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【書評】上海で一緒に働き判明、中国の普通じゃない普通の人たち

日本人である著者が、6年間上海に移住して潜入労働。そこから見えた中国人のリアルな姿を記した書籍が話題となっています。中国人がニュースに興味がない、その驚きの理由とは? 無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんがそんな気になるネタ満載の一冊を紹介しています。

ルポ「中国潜入バイト」日記
西谷格・著 小学館

西谷格『ルポ「中国潜入バイト」日記』を読んだ。2009年から2015年まで上海に移住し、潜入労働を通じて中国人のリアルな姿を明らかにするという大胆な企画で、中国の現状をレポートした。日本人の抱く中国、中国人のイメージはあまりよくない。そこで現地の中国人と個人同士接してみると、そのイメージは実はほとんどが……、やっぱりそうなのであった。

マナーが悪く利己的で中国政府もまた非民主的であると知った。ただし、それが「悪い」とは言い切れず、文化の違いや国情の違いというべき面もある。日本人の価値観ではとうてい理解できない「異文化」があると思い知らされた。だが日本に戻って、中国のニュースや中国情報に触れてみると、なんとなく違和感を覚える。ある種の型通りな処理で、どこか実感を伴わないという。

生身の中国人が不在の抽象的な話ではなく、一面的なイメージでもない、実感の伴ったリアルなあの国の姿を伝えられないか、これがこの本のテーマである。

日本人がいないディープな現場に身を置き、中国人と一緒に働きながら、もっと深く中国及び中国人のことを知る。だが、正確には“潜入”ではない。

上海の寿司屋の厨房で下働き。反日ドラマに日本兵役として出演。パクリ遊園地で七人の小人と踊る。婚活パーティで中国人女性とお見合いする。高給ホストクラブで富豪を接待してみる。日本に帰国し、都内で中国人経営の爆買いツアーのガイド。中国人留学生の寮の管理人をやってみた。という七つの現場の体験レポートである。

中国の現場では戸惑いが多い。いずれも臨場感たっぷりである。彼が中国人との対応で得た感想や教訓に、やっぱりそうかとか、それは意外だとか、いちいち得心するのだった。中国では日本以上に内面が人相に表れると感じる。親切な人はいかにも温和で優しい表情をしている。不親切な人は目つきが悪く、不満げな表情をしている。中国人は自分の意見や感想をはっきり表に出す

ある時ハッと気がついたことは「中国人はニュースに興味がない」ということだった。他人のことより自分自身のことを考える風潮が蔓延している。毎日のようにテレビで流れる反日ドラマで日本語を学んだ中国人は、著者に向かって「あなたは日本人か。ミシミシ、バガヤロ!」と得意気に言う。日本兵の発する「」「馬鹿野郎」である。これが中国で一番有名な日本語だというから情けない。

反日ドラマは架空の下士官ばかりが主人公で、具体的な日時や場所が特定されない史実ベースのフィクションだ。著者は日本兵役で出演したが、セリフはもらえなかった。中国人は一度仲良くなると情に厚いとはよく聞く話だが、これは裏を返せば「赤の他人には極めて冷淡」ということでもある。身内に対する態度と身外に対する態度はまったく異なる。貸し借りを通じて友情を深める

この七つの取材以外に、いくつもトライしたが不成立だった。この企画はネタが限られ、試行錯誤の連続だったという。

中国社会はすべてにおいて日本よりも「雑」で「いい加減」なのだが、よくいえば臨機応変さに富んだ柔軟な世の中とも言える。日本社会も、もう少しユルくなっても良いのかもしれない。

と著者は結ぶ。ほとんど役に立ちそうにないが、まあ楽しめる企画だ。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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