかも知れませんが、場所を特定できなかったとはいえ、事前にテロを察知した米国の情報能力の高さは、大規模テロ直後に実行犯19人を割り出したことからもうかがい知ることができます。

9.11の直前、政府からの警報を受け取ったメディア関係者を含む米国市民は、誰一人としてそれを口外することなく同時多発テロの日を迎えたのです。

今回もまた、ソウル在住の米国市民に警報が出され、直ちに地下施設などに避難する態勢にあるとしても、外部からはうかがい知ることはできないでしょう。

日本国民としては、なにが起きても驚かないよう腹を決めて不測の事態への心づもりをするしかないのです。

(小川和久)

image by:Shutterstock

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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