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どうすれば、年金を貰いながら60歳以降も働くことができるのか

60歳を過ぎても働き続ける人が増えている昨今、そこで気になるのが「働きながら年金はもらえるの?」ということではないでしょうか。そんな素朴な疑問に対して、無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者・hirokiさんが過去の事例を踏まえながら詳しく解説しています。

60歳以降も働きながら年金を貰うと年金が停止されるっていう流れの総復習

高齢者雇用や再雇用、定年制の廃止などが促進され、60代以降になっても働く人が珍しくなくなってきた現代ではあります。また、この年代の方になりますと年金の受給が開始され始める年代でもありますので、やはり「働き続けること」に関してだけではなく、「働く場合の年金はどうなるの?」というお悩みも増えるので相談としては非常に多い分野ではあります。

年金で言う在職というのは単に働いてるという意味ではなく、「厚生年金に加入している」という状態を在職と言います。何度も申し上げてきた事ではありますが。したがって、厚生年金に加入してないで働いているならば、どれだけ収入が増えようが働いてるという事をもって年金が停止されることはありません。

というわけで、今回はこの老齢の年金を貰いながら在職すると年金が停止される場合があるという事の基礎をあらためて見ていきましょう。

では事例。

1.昭和32年7月15日生まれの男性(今は61歳)

何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)

この男性の生年月日で、年金保険料納付済期間+免除期間+カラ期間≧10年を満たしていて、なおかつ厚生年金期間(共済組合期間含む)が1年以上あれば、老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始は63歳から。

厚生年金支給開始年齢(日本年金機構)

その63歳からの老齢厚生年金支給は年額120万円(月額10万円)とします。65歳からはそれと合わせて、国民年金から老齢基礎年金68万円(20歳から60歳までの480ヶ月の間に420ヶ月分で基礎年金を出してます)も支給されるものとします。

さて、この男性は60歳定年後も継続雇用で65歳まで働くつもり。60歳以降は40万円の給与から、30万円に下がった。また、年金が支給開始される63歳までは賞与が6月と12月にそれぞれ、50万円とします。63歳以降は賞与は出ないものとします。

では、63歳の誕生日到達月の翌月から老齢厚生年金の受給権が発生するわけですが、この男性は65歳まで継続して働きます。という事は厚生年金に加入しながら働いて老齢厚生年金を受給するので、年金が停止される場合が出てくる。なお、働きながら受給する年金を在職老齢年金といいます。

さて、63歳になって年金を受給するようになった時の在職老齢年金の停止額を算出してみましょう。

年金停止額を算出する場合は、年金月額(基本月額)10万円、給与(標準報酬月額)30万円、直近1年間に貰った賞与の総額(50万円+50万円=100万円)を12で割って月額に直した額(100万円÷12ヶ月=83,333円)を用います

ちなみに給与(標準報酬月額)と、直近1年間に貰った賞与の総額を12で割った額の合計額を「総報酬月額相当額」といいます。総報酬月額相当額はこの男性だと、30万円+83,333円=383,333円という事ですね。総報酬月額相当額というのはめちゃくちゃ大事な用語ですので絶対覚えていてください^^。

で、年金が発生するのは63歳誕生月である7月の翌月である8月分(平成32年8月→新元号2年8月)からですので、その月の年金分から停止がかかります

・63歳の8月からの年金停止額→{(総報酬月額相当額383,333円+年金月額(基本月額)10万円)-支給停止調整開始額28万円}÷2=101,667円

停止額101,667円に対して、年金月額10万円ですので…つまり、支給される年金は無いという事です^^;。

ここでちょっと疑問に思われた人もいるかもしれませんが、直近1年間に貰った賞与は実際に年金の受給権が発生する、63歳の誕生月よりも前に貰ってますよね? 「年金貰う前に貰った賞与なのに、それも含めて年金停止するとかふざけてんの?」と思われるかもしれませんが、含みます^^;。それが納得いかない人も割といらっしゃいます。

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※ 参考

支給停止調整額28万円というのは平成16年改正で定められた額。その28万円に毎年度、物価や賃金の変動率を反映させる事により額が変動する事がある。平成30年度は28万円。まあ、年金月額と給与や賞与(月額に直したもの)の合計が28万円以内に収まれば年金は停止されないという事ですね。
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じゃあ、このまま在職してる間は全く年金は支給されないのか? あのー…63歳以降は賞与が支給されない事になりましたよね。だから63歳になって最初の12月(平成32年12月→新元号2年12月)の賞与は無いわけです。この月に、62歳の12月(平成31年12月→新元号元年12月)に貰った賞与50万円が外れます。つまり、停止額が63歳の12月から変更されるという事です。

この63歳になって最初の12月時点の給与(標準報酬月額)30万円と、直近1年間に貰った賞与50万円÷12=41,666円の合計額。総報酬月額相当額は341,666円に減額される。

・63歳になって最初の12月時点の年金停止額→{(総報酬月額相当額341,666円+年金月額10万円)-支給停止調整開始額28万円}÷2=80,833円

となる。よって、年金月額10万円-停止額80,833=19,167円の年金が63歳12月分から出てくるという事。12月分の年金から発生するので、実際の年金振り込みは2月15日支払い(前2ヶ月分である12月分と1月分だから、19,167円×2ヶ月分=38,344円の振り込み)。

そして今度は、63歳になって最初の6月(平成33年6月→新元号3年6月)になると62歳の6月(63歳誕生月の前月である平成32年6月→新元号2年6月)に貰った賞与50万円が外れるので、ここでも年金停止額が変更になる。総報酬月額相当額は給与(標準報酬月額)30万円のみとなる。

・63歳になって最初の6月時点(平成33年6月である新元号3年6月)の年金停止額→{(総報酬月額相当額30万円+年金月額10万円)-支給停止調整開始額28万円}÷2=6万円

よって、年金月額10万円-停止額6万円=4万円の年金が支給され始めることになる。63歳になって最初の6月分からの変更だから実際の年金振り込みは8月15日(前2ヶ月分である6月分と7月分だから、4万円×2ヶ月分=8万円の振り込み)。

その後、無事に65歳到達日を迎えて退職する。退職するから年金停止というのは無くなる。もし、そのまま引き続き65歳以上で在職の場合は在職老齢年金による停止が適用される。なお、65歳までと違って支給停止調整開始額28万円が65歳以降は46万円になって停止が緩和される。

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※ 参考

65歳誕生月の翌月分の年金停止計算から、28万円が46万円になります。なお、46万円というのは平成16年改正の時に定められた48万円の額に毎年度の物価や賃金の変動を反映させてきたもの。平成30年度は前年度と変わらず46万円。
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この事例では、この男性は65歳で退職しますが、仮に退職しなかったとしても年金受給から働いた期間分の老齢厚生年金が増える65歳到達時改定という)。この男性の場合は、年金支給が始まった63歳以降も給与30万円で働いてきたから増額する年金はザックリですが下記くらい。

・老齢厚生年金(報酬比例部分)→30万円×再評価率0.945(便宜上平成30年度再評価率を用いてます)÷1,000×5.481×24ヶ月=37,293円

だから、老齢厚生年金(報酬比例部分)は120万円から1,237,293円に増額という事です。

なお、再評価率というのは昔の貨幣価値を現在の貨幣価値に直すもの。過去の毎年度の再評価率に、今年度に使う物価や賃金の変動率を掛けて新しい再評価率を算出する。平成以降は経済成長が停滞して物価や賃金がなかなか伸びなかったから値が「1.000」を下回ってますね。平成5年度あたりからずっと1.000を下回る。

再評価率表(日本年金機構)

あと、60歳以降も働いてるので、「差額加算」という老齢厚生年金の部類の年金も65歳から発生する(こちらの金額もザックリですが…)。

・老齢厚生年金(差額加算)→1,625円(平成30年度単価)×60ヶ月=97,500円

よって、65歳以降の年金額は、老齢厚生年金(報酬比例部分1,237,293円+差額加算97,500円)+老齢基礎年金68万円=2,014,793円(月額167,899円)

あと、65歳到達時時点で65歳未満の生計維持してる配偶者が居れば配偶者加給年金389,800円も加算される場合がある

※ 追記

65歳以降も在職する場合に停止される年金は、老齢厚生年金の報酬比例部分のみ(厚生年金基金の代行部分も含む)。差額加算や配偶者加給年金、老齢基礎年金、遺族年金や障害年金は年金停止対象外。なお、老齢厚生年金の報酬比例部分が全額停止(厚生年金基金の代行部分含めて)すると配偶者加給年金は全額停止してしまう

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image by: shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
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