5月9日に行われた韓国大統領選で圧勝した「共に民主党」の文在寅氏。これにより、朴政権まで9年に渡って続いた保守政権から、進歩系と呼ばれる革新政権へと変わります。また、文氏は一部メディアで「反日姿勢」を見せていると報道されており、日韓関係の今後も懸念されています。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者の北野幸伯さんが、文在寅氏の外交姿勢などを鑑みながら、対日本、アメリカ、中国、北朝鮮との今後を占います。
文在寅新大統領で、韓国はどうなる?
韓国で5月9日、大統領選挙がありました。結果は、「共に民主党」の文在寅さんが得票率41%で勝利。新大統領誕生で、韓国はどうなるのでしょうか?
文在寅さんとは?
文在寅さんの経歴を知っておきましょう。
1953年生まれの64歳。彼の両親は、朝鮮戦争が勃発した1950年、北朝鮮から韓国に逃げてきました。両親がゼロからスタートせいでしょう。幼少時代は、とても貧しかったそうです。
文在寅さんは、慶煕大学校法学部に入学。当時は、朴槿恵前大統領のお父さん朴正煕大統領の時代でしたが、文さんは、反政権デモに参加し、逮捕されたりしていました。
1980年、司法試験に合格。1982年、文さんの人生を変える、大きな出会いがありました。弁護士の盧武鉉(ノ・ムヒョン)と知り合ったのです。文さんが知りあった20年後、廬武鉉さんは、大統領になっています。文さんは廬さんの弁護士事務所に入り、民主化運動にも参加するようになりました。
前述のようにボスの廬武鉉は2002年、大統領選で当選。文さんは、大統領の「右腕」として活躍するようになります。廬武鉉政権の後期、文さんは「大統領秘書室長」になり、大きな力を持っていました。
順風に見えた文さんの人生。しかし、08年に廬武鉉が引退すると、一転苦難の時代がやってきます。09年5月、なんと廬武鉉が自殺。09年8月、廬武鉉の前に大統領だった金大中が亡くなります。文さんは、金大中にも可愛がられていた。その金さんが亡くなる前、文さんに「政権交代をはたしてほしい」とお願いした。それで、文さんは、「政治家になる」ことを決意したそうです。
文さんは2012年、民主党から大統領選に出馬。皆さんご存知のように、朴槿恵さんに敗れました。しかし、今回の選挙では、見事勝利しました。
北朝鮮には、懲りずに「太陽政策」?
次に、文新大統領の外交についてみてみましょう。北朝鮮については、「かなり融和的」と見られています。彼は10日の就任演説で、「条件が整えばピョンヤンにも行く!」と宣言しました。
ところで、「北朝鮮融和政策」のことを「太陽政策」といいます。文さんと仲が良かった金大中大統領と廬武鉉大統領が行った。二人が韓国を治めたのは1998年~2008年。つまり、「太陽政策」は、10年間続いた。で、どうだったのでしょうか?
結果は、散々だったのです。北朝鮮は2003年、核拡散防止条約(NPT)から脱退。05年には、「核兵器保有」を宣言。そして、06年には、初めての地下核実験を実施します。つまり、北朝鮮は、韓国が「太陽政策」している間に、核兵器保有国になってしまった。
文さんは、廬武鉉の右腕だったので、「失敗した」事実を理解してそうなものですが…。「失敗した政策を、また繰り返す」というのは、愚かです。
米中との関係は?
皆さんご存知のように、韓国はアメリカの軍事同盟国。しかし、アメリカと中国の間を行ったり来たりしています。
廬武鉉さんの後、韓国の大統領になったのは、李明博さん。大統領になって半年後にリーマンショックが起こった。これで、世界的に「アメリカは沈み、中国の時代がくる」という見方がひろがりました。そのため、李さんも、次の朴槿恵さんも、中国をアメリカ並かそれ以上重視するようになった。
特に朴槿恵さんは、露骨に中国に接近していきます。世界中で日本の悪口をいう、いわゆる「告げ口外交」で、中国の「反日統一共同戦線戦略」を支えました(驚愕、反日統一共同戦線戦略とは?→「反日統一共同戦線を呼びかける中国」)。
しかし、朴さん、末期には日本、そしてアメリカとの和解に動いた。これは、「中国は、北朝鮮から韓国を守ってくれない」ことを理解したからといわれています。2015年12月28日、慰安婦合意で日本と和解。
2016年1月6日、北朝鮮は、核実験を行いました。2016年7月、韓国は、THAAD配備を決定。これで、中国と韓国の関係は最悪になってしまいます。中国は、「文ならTHAAD配備を見直してくれるのではないか」と期待している。習近平は10日、文さんに祝電を送っています。
習主席、文在寅氏に祝電 「中韓両国は重要な隣国」
朝日新聞デジタル 5/10(水)13:36配信
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は10日、韓国大統領選で当選した文在寅(ムンジェイン)氏に祝電を送り、「政治的な相互信頼を強めて対立点を適切に処理し、健全で安定した両国関係の発展を推進したい」と呼びかけた。
国営新華社通信などが伝えた。朴槿恵(パククネ)前政権で米軍による高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD〈サード〉)の韓国配備をめぐり険悪化した中韓関係の改善への期待感を示した。
要するに習近平は、「THAADを撤去すれば、仲良くしてやるぞ!」と言っているのですね。逆に「THAAD配備をそのまま続ければ、関係は悪いまま」。文さんは、米中に挟まれて大変ですが、どういう決断を下すのでしょうか?
日韓関係は?
安倍総理は5月9日夜、当選した文さんに、「お祝いコメント」をしています。
<韓国大統領選>安倍首相が文在寅氏にお祝いのコメント
毎日新聞 5/10(水)0:34配信
安倍晋三首相は9日深夜、韓国大統領選で文在寅(ムン・ジェイン)氏が当選したことを受け、お祝いのコメントを発表した。
首相は「日韓両国は戦略的利益を共有する最も重要な隣国だ」と強調。「北朝鮮問題への対応をはじめ、日韓両国は共通の課題に直面している」と指摘し、両国が協力する重要性に言及した。
さらに「できるだけ早い機会にお目にかかり、共通の関心事項について率直に意見交換できることを楽しみにしている」と早期の首脳会談実現に意欲を示した。
「あたたかいコメント」ですね。
ちなみに文さん、「慰安婦合意」について、「日本の法的責任と公式謝罪が盛り込まれていない協議は無効だ」「正しい合意ができるよう日本との再交渉を求める」などと、発言しています。「またか……」とうんざりする人も多いことでしょう。こう発言しているということは、「蒸し返してくる可能性が高い」ということですね。
歴史の教訓は、「日本が韓半島でイニシアチブをとるとロクなことがない」ということ。今、北朝鮮問題は、アメリカと中国が中心になってやっています。日本は、アメリカの後ろにいて、「共同歩調」をとっていくのが良策でしょう。主人公にならないように。しかし、北朝鮮問題を「ダシ」にして「軍事の自立」に向かうのは正しい方向です。そして、韓国については、基本「アメリカを通して」やったらいいと思います。
日韓関係は、2012年李大統領が竹島を訪問し、「日王は謝罪せよ!」と発言してから、極度に悪化しました。2015年末の慰安婦合意以降、関係は改善してきています。しかし、2012~2015年、日韓関係が最悪であっても、日本が困ることはありませんでした。(「慰安婦像を世界中に建てよう!」運動に激怒した人は多いと思いますが…)。
「日本は、朝鮮半島問題で主人公にならない」
「朝鮮半島問題は、アメリカと中国にやってもらう」
「日本は、韓国との関係が悪化しても、困らない」
というわけで、日本は、礼儀正しく、穏やかに、かつ国益を譲らず韓国に対応していけばいいでしょう。「かかわりすぎない」というのが基本です。