前回掲載の「中国の罠にハマらぬよう、日本が意識すべき「米中との距離感」」では、日本が米中と今後どのように距離をとっていくべきかということについて詳しく解説してくださった無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係研究者の北野幸伯さん。今回は、中国の弱点を分析しながら、日本が真面目に考えるべき「対中戦略」を考察するとともに、中国が南シナ海を狙う理由についても記しています。
南の対中戦略、北の対中戦略
わが国日本は、「平和を希求」しています。しかし、すべての国が平和を希求しているわけではありません。わかりやすいのは、隣の超大国中国です。この国は、ロシアと韓国に、「反日統一共同戦線をつくって、日本をぶちのめそう!」と提案しています。必読絶対証拠はこちら。
仕方ないので、日本も対策を講じる必要がある。今回は、「南の対中戦略」「北の対中戦略」を完璧に理解しましょう。
中国の弱点
中国は、強力な国です。GDPでも軍事費でも世界2位。しかし、弱点もあります。この国は、石油を中東から入れているのです。で、中東から中国にいたる海路は、アメリカに支配されている。
米中対立が激化したとしましょう。すると、アメリカは、中国に石油が入らないようにすることができる。そうなると、中国は、「ABCD包囲網」にやられた日本と同じ状態になります。
中東と中国のど真ん中に、大国インドが位置していますね。それで、日本やアメリカが中国に勝とうと思えば、インドとの関係がとても重要。インドと結んで、中東→中国の原油の流れをカットできる状態をつくっておくこと。これが、「南の対中戦略」になります。
賢い中国は、対策をとる
ちなみに、「有事の際、中東からの原油がとまるかもしれない」というのは、日本も同じです。だから日本は、国家を挙げて、「エネルギー自給率アップ」に取り組まなければならない。しかし、そんな話は聞きませんね。唯一、青山先生が、「メタンハイドレート開発を急げ!」と叫んでおられます。
一方、中国は、日本と違って「平和ボケ」していません。それで、きっちり対策を練り、実現に向かって動いています。対策とはなんでしょうか?
まず「中東に匹敵する量の資源が眠っている」とされる南シナ海を支配することです。南シナ海を中国の内海化し、せっせと資源開発に励む。これで、わざわざ中東から資源を入れる必要がなります。
もう一つは、「北ルート」。つまり、ロシアから、石油・ガスをどんどん輸入する。いくらアメリカでも、ロシア→中国の石油、ガスの流れをカットできないでしょう?
もう一つは、「西ルート」。これは、カザフスタン、トルクメニスタンなど中央アジア諸国から石油・ガスを入れていく。
戦略に長けた中国は、着々と自国の弱点を克服しつつあります。では、「北の対中戦略」とは何でしょうか? これは、ロシアと和解することで、ロシア→中国の石油・ガスの流れをカットできる状態をつくることです。
現状は?
現状はどうなのでしょうか? うまくいっているとは、とても言えない状況です。
まず「北の対中戦略」はどうでしょうか? 確かにトランプは、親ロシアです。しかし、アメリカで「ロシア・ゲート」が盛り上がり、トランプはプーチン・ロシアと和解できない状況になっている。米ロ関係は現状、「オバマ時代よりさらに悪い」と言われています。それで、ロシアは、ますます中国に接近している。実際、中ロは現在、「事実上の同盟関係」にあります。
私は10年前、『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』という本を出しました。今頃になって、中ロ関係について、「よくわかりましたね!」などと褒められます。褒められても、心境は複雑。私の予測が当たっているということは、「北の対中戦略がうまくいっていない」ことを示しているのですから。
では、「南の対中戦略」はどうなのでしょうか? こちらは、「北の対中戦略」と比べればずいぶんマシです。なんといってもインドは、日本、アメリカと同じ民主主義国家である。インドと中国には領土問題があり、インドはかなり中国を警戒している。
そうはいっても、まったく油断できません。インドは2015年、中国・ロシアが主導する反米の砦「上海協力機構」の正式加盟国になっています。日印関係、米印関係は、良好。しかし、ロ印関係もいい。そして、賢明なインドは、中国ともケンカにならないよう、かなり気を使っているのです。
「南の対中戦略」を成就させるためには、日米の長期にわたる一貫した取り組みが必要になります。そして、「戦略」といっても中国に対して攻撃的であったり、挑発したりするべきではありません。
日本は、インドやロシアと経済交流、軍事交流を深め、関係を強化していく。そうすれば、自然と中国は侵略に動けなくなっていきます。
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