新年早々、「アメリカ本土を今すぐにでも核攻撃できるICBMが完成し、実戦配備した」と言い放った北朝鮮の金正恩氏。その一方で、韓国とは融和に向け動き始めたとも報じられています。これらを受け、「日本はとにかく孤立しないように動くべき」と注意を促すのは、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際政治に詳しい北野幸伯さん。この状況下で日本が孤立する可能性などありうるのでしょうか。
北朝鮮と韓国が「対話」を開始。日本はどうするべきか???
新年から、北朝鮮問題でいろいろ動きがあるようです。何が起こっているのか見てみましょう。
金正恩、新年早々、物騒な宣言をしました。
金正恩氏、米本土攻撃可能なICBMの実戦配備を宣言
朝日新聞DIGITAL 1/1(月)9:45配信
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は1日午前9時(日本時間同9時半)、新年の辞を発表し、米本土を攻撃できる核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実戦配備を宣言した。朝鮮中央テレビが報じた。正恩氏は新年辞で「米本土は核打撃圏にある」とし、「核のボタンは私の事務室の机の上にある」と強調した。
アメリカ本土を核攻撃できるICBMは完成し、実戦配備したと。いってみれば、ボタンを押せば、ワシントンでもニューヨークでも核攻撃できると。これに関して、マティス国防長官は、「まだ無理だろう」という見解です。
マティス米国防長官は昨年12月15日、北朝鮮が同年11月29日に発射した新型ICBM「火星15」について「現時点では、我々に対する脅威となり得る能力を示していない」と述べた。
(読売新聞1月2日)
しかし、同時に、「後1年あれば、可能になる」と見ている。年末、「アメリカは、戦争を決意した」という情報が、あちこちで流れていました。その根拠も、「近い将来、北朝鮮はアメリカ本土を核攻撃できるようになる」と予測されているからです。
金正恩、韓国には「融和」を呼びかけ
年初からアメリカを強く威嚇した金正恩。一方で韓国には「融和」を呼びかけます。
2月開催の韓国・平昌冬季五輪に代表団を派遣する用意があると述べ、南北関係改善を進めて米主導の国際包囲網に対抗する姿勢も打ち出した。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2日、閣議で対話の早期再開などを指示。これを受け趙明均(チョ・ミョンギュン)統一相は高官級の南北当局者会談を9日に板門店(パンムンジョム)で開催することを提案した。金委員長は演説で、関係改善のため米韓合同軍事演習などの中止を要求。平昌五輪については「成功を心から願う」と述べた。
北は、平昌五輪に代表団を送る用意がある。そして、「五輪の成功を心から願う」そうです。
金正恩は、
- アメリカを脅迫し
- 韓国に和解を求めている
韓国の反応はどうだったのでしょうか? 文在寅大統領は、すばやく反応しました。BBC NEWS1月2日から。
文大統領は2日の閣議で、金委員長の発言を歓迎し、自らも平昌冬季五輪が半島の平和に向けた「画期的な機会」になると指摘してきたと語った。文大統領は関係省庁に対し、「南北朝鮮の対話を早急に回復させ」、北朝鮮の選手団が五輪に参加できるようにする対応策をすみやかにまとめるよう求めた。
一方、金正恩から、「いつでもアメリカを核攻撃できるんだぜ!」と脅されたアメリカ。どんな反応だったのでしょうか? まず、トランプさんが反応しました。
トランプ氏「私にも強力な核のボタン」北に対抗
読売新聞 1/3(水)11:56配信
【ワシントン=大木聖馬】トランプ米大統領は2日、ツイッターで、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が「新年の辞」で米本土を攻撃可能な「核のボタン」があると主張したことに対して、「私にも核のボタンがあるが、彼のものよりもはるかに大きくて、はるかに強力だ」と書き込み、北朝鮮のどう喝に屈しない姿勢を示した。
トランプさんの「核のボタン」は、金さんの「核のボタン」より「大きくて強力」だそうです。ま、ホントのことですが。ヘイリー国連大使は、もう少し「中身のある」発言をしています。
北朝鮮の核保有、「絶対に認めず」 米国連大使が警告
CNN.co.jp 1/3(水)10:58配信
ワシントン(CNN) ヘイリー米国連大使は2日、「(米国は)北朝鮮による核の保有を絶対に認めない」と述べ、北朝鮮に対し厳しい警告を発した。
アメリカは、北の核保有を「絶対認めない」そうです。
韓国―北朝鮮は、対話を開始する
1月3日、韓国と北朝鮮の接近は、さらに加速します。
北朝鮮と韓国が約2年ぶりにホットラインで協議
HUFFPOST 1/3(水)18:19配信
北朝鮮と韓国双方の担当者が3日、両国の軍事境界線にある板門店で電話連絡を取った。聯合ニュースなどが伝えた。2月に韓国・平昌で開催される冬季五輪に北朝鮮が代表団を派遣することについて協議をするのが目的。「板門店チャンネル」と呼ばれる直通連絡(ホットライン)が約2年ぶりに再開された形になった。
ホットラインが、2年ぶりに再開されたそうです。動きが迅速ですね。そして…。
北朝鮮と韓国の融和に向けた動きは、ついに米韓関係に影響を与えはじめました。なんと、米韓は、「軍事演習延期」で合意したのです。
米韓、平昌五輪中の軍事演習延期で合意
1/5(金)8:16配信
【AFP=時事】ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領と文在寅(ムン・ジェイン、Moon Jae-In)韓国大統領は4日、電話会談を行い、合同軍事演習を2月の平昌冬季五輪終了後まで延期することで合意した。北朝鮮との緊張緩和に向けた措置とみられる。
新年4日間の動きを見てきました。まとめると、
- 金正恩は、「米本土を攻撃できるICBMを実戦配備した」と宣言。アメリカを脅迫した
- 金正恩は、「平昌五輪に代表団を派遣する準備がある」とし、韓国に和解を呼びかけた
- 文在寅大統領は、これを支持
- ホットラインが2年ぶりに復活した
- 米韓軍事演習の延期が決まった
北朝鮮を守る中ロ
一体、何が起こっているのでしょうか? この問題、対立の構図をはっきり知っておきましょう。皆さん、北朝鮮核問題は、全世界 対 北朝鮮 の問題だと思っていませんか?確かに、「広義」ではそうもいえます。しかし、実をいうと、この問題に直接関わる国は多くありません。本質をいうと、
- 北朝鮮の核兵器を恐れる、アメリカ、日本、韓国
対 - 緩衝国家・北朝鮮を守りたい中国、ロシアと北朝鮮
の争いです。アメリカ、日本、韓国陣営はわかりますね? しかし、中ロが北朝鮮を守りたいのは、なぜでしょうか? 中ロにとって、世界に脅威は一国しかいない。そう、アメリカです。北朝鮮が崩壊し、韓国を中心に朝鮮半島が統一される。すると、中ロの国境にアメリカ軍基地ができるかもしれない。中ロ共、これを避けたいのです。
この「緩衝国家」の話、私は大昔からしています。しかし、これを書くと、必ず「親中派」の方から、「イヤ、中国も北の核には迷惑している。半島の非核化を望んでいますよ!」などとクレームがきます。中国が「北の核に迷惑している」「半島の非核化を望んでいる」どちらもホントのことでしょう。しかし、その切実度は、「核攻撃される可能性がある」アメリカ、日本、韓国とは全然レベルが違います。中ロがはっきり北を守っている証拠もあります。
中露企業、北へ石油精製品密輸網…制裁の抜け穴
読売新聞 1/1(月)6:08配信
【瀋陽=中川孝之、ワシントン=大木聖馬】北朝鮮が石油精製品を公海上で積み替えて密輸している問題で、中国企業がロシア企業からの密輸を手助けしている実態が、読売新聞が入手した契約関連文書から明らかになった。中露朝の密輸ネットワークは、北朝鮮への石油供給を制限する国連安全保障理事会の制裁の大きな抜け穴と言える。日米韓の当局も密輸網の存在を把握しており、監視を強化している。中国企業は、北朝鮮がロシア産の石油精製品を洋上で受け取るタンカーを提供したり、代金決済を仲介したりするなど、ロシアと北朝鮮をつなぐ役割を果たしていた。
韓国が「和解」に動く意味
さて、北朝鮮問題は、実質
- アメリカ、日本、韓国 対 中国、ロシア、北朝鮮
の戦いである。そして、アメリカ陣営は、「圧力派」。中ロ北陣営は、「対話派」。ところが、五輪を成功させたい韓国が、アメリカを裏切った。すると、構図が変化して、
- アメリカ、日本 = 圧力派
- 中国、ロシア、北朝鮮、韓国 = 対話派
になってしまいます。で、実をいうと、国際世論は「対話支持」なのです。もちろん、北朝鮮が国連安保理決議をバンバン破るので、制裁強化は支持されます。しかし、国際社会は、「制裁強化は、北朝鮮を対話の場に来させるため」という認識です。そう、誰も核戦争を望んでいないのです。日本は、このことをはっきり知っておく必要があります。
アメリカにも「対話支持派」が
実をいうとアメリカも割れています。「クレイジーな北朝鮮が、ワシントンやニューヨークを核攻撃できる状態になるのは許しがたい!」ということで、「主戦論」を主張する人たちもいる。一方で、「核戦争になったら何十万人死ぬかわからんから、対話でなんとかしよう」という人もいるのです。その中心人物は、「プーチンの親友」ティラーソンさんでしょう。実際、彼は、北朝鮮と「対話」しています。
米朝、北京で極秘協議 先月上旬 トランプ政権の融和派巻き返し
産経新聞 1/4(木)7:55配信
■カナダ、日本の圧力方針懸念
北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐり、米政府関係者と北朝鮮当局者が昨年12月上旬に北京で極秘協議を行っていたことが3日、分かった。同じ時期にカナダ政府が日本政府に「対北圧力」方針の見直しを迫っていたことも判明した。一連の動きの直後、ティラーソン米国務長官は北朝鮮との無条件対話に応じる考えを表明。トランプ政権内で対北融和派が巻き返しを図っているとみられる。
というわけで、アメリカも、「戦争」「圧力」「対話」で揺れています。そんな中、日本一国だけが、「圧力路線を絶対維持だ!」などとがんばればどうなるでしょうか? そう、「日本だけが戦争を望んでいる」「好戦的な国だ!」となるでしょう。
しかし、実をいうと日本は、「戦争を望んでいる」のではないですね? 「自分はできるだけ何もしないで、アメリカに北朝鮮を成敗して欲しい」と思っているのでしょう??? これは、アメリカから見ると、非常に狡猾です。
日本政府は、北朝鮮問題について情報収集を怠るべきではありません。トランプは、こんなことを言いました。
トランプ氏は4日、「私が、力の行使も辞さない断固とした強い姿勢で北朝鮮問題に臨んでいなければ、誰が南北の対話開始を信じられただろうか」とツイート。自らの北朝鮮政策が対話機運の高まりにつながったと自賛。「対話は良いことだ」と述べた。
(毎日新聞1月5日)
「対話は良いことだ」そうです。だから、安倍総理も言うべきです。「韓国と北朝鮮の対話が始まったことを歓迎する。世界に核戦争を望む人は一人もいない」と。少なくとも、今は…。
1937年に日中戦争が始まった。中国は、アメリカ、イギリス、ソ連から支援を受けていた。そう、日中戦争は、事実上
- 日本 対 中国、アメリカ、イギリス、ソ連
の戦争だった。こんなもん、勝てるはずないですね。この戦争の教訓は、「孤立すれば、破滅する」です。日本は、北朝鮮問題で孤立しないよう、注意が必要です。