2月9日、南海トラフ地震の今後30年以内の発生確率が「70~80%に高まった」と発表した政府の地震調査委員会。事実、この震災が起きてしまった場合、日本列島はどれほどのダメージを被るのでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが取り上げているのは、防災学の権威が著した話題の書。柴田さんも「最悪の事態を防ぐために何をしたらよいかが盛り込まれた良書」と太鼓判を押す一冊です。
福和伸夫・著 時事通信社
福和伸夫『次の震災について本当のことを話してみよう。』を読んだ。著者は名古屋大学教授、減災連携研究センター長。赤地にタイトルの漢字と日本地図が白抜きと大目立ち。「見たくもないもの」と、最悪の事態を防ぐために「何をしたらよいか」が盛り込まれた良書。文章は少し気になる個所もあります。
南海トラフ大地震。最悪の場合、震度7の揺れは東海地方から、四国、九州まで10県153市町村に及ぶ。国民の半数が被災者になる可能性があり、内閣府の想定では最悪で死者32万3,000人、但し関連死は考慮されていない。含めれば100万人になる恐れがある。この地震は「いつか来るかもしれない」のではなく、「必ず来る」。「リスク」ではなく「カタストロフィー」、破滅である。
教授は『シン・ゴジラ』の制作者に「なんであんな防災映画をつくったんですか」と聞いた。おお、直球だな。「十数年ぶりに作るゴジラは国民映画ですから、日本人に伝えるべき最も大切なことをメッセージとして入れたいと思いました。だから東日本大震災であり、原発事故であり、今心配されている巨大地震を彷彿させるような映画を描いたんです」と、納得のいく言葉が返ってきたという。
自然災害危険度の世界一は東京・横浜、4位が大阪・神戸、6位が名古屋である(スイスの再保険会社「スイス・リー」が公表)。震度7以上の揺れでも大丈夫な建物は日本に一つもないらしい。災害の頻度が高いだけでなく、脆弱な土地に3,000万人以上が密集しているのは、先進国では日本の首都圏だけである。
阪神・淡路も東日本も、日本の力で頑張って何とかなるギリギリのサイズの被害だった。しかし「次は違う」のである。関東大震災の火災、阪神・淡路の家屋倒壊、東日本の津波の三つが同時発生する超広域災害が、人口集中するひ弱い複数の都市を襲う。それが来たるべき南海トラフの巨大地震なのである。
現代社会の決定的な弱さは、電気、水道、ガス、燃料、道路や鉄道などのインフラに拠ることだ。それらはまたネットや通信に過度に依存し、複雑に関係しあっている。ひとつのインフラがやられると、他のインフラにも連鎖して拡大し、生死の問題や社会の破綻に直結する。インフラは連鎖的な麻痺状態となる。
生きるために何より必要な水は、電気がなければ供給されない。超広域の災害ではガスの供給にも限界がある。現代人は電話連絡やデータ通信ができないと無力である。インターネット途絶で銀行の決済もできず、電子カルテを用いる病院も機能しない。ゴミや排水の処理ができない。環境省は南海トラフ大地震で最大3.2億トンの災害廃棄物が発生すると試算する。東日本大震災の約16倍である。
この地震は従来の地震の延長で考えてはならない。これまでがリスク(危険)やクライシス(危機)だとすれば、次はカタストロフィ(破滅)になる。更に最悪のケースは、南海トラフ大地震の前に首都直下型地震が来ることで、首都機能が壊滅していたら……。筆者は「減災ルネッサンス」を提起する。
それにしても、大災害に対応する政府の様子を描いた「シン・ゴジラ」はじつに興味深い映画だった。DVDを買おう。あのうっとうしい、カヨコ・アン・パタースン抜きでうまく再編集したバージョンないだろうか。
編集長 柴田忠男
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