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なぜ最高裁は理事会がマンション理事長を解任できると判断したか

福岡県のマンション管理組合の理事長だった男性が、理事会で「解任」されたことを不服として起こした裁判で、その解任を有効と認めた最高裁の判断が波紋を呼んでいます。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では著者でマンション管理士の廣田信子さんが、このような解任劇が起きる背景を紹介するとともに、今回の判断に対する「疑問」を記しています。

理事会の多数決で理事長解任…それで理事会運営はできる?

こんにちは! 廣田信子です。

12月18日、注目の最高裁判断が示されました。読売新聞によると、管理組合の理事長を解任できるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷は「解任できるとする初判断を示し、その上で、解任を認めなかった2審判決を破棄し、審理を福岡高裁に差し戻しました。

判決によると、福岡県久留米市のマンション管理組合の理事長だった男性が、2013年、建物管理会社の選定を巡って理事と対立し、理事会で「解任」され、提訴したものです。

この管理組合の規約に理事長の解任手続きの規定がなく、1審・福岡地裁久留米支部と2審・福岡高裁は「解任は無効と判断していました。これに対し、第1小法廷は、「理事長は理事会の決議で選任されたのだから、理事の過半数の一致で解任し別の理事を新たな理事長に選任できる」と指摘し、理事会決議の手続きに問題がなかったかどうか、という点について、さらに審理を尽くすべきだとしたものです。

11月30日に最高裁が双方の意見を聞く弁論を開くとされたときから、上告審の弁論は二審の結論を変更する際に開かれるのが通例なので、「解任できる」と判断が変わる公算が大きいとされていましたが、その通りの結果となりました。

標準管理規約では、理事は総会で選任し理事会で役職を決めることになっていますが、解任については規定がなく、これまでも、理事長の解任を巡っての争いは少なくなく、法律の専門家の間でも解釈が分かれていました

選任が理事会でできるという規約の規定なのだから解任もできるはずという考え方と、規約に規定がないものは、区分所有法に戻って考えるべきで、区分所有法は理事長=管理者の解任は総会の決議によるとしているのだから、解任には総会の決議が必要という考え方です。

標準管理規約で、理事の役職は理事会で決めるとなっているのは、役職の交代が迅速にできないと運営上困るという管理組合の事情も配慮されてのことだと思います。解任というようなものでなくても、理事長が転勤や入院等で務められなくなれば、理事長の交代も避けられません。その度に、総会を開くのはたいへんなので、理事会で決められる規定になっているのだと思います。理事に欠員が生じた時の補充も、理事会でできるような規定にしているところもあります。

そういった、理事会で誰も反対しないやむを得ない事情がある役職変更と、何か大きな決断を巡る対立による解任で、解任される本人が納得していない場合を同じに考えていいのかという問題があると思います。

私は、後に訴訟に発展する可能性があるような管理組合の方針を巡る紛争が理事会内部であった場合は、それを組合員が知った上で判断する機会が与えられるべきではないかと考えます。

最高裁判断が示されたことで、今後、標準管理規約も見直され、選任だけでなく解任も理事会の多数決でできるという規定が入るのではないかと推測されます。といっても、理事長を理事会の多数決で選任も解任もできるとする規約の定め方がほんとうにベストなのか、組合員の知らないところで、理事の内紛が起き、理由も知らされないで理事長が解任されるというようなことで本当にいいのか…。

1票差で理事長が解任され、不条理だと納得していない平理事に戻った元理事長とそのシンパ、新理事長とそのシンパが対立しながら、理事会の運営などできるのだろうか…、理事長を含む理事の役職は理事会の多数決で変えることができても、理事そのものは総会で選任されるので、理事長を解任された人も理事としては残るのですから。

だいたいこういう解任劇が起きるのは、管理会社選定と大規模修繕講工事のコンサルや施工会社選定等大きなお金が絡む時が多いのです。

管理組合運営の実情によっても、何が一番いいかという判断も変わってくると思いますが、問題点を整理しながら、何がベストなのかを私たちも考えてみたいということで、2月22日(木)のマンションコミュニティ研究会の勉強会では、このテーマを取り上げる予定です。それまでに、私も知恵を絞ってみたいと思います。

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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