安倍総理が昨夏に提唱した「インド太平洋戦略」をアメリカは大いに気に入った様子で、トランプ大統領もたびたび使うようになりました。そのことを詫びたティラーソン国務長官に対して、日本の河野外相は「どんどん使ってくれ」と大歓迎。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際政治に詳しい北野幸伯さんは、「河野外相ナイス!」と大絶賛した上で、その理由を記しています。
インド太平洋戦略の「知的所有権」は、アメリカにくれてやれ!
インド太平洋戦略、さらに進展しました。
<日米豪印>インド太平洋で結束 中国をけん制
毎日新聞 11/13(月)23:33配信
【マニラ高本耕太、朝日弘行】マニラ訪問中の安倍晋三首相は13日、トランプ米大統領、ターンブル豪首相との日米豪首脳会談に臨んだ。日米両国は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を掲げ、オーストラリア、インド両国との連携を強化する方針。
日本とアメリカは、オーストラリア、インドを「インド太平洋戦略」に入れたいのですね。トランプさんは、インドのモディさんにも会っています。
また米印首脳会談でモディ氏はトランプ氏に対して「アジアの未来のため共に歩む」と協調姿勢を示した。
(同上)
ちなみに、この「インド太平洋戦略」、考案したのは安倍さんなのです。
インド洋から西太平洋にまたがる広い地域で民主主義や法の支配に基づく秩序を構築するとのインド太平洋戦略は、もともとは日本が提唱していた。
(同上)
具体的にいうと、2016年8月、ケニアで開かれたアフリカ開発会議(TICAD)の基調演説で、安倍総理は、初めてこの言葉を使った。ところが、アメリカ側は、「ワオ! センスいいじゃないか!?」と思ったのでしょう。トランプさんは、あたかも「俺が考え出した戦略だぞ!」という感じで、バンバン使いはじめました。
トランプ氏の5日からのアジア歴訪でも、トランプ政権のアジア政策の中核的な概念として繰り返し言及している。
(同上)
「繰り返し」使っているのです。ちなみにティラーソンさんも、使っています。産経新聞11月12日を見てみましょう。
安倍首相が昨年8月に提唱したインド太平洋戦略は、河野太郎外相らが共有を呼びかけていた。これに米側が応じ始めたのは今年の10月中旬。ティラーソン米国務長官が講演で、自由で開かれたインド太平洋の重要性を強調した。
「勝手に使って悪かった」
「いいんだ。どんどん使ってくれ」
今月上旬、ティラーソン氏が借用をわびると、河野氏はこう歓迎した。
ティラーソンさんは元エクソン・モービルのCEOで、スーパービジネスマン。それで、「知的所有権は日本にあるのに、勝手に使用してごめんなさい」という意味で詫びた。河野さんは、実にナイスな反応をしました。
「どんどん使ってくれ!!!」
なぜ、これがナイス?????
目指すは、「アメリカ中心」の「対中バランシング同盟」
この前も書きました。アメリカ、インド、オーストラリアは、「インド太平洋戦略」に同意しています。しかし、これらの国々の首脳は、「反中と親中」の間で、ゆらゆらしている。
トランプさんは、「私は、彼が大好きだ!」「彼は、毛沢東よりも偉大だ!」などと、習近平を大絶賛しています。モディさんは、日米といい関係を保っている。その一方で、インドは2015年、中国、ロシアが主導する「反米の砦」=「上海協力機構」(SCO)の正式加盟国になった。オーストラリアのターンブル首相は、「親中」です。
他国がこんな感じなのに、日本だけが反中でガンガン攻めれば、孤立します。トランプ、モディ、ターンブル「ちょっと安倍さん、そんなにマジにならないでよ!」「俺たちは、中国と金儲けもしたいんですからね!」と。
では、どうするか? トランプさんに「インド太平洋戦略」を主導してもらえばいい。トランプが、「インド太平洋戦略、ガンガンいくぜ!」と言ったら、安倍さんは、「そうだ、そうだ!」。トランプが、「やっぱ、北朝鮮問題で習近平の協力がほしいからインド太平洋戦略、お休みね!」と言ったら、安倍さんは、「そうだ!そうだ!」。これなら、
- トランプさんは、「インド太平洋戦略」を主導する立場なので、プライドが満たされる。
- 安倍さんは、戦略を主導していないので、中国の憎悪と反撃を受けなくてすむ。
というわけで、ティラーソンさんが、勝手に「インド太平洋戦略」という用語を使ったら、「いいんだ!ドンドン使ってくれ!」というのが正解なのです。
え~「インド太平洋戦略」に中国を入れる?????
さらに、安倍さんは、とても面白いことを言っています。毎日新聞11月15日。
トランプ米大統領と合意した「自由で開かれたインド太平洋戦略」の推進に関し、14日夜のフィリピンでの記者会見では「この地域の平和と安定に向け、日本と中国が協力を深化させていく必要がある」と述べ、中国も排除しない考えを示した。
面白いですね~。中国に向かって、「対中包囲網に入りませんか?」と言っている。これって、アメリカの金融覇権を脅かすAIIBに、中国が「アメリカも入りませんか?」と勧めているようなものです(実際、勧めています)。
しかし、安倍総理のこういう発言で、中国の怒りは緩和されます。日本では、「中国に勝つ方法」というと、「大軍拡を!」とか、「核武装を!」とか「勇ましい」論が好かれます。しかし、中国の軍事費は、日本の4.6倍。さらに、相手は核兵器大国です。こんなもん、まともに戦ったら、勝てるわけがないでしょう?
だから、安倍総理のように、誰とも争わないよう努力しながら、ゆっくり着実に目的を達成していくのです。
image by: 首相官邸