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「内定」中なのに、「研修へ来い!」の命令は断ってもいいのか?

何社も受けて、ようやく勝ち取った内定通知。ところが、後日「内定者向けの研修」の知らせが。まだその会社の社員になったわけでもないのに、参加しなければならないのでしょうか。逆に会社側は、内定者に研修参加を命じることはできるのでしょうか。こんな疑問に、無料メルマガ『採用から退社まで! 正しい労務管理で、運命の出会いを引き寄せろ』の著者で現役社労士の飯田弘和さんが、ズバリお答えします。

御社の就業規則には、教育訓練の定めがありますか?

御社では、必要に応じて、従業員に対して教育訓練を行っていると思います。入社時はもちろん、キャリアに応じて適切な時期に、教育訓練を行っているのではないでしょうか。

教育訓練を受けさせることは、業務命令の1つであるので、会社側に裁量権があります。教育訓練を行う時期や内容、方法などは、会社の判断で自由に行えます。

ただし、この教育訓練が問題となる場合があります。

まずは、問題となる1つ目。内定者に対する教育訓練研修)について。内定とは、「入社日から労働契約の効力が発生し始めるので、それまでの間に何か問題が発生した場合にはこの労働契約を解約しますヨ」という契約が成立した状態です。入社の予約ですネ(カッコつけて社労士っぽく言うと、「始期付き解約権留保付き労働契約が成立したもの」とか言うらしい…)。この「内定中に教育訓練を命じることができるのかが問題となります。

答えは、「NO! できません!

内定とは、まだ予約の段階であり正式な従業員ではないので、そのような人間に対して業務命令を行うことはできません。どうしても教育訓練を行うのであれば、内定者の任意の同意」に基づいて行うしかありません。

もし、内定者に対して教育訓練(研修)の受講を強制し、不参加を理由に内定の取り消しを行ったり、研修中の出来事(たとえば受講態度が悪かったとか、成績が低かったとか)を理由に内定取り消しを行えば、違法となります。

※「内定取消し」は、解雇と同様に扱われますので、解雇事由に該当するような「客観的で合理的な理由」と「社会的な相当性」が必要です。

問題となる2つ目。教育訓練の命令が権利濫用となる場合について。これは、裁判例をご紹介します(JR東日本事件)。労働組合のマーク入りのベルトを着用していた従業員に対して、教育訓練と称して就業規則の全文の書写しを命じた事件です。これに対して裁判所は、「違反が軽微であるのに対して、就業規則の全文書写しは、肉体的・精神的苦痛を与えるものであり、合理的教育的意義を認め難く、必要性も見い出し難い」として、権利濫用及び人格権の侵害があったとして、損害賠償を命じています。

この裁判でのポイントは2つ。

  1. 教育訓練の時期・内容・方法等は、教育訓練の目的に照らして不合理であってはダメ!
  2. 実施にあたっては、従業員の人格権を不当に侵害するようなものはダメ!

この事件は、教育訓練に名を借りた懲罰目的の嫌がらせ的な命令であり、いわゆるパワハラ行為です。したがって、人格権侵害として、会社は損害賠償責任を負うことになってしまいました。

くれぐれも、教育訓練を行うときは、健全な目的で行って下さい。御社の従業員としてふさわしい人に育てていくことが本来の目的のはずです。目的を逸脱したり権利濫用はいけません

以上を踏まえて、あらためてお聞きします。

「御社の就業規則には、教育訓練の定めがありますか?」

image by: Kobby Dagan / Shutterstock.com

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就業規則とは、入社から退社までの「ルールブック」であり、労使トラブルを未然に防ぐ「ワクチン」であり、効率的な事業運営や人材活用を行うための「マニュアル」でもあり、会社と従業員を固く結びつける「運命の赤い糸」でもあります。就業規則の条文一つ一つが、会社を大きく発展させることに寄与し、更には、働く人たちの幸せにも直結します。ぜひ、この場を通じて御社の就業規則をチェックしていただき、問題が生じそうな箇所は見直していただきたいと思います。現役社会保険労務士である私が、そのお手伝いをいたします。

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【著者】 飯田 弘和 【発行周期】 週刊

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