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【書評】小学校で英語の苦手な教師に英語を習う悲惨な生徒たち

「グローバルな人材の育成」を旗印に、ついに2020年から小学校に導入される英語の授業。しかし、その内容はひどいものとなるのは目に見えているようで……。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、日本が陥る「英語教育の危機」を綴った一冊の本を紹介しています。


英語教育の危機
鳥飼玖美子・著 筑摩書房

鳥飼玖美子『英語教育の危機』を読んだ。まえがきにいきなり「英語教育改悪がここまで来てしまったらどうしようもない。もう英語教育について書くのはやめよう、と本気で思った。それなのに書いたのが本書である」とある。英語教育についての人々の思い込みの岩盤はつき崩せないと悟り、諦めの境地に達したが、なんとか気力を奮い立たせて書いたという本だ。

2012年から始まった「グローバル人材育成」を目指した政策は、2017年3月に告示された小中学校学習指導要領が到達点となる。その中身は、教える人材の確保も不十分なまま見切り発車する小学校での英語教育大学入試改革と称する民間英語試験の導入であり、東京五輪の年から順次施行される予定だ。

グローバル時代だから英語を使えなければならない。だが日本人は読み書きはできても話せない文法訳読ばかりやっている学校が悪い。だから英語教育は会話中心に変えなければ……政界、財界、マスコミ、一般世論は頑なにそう思いこんでいる。それはまったく違う。今の学校は既に、文法訳読ではなく会話重視になっていて、それで読み書き力が衰えて英語力が下がっているのだ。

被害を受けるのは生徒たちで、とくに小学生は悲惨だ。何も分からないまま、あまり自信のない先生から中学レベルの英語を習う。非常に高度な理解が要求され、中学に進む頃には英語嫌いの生徒が増えるのは確実だ。しかも、中学校の英語教育は、小学校で4年間も学んだ実績をもとに考えているから、現行学習指導要領にくらべて、難易度が格段に上がっている……トンデモ事態だ。

歴史的愚策「ゆとり教育」は、始まったとたんから軌道修正を余儀なくされたが、それよりも深刻な事態が起こるのではないか。モルモットになる子供(著者はこんな表現はしていない)たちが不憫である。その子は小学校で4年間、中学校で3年間の、新しい英語教育を受ける。それが失敗だったらどうする。

その「学習指導要領」にある、小学校と中学校の英語の目標はほとんど差異がない。中学と高校の英語教育の目標にも大きな違いはない。つまり、日本の英語教育は、小学校3年から高校3年までメリハリがない。新学習指導要領の英語は、英語教育の専門家であっても、これほどの英語を教えるにはどうしたらいいだろうと悩むような内容である。「英語教員の心中を察して余りある」と筆者は嘆く。

「英語で英語の授業」が始まったのは、2013年4月入学の高校1年生で、既に卒業している。彼らの英語が飛躍的に伸びたという話は聞かないどころか、政府目標の「英検準2級」に到達した高校3年生の割合が全体の36%では、成果ナシである。「英語の授業は英語で」という指導方法は、中学にまで下して学習指導要領に明記するほど、効果のあるものだろうか。100%ないと思う。

このままでは多数の英語嫌いが小学生の段階で生み出され、多くの中学生が英語授業で躓き……となるのは確定だ。日本人の英語力を壊滅させる決定打になるかもしれないこんな愚策を、学習指導要領に盛り込んだのは誰だ。中教審の外国語専門部会では審議されていなかったという。私の大好きな陰謀論がここにも。スマホという翻訳機があれば会話はなんとかなる時代だが…。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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