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日本は、ガラケーを駆逐された苦い歴史を、EV車でも繰り返すのか

世界中で「EVシフト」が加速する中、日本は明確な方向性を示すことができず、「水素社会」を目指していた頃の体制を捨て切れずに宙ぶらりんの状態が続いています。それを象徴するかのように、トヨタ、日産、ホンダの3社ら計11社が5日、この期に及んでFCV(燃料電池車)向けの水素ステーションの本格整備を目的とした新会社「日本水素ステーションネットワーク合同会社」を設立。また、経産省は3月1日「日本版EV戦略」を策定するとも表明しました。メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡さんは、日本政府の「世界的なEVシフトに対応する」という考え方がすでに周回遅れだと厳しく批判。さらに「国策」と化した燃料電池車から早期に撤退し、EVへの転換をはからなければ日本は世界に置いていかれると警告しています。

私の目に止まった記事

「日本版EV戦略」策定へ 世界的な電気自動車シフトへ対応

イギリス・フランスなどが積極的な政策を打ち出すのを受けて、ようやく日本の経産省も、「EVシフトに対応するための政策作りに乗り出すそうです。

そもそも「EVシフトに対応する」という発想が、どうしようもなく「周回遅れ」だと思います。この手の経済戦略は、「10年後、20年後の日本はこうあるべきだ」という明確なビジョンを持った上で、それを達成するための政策を国が主導権を持って決めていく必要があります。

イギリスやフランスは、2040年までにガソリン・ディーゼル車を市場から排除すると宣言しましたが、これは「EVシフト」が起こっているから作った戦略ではなく、「EVシフトを加速するために作った戦略なのです。

その意味では、以前から日本政府が打ち出している「水素社会との整合性はちゃんとつける必要があります。必ずしも相反するものではありませんが、どっちつかずの政策を出してもメーカーも困ってしまうので、より明確なビジョンを提供することが求められています。

ちなみに、典型的な悪い例が日本のエネルギー政策です。政府が将来の理想的なエネルギーミックスを明確なビジョンとして提示し、それを実現するための様々なインセンティブを、今の段階から業界に与えておく必要があります。にも関わらず、痛みを伴う原発政策からの撤退は避け、再生可能エネルギーを加速するには必須な発送電分離にも及び腰では、結局、問題を先送りしたまま、エネルギー後進国になってしまうことが目に見えています。

燃料電池は終わったのか?

次世代自動車と期待されながらも、電気自動車にその座を譲ってしまった感がある「燃料電池車FCV)」に関する、読み応えのある記事です。

この記事に書かれている通り、燃料電池車はいつのまにか日本の国策」になってしまい、「失敗を認めて撤退する」のがとても下手な日本政府が、明確な電気自動車への方向転換をすることが出来ずに、電気自動車へと大きく舵を切った中国やヨーロッパの国々に置いていかれてしまっている、というのが現状だと思います。

この記事でも紹介されているトヨタのMIRAIも、莫大な開発費を持つトヨタから見れば、決して致命的な失敗ではなく、「技術的には電気自動車を出そうと思えばいつでも出せる」状態にあるし、本気でトヨタが電気自動車を作り始めれば、テスラの生産能力など、あっという間に追い越してしまうと思います。

トヨタ自動車にとっての課題は、現在の稼ぎ頭であるハイブリッド車から電気自動車へのシフトをどうやってスムーズにするかであり、かつ、ますます重要になるソフトウェアの開発体制をどうするか、だと私は思っています。ここに関しては、私自身も関わっていることもあり、あまり不用意なことは言えませんが、ハードウェアを作る会社のカルチャーと、ソフトウェアを作る会社のカルチャーは大きく違い、その面で、テスラと戦うのは簡単ではないと思います。

今の状況は、携帯電話業界で言えば、アップルからiPhoneが発売されて、アーリーアダプターたちに熱狂的に受け入れられた時期にとても似ています。当時、既存の携帯電話メーカーは、iPhoneに多少の危機感は持っていたものの「あんなものは、作ろうと思えばいつでも作れる」と言いながら、結局ソフトウェアに関しては、グーグルから提供してもらわなければならず、主導権を握れず、コモディティ化の道をたどりました。

このまま突き進むと、一部の自動車メーカーは、ソフトウェアを甘く見て独自OSを開発しようとして失敗し、残りのメーカーは、ソフトウェアに関してはグーグルに全面的に頼った結果、同じく主導権を失ってコモディティ化するという、携帯電話業界で起こったのと同じような顛末を迎えるような気がしてなりません。

テスラが毎月のようにソフトウェア・アップデートを繰り返し、その度に、新しい機能を提供したり、ユーザー体験を改善して既存のテスラオーナーたちを喜ばせていることの意味をちゃんと理解する必要があります。

私は、テスラのModel Xを購入して、まだ1年しか経ちませんが、その間に、オートパイロットの機能は大きく進化したし、オートパーキングのような新機能も追加されました。これまで様々なメーカーの自動車を運転して来ましたが、こんな体験は初めてで、「テスラを買って良かった」とつくづく思います。

トヨタ自動車に限らず、全ての自動車メーカーが、「仕様を固めてから実装する。大幅なアップデートはモデルチェンジに同期して」という旧来型のソフトウェア作りから、「ユーザーからのフィードバックを受けながら、リリース後も細かく改良して、より良いものに作り上げて行く」という作り方に大きくシフトをする必要があるのです。

image by: shutter stock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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【著者】 中島聡 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 火曜日(年末年始を除く) 発行予定

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