交渉のプロ伝授。相手を気持ち良くさせてスムーズに商談する方法

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交渉や商談の硬い空気を破る為には「真剣な雑談」が必須だそうですが、「交渉のプロ」はどんな手段を用いるのでしょうか。元国連紛争調停官で国際交渉人、さらに地政学リスクアドバイザーの顔を持つ島田久仁彦さんは、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の中で、交渉前に食事会などを提案し、相手の出方や趣味嗜好に触れる機会は有益だと力説。詳細なヒヤリング方法も伝授してくれています。

究極の交渉・コミュニケーション術

第13号では、交渉やコミュニケーションを行う際に重要な3つ目のポイント『どのようなシーンでも、交渉するのは人と人』についてのお話をスタートしました。

交渉や商談を行う際には、交渉の主体は政府や企業であったりしますが、実際に交渉やコミュニケーションを行うのは、代表する政府や企業の利害を背負う生身の人間です。同じ利害を背負っていても、それを代表し、実際に交渉の席に着く人によって、交渉やコミュニケーションの進め方は違います

情報のお話をした際に、キーワードの一つとして、「相手のことを調べつくすように、自分のことも調べつくす」ことが重要と言いましたが、これは相手(そして自分)が代表する利害とその背後にある情報のみならず、自分の前に座っている相手の交渉官・交渉担当者の人となりを知ろうとすることが重要ということも表しています。

そこで私が心がけ、皆さんにもお勧めしたいのが『真剣な雑談』です。雑談というと、「仕事とは無関係の、他愛もない話」というイメージが強いようですが、実際には交渉やコミュニケーションをスムーズに進めるために、とても効果的な手段なのです。

実際に交渉や商談、大事な話し合いをしないといけない時、参加者には緊張感が漂っていることが多いですし、それぞれ「守るもの」があるため、相手のペースにはまってはいけない、と硬くなっています。そのようなシチュエーションからは、柔軟な解決策は生まれづらくなりますよね。雑談は、交渉や商談、話し合いの場に創造性を提供する効果を発揮します。

まず、雑談を上手に行うと、緊張感漂う交渉や商談の場を和ませる効果があります。言い換えるとIcebreaker的な役割です。雑談そのものの内容が、今回の交渉や商談に関する内容でなければ、身構えることなく、比較的リラックスして、表情もにこやかに話すことが出来るのではないでしょうか。そして、それは同時に、場にいる当事者間の間に「心と心の間の繋がり(ラポート)」を形成することにもつながります。別の言い方をすると、相手に対しての信頼感でしょうか。

真剣な雑談を行う際には、「相手のことを調べつくす」段階で、交渉相手の関心のある内容や最近はまっていること、拘りなどについても調べるようにします。例えば、交渉相手が野球のあるチームのファンであることが分かったら、最近のペナントレースの話題でもいいですし、好きな選手について尋ねてもいいでしょう。グルメもしくはワイン通というお話なら、お勧めを聞いてみたり、通になったきっかけを聞いてみたりしてもいいでしょう。

ここで大事なことは、あくまでも相手に気持ちよく語ってもらうことです。内容についてある程度相手のお話についていけるだけの勉強はしておく必要がありますが、「私も関心を持っている」程度にとどめておきましょう。

「そうは言っても、もし相手の好きなこととか凝っていることなどの情報が得られなかったらどうするのか」と聞かれることが多いのですが、そういう時には、「きにしいたけ」です。これは、「季節」「ニュース」「趣味」「衣装」「食べ物」「健康」のネタに触れてみるのがコツです。もしくは「あいうえお」──遊びイベント運動映画音楽についてのお話も効果的です。経験上、必ずこのどれかで相手の方が話に乗ってきます

相手の方が気持ちよく話し出したら、あとは、適宜、質問をしましょう。特に「ぜひそのことについて教えてほしい」という「アドバイスを乞う」ようなスタイルで行うととても効果的です。

ちなみに、私は、交渉や商談の場で、「初めまして」という状況を避けるようにしています。可能であれば、交渉が設定される街に事前に到着し、前夜までに交渉相手と食事する機会を設定するようにします。その時に心がけることは、あくまでも相手を知ることに徹し仕事や交渉に絡む内容については、一切こちらからは触れないようにします。そうすることで、いろいろな話(『真剣な雑談』)を笑顔で行うことが出来、交渉前に、相互に「話し合うことを心地よく感じる」という心理を作ることが出来ます。

この「食事」ですが、お声掛けする際、私からは「いろいろと私も調べてきたんですが、もしかしてどこかお勧めのお店ありませんか?」と尋ねることにしています。どなたも大体、お気に入りをお持ちですので、情報をシェアいただけます。その際、「せっかくなので、ご一緒しませんか?」とお誘いします。お声掛けした相手方のうち、6割は快くお受けいただき、本当に楽しくおいしいものをいただきます。

残りの4割のうち、半分くらいは「ぜひご一緒したいのだが、先約があって」と断りつつ、大体1時間ほど遅れてお越しになります。「実際に島田はお勧めの店に素直に行ったのか」尋ねに来たのかもしれませんが、その後、合流されて楽しい時間を過ごします

後の2割は、実際にはお越しになりません(もしかしたら店の外からチェックしているかもしれませんが)。しかし、この際、私「たち」は必ず行った証拠(おみやげ、もしくはお話)を持って帰るようにします。「教えていただいたお店、本当に素敵ですね」という感想とともに、「訪れたからこそ知れるとっておき情報」をお土産として持ち帰り、顔を合わせた際にお伝えするのです。
そうすることで「ほほー、本当に行ったんだな」と、その方のsuggestionに関心を持ったことを示すことが出来ます。こういったことも、もしかしたら、ある種、『真剣な雑談』の範疇に入るのかもしれませんね。

その上で、交渉のテーブルに就く際に、あいさつに続けて「昨夜はどうも」だとか、「教えていただいたお店、本当に素敵でした」といった話から続け、交渉の場での「初めまして」は避けるようにすることで、本来なら緊張して相手を警戒することから始めがちな交渉の場でさえ、和んだフレンドリーな雰囲気でスタートすることが出来ます。ぜひお試しあれ。

その他の、私を「最後の調停官」にしてくれるきっかけにもなった、『真剣な雑談』のエピソードは、また次回に!!

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島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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