先日掲載の「痩せると話題のバターミルクコーヒーを科学者が作って飲んだ結果」で、実際にバターミルクコーヒーを飲み、空腹感が消えるのを感じたという科学者のくられさん。今回の無料メルマガ『アリエナイ科学メルマ』では、このコーヒーと大きく関係しているという「レプチン」の減量効果について、最新の研究を取り上げながらわかりやすく解説しています。
レプチン
先日の記事で紹介したバターミルクコーヒー。提唱者の人は怪しいことも間違ってることも本に書いてますが、あってることもあって、特にレプチンの働きに気がつき、レプチンをハックすることこそ、ダイエットの本道であるという感じに落ち着いたのは流石な部分だと思います。
そもそもレプチンってなんなんでしょうか? レプチンという物質こそ、真の肥満治療のキーホルモンと言われているもので、この物質が一体どんなものなのか、最新の研究の話題をお話しましょう。
脂肪細胞には、白色脂肪細胞というものと、褐色脂肪細胞に分かれます。この常に働いている褐色脂肪細胞に対して、白色脂肪細胞は長い間、まさに怠けもののごとく体にのさばるだけの細胞と考えられていましたが、実は交感神経や内分泌系の制御下で褐色脂肪細胞の手助けをしたり、糖質の代謝や脂質の代謝に大きな役割を持っていることが分かってきました。
そして1994年に、クローニングされた白色脂肪細胞から「レプチン」と呼ばれるホルモンが発見され、それが脳内の視床下部というところにあるレセプターに働きかけると、食欲が低下し、満足感を得ることが分かってきました。つまり、レプチンを血中に増やせば、節食量を減らしても十分な満足感を得ることができ、ストレスなくダイエットを行うことができると考えられるわけです。
マウスの場合は脳に直接レプチンを注射すれば痩身効果があることが実験で確認されています。とはいえ人間ではそんなことはできませんので、現在、臨床実験でレプチンを通常血中の20~30倍の濃度にするレプチン注射を行うことで、多くの患者で、24週で最大10キロもの減量を行うことができることが確認されています。
しかし、レプチンは非常に高価ですし、注射でダイエットという時点で普及は難しいものがあります。
じゃあこのレプチンってどうやってコントロールすればいいのか?
レプチン(白色脂肪細胞で作られる)
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レプチンレセプター(視床下部にある)
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満腹満足感
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食欲低下
超簡単にしたレプチンの働きはこんな感じです。実際に人間のレプチン濃度がBMIとも大きく関係していることも分かってきてます。血中レプチン濃度と体型が比例グラフに近い偏差で出ていることも知られています。
じゃあなおさらレプチンを注射しまくってガンガン痩せたい! と考える人もいるかもしれませんが、さにあらず。人間は大脳が非常に大きいので、脳に働く成分の効き目はかなり動物より変わった感じになります。
レプチンは脳内に入って始めて効果のあるものなので、実際にレプチンを注射してもそれが脳に行かなければまったくもって効果を発揮しません。
このことから、人によってすぐに「お腹がいっぱいになる」人ととそうでない人がいるのは、これらレプチンのようなホルモンが正常に脳にすばやく伝えられる人であり、そのレプチンの転送が遅かったり、緩慢な人はいくら食べてもなかなか満足感を得られず、ぶくぶく太るんだ…という個人差でもあるわけです。
また脳に入り、レセプターと結合したレプチンからは、食欲抑制だけでなく、交感神経を活性化し、活力を生み出し、代謝が後手後手にまわりがちな糖脂質の分解も促進し始めます。さらに血圧を高めたり、生殖ホルモンのマスターホルモンとして機能していることもわかってきました(マラソン選手などの極度にBMIが低い女性では、無月経や不妊症になる場合があるのはレプチン不足だからと言われています)。なので健康的な体型維持には最低限の脂肪細胞もまたレプチンのために必要であるとも言えます。
特に一部の女性が求める棒人間のような体型に拒食症で至る例では、体脂肪が少なすぎて、正常な満腹感の取り扱いマニュアルを紛失して、拒食症がなかなか治らなかったり、治っても今度は異常に太りやすくなったりと、ロクなことが起こらないのも、こうした本来のバランスを崩してしまった結果ともいえるわけです。
つまり、もしレプチンを安く大量生産できたとしても、レプチンを注射しても、その場しのぎの減量にしかならないということです。
なので、このレプチンの代謝をうまくハックしたのが、中鎖脂肪酸を使った方法ですが、さらに運動なんかも合わせて、体の「健康的な」バランスを保つことが最も大事な要素と言えます。
ようするに「また運動すればいいというオチじゃねえか」というのは気のせいです(笑)。
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