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袋叩きファーウェイ、隆盛アリババ。中国巨大企業で分かれた明暗

「スマートフォンでネット通販」という便利な生活様式は世界中に浸透しており、その消費者行動に適う企業として躍進を続けるのが中国企業です。今回の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では、CFO逮捕報道もあった通信機器大手「ファーウェイ」と、2時間で3兆円もの売上を誇る日もある通販大手「アリババ」の今後の動向や中国市場全体の興亡を考察しています。

「ファーウェイ」と「アリババ」~踊り出てきた中国企業~

最近、中国系企業の名前が連日のようにメディアに登場している。その代表がファーウェイ(華為技術)、アリババ(阿里巴巴)などだろう。

ファーウェイは1987年に中国・深センで起業し、携帯電話に関係した通信機器を開発する企業だった。当初は中国の国内企業相手の会社だったが、2000年代以降は英国、ドイツ、シンガポール、アジア、アフリカ、南米などへ猛烈に進出し2012年には売上高で世界最大の通信機器ベンダーとなった。世界の約300社に製品やソリューションを提供しており、スマートフォンでは出荷台数シェアで世界2~3位の位置を占めている。2017年の通信機器、スマホ、クラウドサービスなどの売上高は約10兆円、純利益は7,800億円に上っている。

企業向けの通信機器や個人向けスマホなどは日本企業より5割近く安いほか、日本の部品を大量に調達しており、17年の購入は16年比で3割増の約5,000億円に達している。ただ今後中国製の第5世代(5G)の部品調達や購入が中心になってくると中国に情報が筒抜けになりやすく、安全保障上の問題が絡みアメリカが同盟国に取引の制限を求めてくるので、日本は対応に苦慮しそうだ。

ファーウェイに米国が警戒

現実にファーウェイのCFO(最高財務責任者)兼副会長の孟晩舟氏が昨年末、カナダの国際空港でアメリカの要請によってカナダの司法当局に逮捕された。孟氏はファーウェイの創業者・任正非氏の愛娘でそのままカナダに拘束され、アメリカは引渡しを要求しているのだ。世界を仰天させた事件で、容疑はファーウェイ製品を組み込んだ製品には情報が相手側に筒抜けになる恐れがあるというものだった。安全保障の上で好ましくないという理由だ。結局、この事件で日本の携帯大手は5Gに中国製品を使わない方針を決めたという。

そもそもアメリカがファーウェイを警戒し始めたきっかけはアメリカ通信機器メーカー「3COMの買収だった。対米投資の安全保障上の問題点を審査する対米外国投資委員会が「中国への売却はアメリカの安全保障に問題を生ずる可能性がある」と認めなかったのだ。3COMはアメリカ軍向けネットワークの侵入防止システムを開発していたため、中国企業による買収に危惧を感じたのである。その後ファーウェイは通信ソフトウエア開発の「2Wire」やモトローラの通信インフラ部門の買収も試みたが却下され、さらに経営破綻したITベンチャーの特許をとろうとしたが、これも米国防省の反対でダメになった。

またファーウェイを追う中国企業のZTEの調査も行なわれており、アメリカの対イラン制裁に違反したとして輸出規制の対象に加えられている。米商務省はアメリカ企業とZTEの取引を禁止し、半導体などの輸出を取りやめさせている。

「独身の日」で一躍有名に

一方、アリババ(阿里巴巴)は1999年に創業した電子商取引サイト検索サイトソフトウエア開発会社などを運営する企業で、会長はジャック・マー氏。ソフトバンクの孫正義氏と親しいといわれ、孫氏は約30%の株を所有している。また2018年から20年までオリンピックのワールドワイドパートナーとなっている。アリババの時価総額は2019年1月末現在において世界7位で433億ドル(日本のトヨタは179億ドル、世界42位)。

アリババが一躍有名になったのは「独身の日のセールを始めてからだ。11月11日は1が4つつくので独身の日と定め、この日にアリババは大セールを行なう。もともとこの日は光棍節(こうこんせつ)と呼ばれ、1人を連想させる1が並ぶことから独身の日と呼ばれるようになった。

そこに目をつけたアリババが2009年11月11日にセールスのサイトを設け、全国にセールを展開したところ2009年に8.8億円の売上げがあり、その後、毎年急拡大し2018年の独身の日の取引額はアリババの発表によると開始からわずか2時間弱で取引額が1,000億元を超え、1日で2,135億元約3兆4,900億円)と過去最高を更新した。

2018年のアマゾンの日本事業の1年間の総売上高は138億2,900万ドル(約1兆5,409億6,500万円)だから、いかに独身の日の売上げが大きいかがわかる。いまや独身の日のセールは中国だけでなく全世界に広がっているのだ。

中国企業ブームの背景にネット通販

こうした中国の企業はファーウェイ、アリババだけでなくあらゆる分野に広がりをみせ、映像を通じて商品を見せるネット通販を拡大させているため、かつてのような沿岸部の富裕層だけでなく農村部にまで消費ブームを引き起こす結果となっている。いまや中国の中間層は3~4億人といわれているから、一挙に消費ブームに火がついた格好なのだ。

中国の振興企業はファーウェイ、アリババだけでなく、バイドゥ(百度)、テンセントなど様々な領域、分野で新興企業が出現している。小企業は工場も店も持たず、魅力あるアイデアやデザインをネットにあげるだけで人気商品となるケースも多いだけに今や中国は起業ブームに沸いているともいえる。

中国式国家資本主義は成功するか

こうして中国は起業ブームの揺籃期を脱し一挙に中国式資本主義社会を形成しているといえよう。しかもバックには中国という国家がついており、国家に有益とみれば中国政府自体が応援していくのである。いわゆる国家資本主義ともいうべき姿となって中国の企業、国家は成長期に入ってきたのである。ただ国家規制が強くなると息苦しくなりつまずく可能性もあるだけに、今後は規制と自由化をどう案配してゆくかが、中国の企業社会や資本の流入、社会や国民の成長の難しいカジ取りを迫られることになりそうだ。(Japan In-depth 2019年2月15日)

参考情報

なお、ファーウェイの次世代通信規格5G参入を巡り、英国の情報当局がリスクは管理可能だとの判断とフィナンシャル・タイムズ(FT)など複数の英紙が17日報じました。

これは、ファーウェイ製品の安全性を調べている英政府通信本部(GCHQ)傘下の国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)が見解を固めたものです。FTによると、5G網に導入しても安全保障上のリスクは抑えられると評価し、利用を一部制限すべき領域はあるものの、調達先の多様性を確保する狙いもあり全面排除しない方向で検討しているとのことです。

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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