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タイ政府が関与か?周辺国も目を背ける「ポンドック迫害問題」

近年目覚ましい発展を遂げているタイですが、その陰で深刻な民族問題が起こっていることはあまり知られていません。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では、著者で元国連紛争調停官、国際交渉人、さらに地政学リスクアドバイザーの島田久仁彦さんが、タイ政府および周辺諸国と、ポンドックと呼ばれるイスラム系の住民グループとの間に起こっている深刻な問題について解説しています。

最後の調停官”見参!?

今週は、久々にタイ・バンコクに参りました。

調停官の仕事的には、多様なアジア案件を扱う際、バンコクは、シンガポールと並んで非常に協力的で、国連ESCAPおよび国際会議場をはじめ、市内のホテルで、非常にセンシティブな問題の詰めの協議を上手にアレンジしてくれます。

今回の訪問および滞在は、私が安全保障問題と並んで長年取り組んでいる国連気候変動枠組条約の実施に係る内容で、特に京都議定書の遵守を扱う遵守委員会の委員としてのお仕事が“メイン”なのですが、会場が国連会議場ということもあり、ESCAPの全面的な協力を得て、並行していくつかの“紛争”案件の調停・調整に当たっています。

一つは、タイも絡んでいる「東南アジア諸国における“忘れられた民族”に関する人権・安全の保障とSovereignty」についてです。

ニュースに度々出てくるイシューである「ミャンマー(ビルマ)におけるロヒンギャに対する問題」や、タイが直面する「深南部における“ポンドック”に対する迫害に対する問題」で、これらは現在、国連事務総長で、前職が高等人権弁務官だったグティエレス氏からの“依頼”による調停になっています。

ロヒンギャ問題については、表向きには大島賢三元国連大使が国連事務総長特使として調整に当たっておられますが、事態が膠着状態のため、ブレイクスルーを図るべく、ミャンマー、バングラデッシュなどの関係国に加え、ロヒンギャの利益代表(代理人)も交えての話し合いを水曜日にスタートさせました。

それぞれの主張についてはすでによく聞いているので、最初に確認だけ行い、その後は、いかに落としどころを見つけるか、それぞれの意見や主張の共通点をできるだけ見つけ出し、できるだけ“交渉において解決しなくてはならない”差異を絞り込む作業を行っています。

例えば「ミャンマーへの帰還が進展しているか否か」については、皆、違った認識を持っているのですが、「当初合意した期間よりも、帰還がかなり遅れている」と認識は共有できることが分かり、「スピードアップし、かつ“また迫害を受けるのではないか”と恐れているロヒンギャの人たちをいかに“安心させるか”」について合意点を探っています。

今回のメルマガが皆さんのお手元に届くころには、できれば“合意の種”が芽生えていることを目指しています。

そして、もう一つのイシューが、タイ、マレーシア、インドネシアも絡む「タイ深南部」における“ポンドック”(注:マレー文化を代表するイスラム系の住民グループ)に対する迫害疑惑です。

もちろん、タイ政府は一方的な迫害については全面否定しますし、「あくまでも内政問題」との立場をずっと崩していませんが、事態は年々深刻化し、マレーシアやインドネシアも“当事者”としての参画を求めています。

加えて、アフガニスタンで戦ったムジャヒディンやISのアジア分派がポンドックに紛れ込み、当該地域における問題を一層複雑化しています。

2016年以降は、爆破テロなども多発し、タイ政府による“ポンドック・スクール”の強制的な閉鎖などを受けて対立は激化しています。

国内外のイスラム教徒からは「タイ政府による一方的なマレー文化への弾圧」というようにイメージ付けされ、これまで解決の糸口はつかめていません。

ここで注意しておきたいのは、すべての“ポンドックがイスラム過激派ではない、という点です。

あくまでも元々は、マレーシアと国境を接する深南部におけるマレー民族のグループの集まり”で、その後、イスラム過激派が紛れ込んで、タイ政府へ対立的な感情を煽って、事態が深刻化してきたようです。

本件については、2015年3月以降は、6つの組織が緩やかな大連合を築き、マラ・パタニという名で協働・共闘しており、タイ政府との交渉を行っていますが、タイ政府と交渉を行うことを嫌うBRN(もっとも過激なポンドック)の存在やポンドック・ムジャヒディンなど軍事部隊は、マラ・パタニの交渉スタンスを全く支持しておらず、マラ・パタニが実際にどこまでポンドックグループの意見を代表しているのかも怪しい状況だと認識しています。

実際に、水曜に開催した第1回の関係者非公式会合でもOne voiceとして立場を表明することが出来ず、加えてマレーシア・インドネシアも参加こそしましたが、「我が国には過激な行動を行うポンドックは存在せず、ポンドックはそもそも、あくまでも平和を愛し、マレー文化を愛するための教育を行っている機関で、タイで行われている一連の争いには、一切関与していない」と“当事者としての関与を拒んでいます

ただ、もしそうだとしたら、やはりこれは“タイの国内マター”になってしまい、これまでのように問題が明るみに出ることはなく、不条理に弱いものが傷つくという悪の連鎖が続くだけですので(実際にこれまでのテロ攻撃で命を落としているのは、タイのポンドックでの学校に通う子供たち)、いかに国際社会、特に周辺国を巻き込んでクリエイティブな解決を図るか、アイデアに苦慮しているところです。

そして、さらに困難なのが、マラ・パタニがポンドックを代表できていないという現実に直面し、タイ政府としても「誰を相手に交渉を本格的に進めるかが見えないことでしょう。

言い換えれば、事態は悪化する一方なのですが、意見を代表する強い交渉相手が、どうも存在していない、という事態です。

こればかりは、私が誰かを祭り上げることはできないので(するべきではないと考えますので)、この調整はちょっとまだまだ難航しそうです。

他には、お馴染み?!の北朝鮮をめぐる問題なのですが、こちらも“当事者”を主張する国が多いため、最初の“秘密会合”を行おうとした際も、準備された部屋に入り切れず、逆に目立ってしまい、結局、何も話し合いが出来ないまま散会となっています。

私がバンコクにいる間に、Next stepsへの足掛かりを付けたいところですがどうなるでしょうか。

一つ気になることは、この自称当事者の輪に日本がいないことです。

アメリカ政府から知らされていないのでしょうか?

会議の性格上、そして私の立場上、私からお知らせするわけにはいかないので、実際に会議が開かれることになった場合には、ぜひ参加してくれるといいなと願っています。

解説になっているかどうか分かりませんが、一応、かなりギリギリのお話内容をご紹介いたしました。

いかがだったでしょうか?少しは“最後の調停官”の仕事の様子が掴めましたでしょうか。

次回の号で、何かしらいいご報告ができることを祈って。

image by: shutterstock

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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【著者】 島田久仁彦(国際交渉人) 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 金曜日(年末年始を除く) 発行予定

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