ライフスタイルの変遷等により、今やすっかり市民権を得たシェアリングビジネス。メルマガ『理央 周の売れる仕組み創造ラボ【Marketing Report】』では著者でMBAホルダーの理央さんが、自動車やオフィスにとどまらないシェアリングビジネスの現状と今後、そしてそこから学ぶべきことをプロの目線で分析・考察しています。
シェアリングビジネスの今後は? ~最新の事例に学ぶこれから準備すべきこと
今号の特集は、このメルマガでも、これまでなんども取り上げてきた「シェアリングビジネス」。ここのところ、毎日のようにテレビや新聞はもちろん、ネットニュースやSNSの投稿などで、見ない日はないくらいの頻度で話題になっている。
私は、2つの理由がこの傾向に拍車をかけている、見ている。1つは、モノへの所有に関する意識が変化していること。「持つよりシェア」といった具合に、市場全体が動いている、と感じられる。
この傾向は若年層の間で顕著で、私のようなバブル世代が消費に対し積極的だったのと対照的に、草食系男子、さとり世代、ゆとり世代をといった、消費することに、ともすれば罪悪感を覚える世代が、買うより、借りる、所有より、共有、といった考えをするようになっているといえそうだ。
もう1つの理由として、ITの進化による、提供可能サービスの多様化が挙げられる。ほんの少し前まで、シェアリングといえば、ウーバーのようなタクシーや、シンプルなシェアオフィスといった具合だったが、今では百花繚乱、なんでもシェアリングビジネスになるのではないか、というくらい、業種や企業の歴史に関わらず、多岐にわたって多様化している。
スマホをはじめとするモバイルツールに代表されるハードウエアと、アプリをはじめとする、コンテンツとしてのソフトウエアが、それぞれ進化しさらに市場に浸透していることが、後押しをしている。
シェアリングビジネスはどう進化しているのか?
このような状況の中で、シェアリングビジネスがどう進化しているのかを、シェアオフィス、外食のシェアリング、そして移動のシェアリング、という3つのカテゴリーでの事例の中で、これまでと比較して変わってきた点、傾向、そして新しく何が付加されているのか、について挙げていく。
まずは、シェアオフィスについて。これまでシェアオフィスといえば、個人事業主や起業家、スタートアップが初期に借りる、というイメージだった。
しかし、今では企業もシェアオフィスを活用しているとのこと。この背景には、働き方改革の影響と浸透もあり、場所を固定して働くことが困難な従業員に、各所に「サテライトオフィス」として用意する、といったニーズもある。
そこには早くも大企業が目をつけており、日本経済新聞(3月20日)によると、多くの企業が参入を開始したとのこと。
三井不動産は「ワークスタイリング」という、シェアオフィスを手がけている。キャッチフレーズは「力になる空間、成果になる空間」契約企業は100社以上、拠点は都内中心に30箇所以上あり、契約した企業の社員は、その全ての拠点を使うことができる。
東急不動産の「ビジネスエアポート」が7箇所、ザイマックスが運営するちょくちょくは、首都圏中心に31拠点といった具合だ。さらに日系企業のみでなく、米国ウィーワークは都内中心に来春までに、10箇所以上に展開を予定するなど、外資系企業も参入している。
大企業が参入してくる、ということは、市場が拡大傾向にあることを示している。そうなるとさらに参入企業が増え、競争が激しくなる。各社、値引きに頼ることなく付加価値で勝負をするという状況に早くも突入したと言える。また、シェアオフィスの台頭により、今の段階では潜在需要が顕在化し、それ伴って、既存テナントの賃料も上向き傾向にあるらしいが、これから参入が増え供給が増加すると、賃料そのものが下がってくる。これこそが、値引き合戦の始まりになるであろう。
同時に市場が増減する可能性も含んでいることにも、現段階から対応しなければならないであろう。
食のシェアリングビジネス
以前、このメルマガでも取り上げた、ウーバーイーツ。ライドシェアのウーバーが展開する、飲食店の宅配サービスだ。ここにも大企業が進出している。日本マクドナルドも、昨年6月にウーバーイーツを導入。自社でもマックデリバリーを展開しているが、それに加えて、という形になる。
この2つの大きな違いは、注文の下限価格。マックデリバリーでは、1,500円以上の注文に限るということだが、ウーバーイーツでは1個から注文ができる(日本経済新聞5月4日号より)。
ウーバーの特徴である、働き手のシェアリングによる、ユーザーが消費する時間節約のニーズにも対応する、顧客視点のサービスだと言える。
2015年にサービスを開始したウーバーイーツは、日本でも2016年からサービスを開始し、東京23区、横浜に加えて、関西でもサービスを開始。そのエリアを拡大している。登録飲食点数も、日本では2,000を超えたとの報道もある中での関西への進出だが、その内容もお好み焼きなど地域特性を出したコンテンツになっている点が出色だ。
ウーバーライドの方と同じで、アプリ1つで便利に使用できる点が受け入れられている上に、オフィスでも学校でも自宅でも、場所を問わないこと、マクドナルドのケースにもあるように、個数にも制限がないこと、多くの選択肢があることなどなど、ユーザーが感じる「犠牲になること」を、ことごとく排除することによって、利便性を上げている点が素晴らしい。「手軽さ」が大きな顧客価値になっている。
移動のシェアリングビジネス
移動手段にもシェアリングビジネスが浸透しつつある。
まずは自動車。そもそもレンタカーも広い意味ではシェアリング。しかし、カー・シェアリングサービスが一般的になってきている。この2つの違いは、「レンタカーの場合長時間で不定期の利用が中心、カーシェアは短時間で定期的な利用が対象」(シェアリングエコノミーラボより)。
私もオフィスを探すときに、カーシェア会社と契約している不動産会社さんと主要駅で待ち合わせ、シェアする車をコインパーキングで彼が借り、乗せてもらい約10件ほど内覧し、またその駅にあるコインパーキングに彼が返す、といった具合である。
企業として契約すれば、時間単位や距離単位で、「使った分だけの料金が発生する」という仕組みだ。ユーザーのニーズに明快に対応する仕組みだと言える。
この業界の主要な企業は、タイムス、オリックス、三井不動産など、やはり大企業が顔を揃える。先述のシェアオフィスと同じく、ここでも参入企業の増加と多様化によって、競争が激しくなってきている。
こうなると各社工夫を凝らしたサービスを展開し始めているのが興味深い。面白いのは、レンタカーサービスが高級車を借りられるサービスを続々と導入してること。ニッポンレンタカーやオリックス自動車では、メルセデスベンツを借りられるとのことだし、タイムスカーレンタルでは、なんとジャガーやランドローバーをレンタルできるサービスを始めた。
以前このメルマガでも紹介した、カリトケが高級時計のレンタルサービスを開始したのと、コンセプトは同じで、買うことはできないが、ニーズや状況に応じて、ラグジュアリーなブランドを楽しみたい、というユーザーの潜在需要に対応するサービスだと言えそうだ。
シェアリングビジネスを展開する各社から何を学ぶべきか?
ここまでみてきた、各社の多種多様なシェアリングビジネス。これらのケースから学べることは多い。
まずは、伸びている市場に間髪入れずに参入する姿勢だ。この場合、自社の強みを生かし、少し何かを付加することで、新結合を生み出す、という流れになる。三井不動産はその不動産の経験を生かしているし、タイムスなどのコインパーキングは、自社がすでに所有するパーキングスペースを活用している。自社の資産を使い、伸びるであろう市場に対し、何ができるのかを問いかけることから始める。
ウーバーイーツの事例にあるように、1,500円以上注文をしないと、デリバリーしてもらえない、といった不具合をいかに発見できるか、が、事業を創造する上での起点になる。
次に重要なことは、付加価値をつけること。それも値段の安さ以外で。三井不動産のワークスタイルでは、拠点の多さと、拠点の利便性で、ビジネスの効率化による、成果への近道を提示している。また、高級車レンタカーサービスも、安く借りてもらう、という既成概念の逆張りで、消費者が潜在的に持っている、願望を充足できるサービスになっている。
どちらのケースにおいても、企画発案時に最重要視するのは、顧客の潜在的な需要だ。顧客の抱えている問題の解決、欲しいと潜在的に感じている点を、いかに見付け出すことができるかが、ここでも鍵になる。
ITが進化しても、マーケターがすべきことは同じなのだ。
image by: Uber Eats - Home | Facebook