中小企業の経営者の中には、給与の前払いや突発的な出費などに対する借金を申し入れられたことがある方も多いのではないでしょうか。そんな時、会社としてどのような対応を取るべきなのか、無料メルマガ『採用から退社まで! 正しい労務管理で、運命の出会いを引き寄せろ』で、現役社労士の飯田弘和さんが詳しく解説しています。
御社では、従業員への貸付金でトラブルになっていませんか?
私のお客様の多くは中小企業です。中小企業特有のトラブルの1つに、給与の前払いや貸付金に関するトラブルがあります。給料日前に従業員に無心され給料の前払いを行ったり、従業員の当面の生活費や突発的な出費に対して、会社がお金を貸してあげたりすることがあります。
ところが、借りている従業員の中には、返済の段になると、あれこれ言って返済を先延ばししようとする者がいます。ひどい従業員になると、労基署に駆け込んだりします。ここで、労基法の定めと貸付けについて解説していきます。
労基法17条では、「前借金相殺の禁止」が定められています。これは、労働することを条件に使用者が貸した金(前借金)を、給与と相殺することを禁止するものです。
この場合の前借金とは、金銭貸借関係と労働関係が密接に関係し、身体的拘束を伴うものをいうとされています。ですから、従業員が「人的信用に基づいて受ける貸付け」や「賃金の前払い」などは前借金には当たらず、給料から差引くことが可能です。
ただし、給料から貸付金を差引くには、労使協定の締結が必要です。会社と従業員の過半数代表者の間で、賃金控除の協定を結び、その協定書を従業員に周知しなければなりません。
注意していただきたいのが、労使協定を結べば何でも賃金から控除できるという訳ではないということ。事理明白なものに限るとされています。ですから、一般的には、購買代金や社宅・寮費、組合費、貸付金などとなります。
業務で壊してしまったものに対する修理費や業務上のミスで生じた会社の損害に対する損害賠償金などは、労使協定があっても、給料から差引くことはできません(修理費や損害賠償金については、従業員の過失の度合いなどによって、会社と従業員の負担割合がその都度決まっていくので、事理明白とは言えません)。
また、賃金の前払い分を差引いて、本来の給料日に残りの賃金を支払うことは、労使協定がなくても問題ありません。
もし、従業員から賃金の前借りや借金の申し出があっても、それに応じない方がトラブル防止になると思います。(※)ただ、どうしても貸付けるという場合には、きちんと借用書を取り、できれば連帯保証人を付けるべきです。それぐらいのことをしなければとならない世の中になったということです。会社の善意・社長の善意が、後々、大きなトラブルになることがあることを肝に銘じておいてください。
従業員の中には、金を借りるときには、殊勝なことを言い、謙虚な態度を取り、時には土下座までして必死でお願いするのですが、いざ返済となると、180°態度を変えるような者もいます。借りたものは返すという当たり前のことが通用しない人間もいます。従業員に金を貸付けるときは、くれぐれも慎重に行ってください。
以上を踏まえて、改めてお聞きします。
「御社では、従業員への貸付金でトラブルになっていませんか?」
(※)労基法25条で労働者が非常の場合の費用を請求してきたときは、既往の労働(すでに働いた分)に対する賃金を支払わなければならないことになっています。労働者や労働者の収入によって生計を維持する者が、出産・疾病・災害・結婚・死亡・やむを得ない事由により一週間以上にわたって帰郷する場合が非常の場合に該当します。
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