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【書評】山人かく語りき「怖いのは人間だ」。怪談より恐ろしい話

山に入る人たちに「山で一番何が怖いのか?」と聞くと、最も多いのは「一番怖いのは人間だ」と答えるそうです。特に、女性が一人で山の中にいる状況は想像するだけでもぞっとするものがあります。そんな不思議な経験をしてきた山人たちの話をまとめた一冊の本を、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんがレビューしています。信じるか、信じないかは貴方次第です。

山怪 参 山人が語る不思議な話

田中康弘・著 山と渓谷社

田中康弘『山怪 参 山人が語る不思議な話』を読んだ。『山怪』が山と渓谷社から発行されたのは2015年。予想外の大ヒットで、『山怪 弐』が2017年、『山怪 参』が2018年に出版された。この鉱脈を出版各社が後追い、表紙のテイストまで真似た本が次々と出た。殆どをフォローしたが、本家『山怪』の「心底恐い話はないが、じわじわ来るイヤな気分」までコピーできた本はない。

山で何が一番怖いのか山人に尋ねると、東北のマタギは雪崩と答える人が圧倒的に多いという。「自然が一番おっかねえ」のだ。雪のない所の猟師は、銃を持っているし、山中で自然はとくに怖いとは感じないらしい。それでも敢えて尋ねると、多くの人は「世の中で一番怖いのはやっぱり人間だ」と言う。

平凡な回答だが、わたしもそう思う。とくに女性がコワい。さらに、これが一人で山の中にいる女性となると……。立木の買い付けに携わる杉山さんは、人と会うことのない山奥を一人で歩く。「山の中で女の人に会うのは怖いですねえ。誰も来ないような場所で、突然出会うんですから」。そんな経験が2回ある。

「その人、普通の格好なんです。山歩きの人じゃないんですね。髪の毛がばさばさで凄く怖かったですよ。精神的に不安定な人かと思いました」。2回目は違う人で、場所は全然別の所だ。この状況はものすごく怖い。山人からよく聞くのが、山中でどうにもいやな感じがすることがある、ということ。自分しかいないはずの沢で、突然聞こえてきた女性の笑い声、とか。鳥肌が立つ。

山菜採りで山の中を移動していると知らない女性に出会った。その人が、こっちの方が良い山菜がたくさんありますよと教えてくれた。山菜やキノコのあるスポットを、見ず知らずの人に教えるのは不自然である。普通ありえないが、いわれるままについていった。いつの間にか女性はいなくなって、結局15キロも離れた所まで行っていた。「あれは呼ばれたんでしょう

山中の真夜中の現場に、別の現場から無線連絡が入る。「おい、子供がいるぞ!気をつけろよ、白い服を着た子供が歩いているから」。誰もが耳を疑う。現場は道もない山中。時刻は午前2時過ぎ、子供が歩いているわけがない。その現場に行くと、10人ほどの作業員が立ち尽くす。全員がその少女を見ていたのだ。

山怪を信じない人は、3タイプに分けられると著者は書く。山に入ることは生活の一部であるが、恐ろしいことが存在すると思ったら、とても一人で山に入ることは不可能である。だから、信じない、信じたくないという人怖いとか恐ろしいなんて感じる者は臆病だと決めつける人。世の中に不思議などない!という人、理系の人に多い。取材主旨に対し小馬鹿にした態度をとる。

一方で何でも心霊方面に強引に持っていく人がいる。山怪の面白さは、パターン化された怪奇譚ではない。「話をしてくれた山人が曖昧模糊とした空間での経験として素直に語っているからこその質感に満ちている。誰かを怖がらせてやろうなどと少しも意識をしていないのだ。その無意識の語りこそが貴重なのである」。ものすごく能率の悪い取材のようだが、続編を期待する。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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