以前掲載の『結局、あの「消えた年金記録問題」とは一体なんだったのか?』では、旧社会保険庁が解体される原因ともなった消えた年金記録問題について解説してくださった無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者・hirokiさん。未だ完全解決を見ない問題ですが、実は漏れていた年金記録が見つかったからといって一概に喜べない方もいるようです。今回は「年金記録が見つかって受け取り額が減ってしまう場合」について詳しく説明しています。
漏れていた年金記録が見つかった…!が、必ずしも嬉しい面ばかりとは限らない
新元号(来月5月から新元号令和)が発表されましたので早速新元号の令和で記事を書いていきます。
年金記録を見る時は生年月日が非常に重要な情報ですが、元号が新しくなると頭が混乱してしまう場合があります。大体、年金を勉強する!っていう時はこの膨大な生年月日や元号の嵐で挫折する人が多いです^^;なので、まだ生年月日アレルギーのある方は下記のいつもの記事でアレルギーを取り除いていてくださいね!
●(令和元年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)
では本題です!
消えた年金記録問題はまだ解決していない問題ですが、平成19年頃に約5,000万件の年金記録漏れが判明し、その内2,000万件は残った状態です。
5,000万件というのは5,000万人の記録が消えたとか、宙に浮いたとかいう問題ではなく、その時にあった3億件の記録の内の5,000万件がそういう事になっていたという事です。
とはいえ凄まじい数である事には変わりありませんけどね^^;
● 結局、あの「消えた年金記録問題」とは一体なんだったのか?(hirokiまぐまぐニュース参考記事)
さて、そんな漏れていた記録が見つかった場合は、もちろん年金が増える事になる場合が多いですが、そうならない場合もある。わざわざ年金記録を見つけたせいで、年金額が減ってしまうという事態も起こりえます。今回は少し悩ましい場合を見てみましょう。
1.昭和36年7月16日生まれの男性(今は57歳)
●(令和元年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)
20歳である昭和56年7月から昭和59年3月までの33ヶ月は定時制の学校に通うが、国民年金は未納だった。昼間学校は平成3年3月までは強制加入ではなく、任意の加入だったが、「定時制、夜間、通信、専門学校」は強制加入。なお、専門学校は昭和61年4月から平成3年3月までは任意加入。学生の任意加入は加入しなければ年金受給資格期間最低10年以上(平成29年7月31日までは25年以上)に組み込むカラ期間になるだけ。
昭和59年4月から平成2年3月までの72ヶ月間、民間企業で働いていたはずだが未加入の状態になっていた。平成2年4月から転職して別の会社に勤め、60歳前月である令和3年6月までの375ヶ月間は厚生年金に加入するつもり。
なお、平成17年5月19日(初診日)に行った病院にて血液検査のクレアチニン値が悪い事を指摘され、慢性腎不全にやや近い状態の診断。障害年金を請求したいが、1年6ヶ月経過後の障害認定日である平成18年11月19日時点では何とか薬と食生活に気を付けていたので症状をコントロールできていたが、平成28年8月から人工透析開始となった。平成28年8月からの人工透析導入で、障害等級は2級になるとの事を知って障害年金の請求(事後重症請求)を平成29年2月にようやく行う。初診日が厚生年金加入中なので支給されるのは障害厚生年金と、2級以上だから国民年金から障害基礎年金も支給。なお、過去に未納期間や未加入期間があったが初診日の前々月までの直近1年間に未納が無かったから障害年金の請求は可能とされた。
障害厚生年金を計算する時は障害認定月までの給与と賞与を年金額に組み込む。平成2年4月から平成18年11月までの200ヶ月で計算する。なお、平成15年4月から賞与も年金額に反映するようになったから平成15年度で計算を区切る。平成2年4月から平成15年3月までの156ヶ月の平均給与(平均標準報酬月額)を28万円とし、平成15年4月から平成18年11月までの44ヶ月の給与と賞与の合計額の平均(平均標準報酬額)を34万円とします。
- 障害厚生年金2級→(28万円÷1,000×7.125×156ヶ月+34万円÷1,000×5.481×44ヶ月)÷200ヶ月×300ヶ月=(311,220円+81,995円)÷200ヶ月×300ヶ月(最低保障月数)=589,823円
- 障害基礎年金2級→780,100円(平成31年度価額)
65歳未満の配偶者や18歳年度末未満の子は居ないものとします。
障害年金請求をした平成29年1月の翌月から、障害厚生年金2級589,823円+障害基礎年金2級780,100円=1,369,923円(月額114,160円)を受給しながら働いていた。なお、200ヶ月での計算だけど300ヶ月の最低保障がなされる。
その後、平成30年6月の年金記録調査で、昭和59年4月から平成2年3月までの72ヶ月間は厚生年金期間だったことが判明する。この間の平均給与(平均標準報酬月額)は22万円とします。という事は…障害厚生年金の金額も増えるのか!?
あのー、この人って72ヶ月分の厚生年金期間が見つかって平成18年11月までの272ヶ月分の厚生年金期間になりましたよね。ただし、障害厚生年金はそれより多い300ヶ月で最低保障されてるから月数は変わらず300ヶ月。
じゃあ何が変わるかというと、給与(平均標準報酬月額)の部分ですね。
平成15年3月までは平均が28万円って事になりましたが、過去の低かった22万円を組み込む事になりました。とりあえず(28万円+22万円)÷2で平均すると25万円になる。という事は給与の平均値が下がってしまって年金額自体が減ってしまう事になります。
- 障害厚生年金2級→(25万円÷1,000×7.125×228ヶ月+34万円÷1,000×5.481×44ヶ月)÷272ヶ月×300ヶ月=(406,125円+81,996円)÷272ヶ月×300ヶ月=538,369円
となって、過去の年金記録が見つかる前より下がってしまいましたよね^^;。ちなみに障害基礎年金額は定額だから変わらない。見つからなければよかったー!という場合は、年金記録の訂正をしない事ができる。訂正しなければ障害年金が下がる事は無い。
障害年金額を下げずに済んだけど、この人の場合は別の問題が生じる。それは自分が老齢の年金を貰う事になった時ですね。こちらは年金記録が見つかると特に何もなければ増える。この72ヶ月が見つかった事で、全厚生年金期間は447ヶ月→(385ヶ月+72ヶ月)となる。昭和59年4月から60歳前月の令和3年6月までの447ヶ月。なお、平成15年4月から令和3年6月までの平均給与は38万円とします。
- 65歳からの老齢厚生年金→22万円÷1,000×7.125×72ヶ月+28万円÷1,000×7.125×156ヶ月+45万円÷1,000×5.481×219ヶ月=112,860円+311,220円+540,153円=964,233円
- 65歳からの老齢基礎年金→780,100円÷480ヶ月×447ヶ月(20歳から60歳までの年金期間)=726,468円
65歳からの老齢の年金は、
- 老齢厚生年金964,233円+老齢基礎年金726,468円=1,690,701円
となる。障害年金総額1,369,923円<老齢の年金総額1,690,701円となって、将来は老齢の年金を貰ったほうが得になりますよね。しかし年金記録を訂正しなければ、今現在の障害年金総額は保障されるが、将来の老齢の年金は72ヶ月分の厚生年金112,860円と72ヶ月分の基礎年金117,015円の合計229,875円を減らす事になる。
つまり65歳からの老齢の年金総額は1,690,701円-229,875円=1,460,826円まで減らしてしまう事になる。今の障害年金額を確保するために72ヶ月を放棄するか、将来の老齢の年金を確保する為に72ヶ月を組み込むか…は本人に選択してもらう。一度、年金記録を訂正しない、または、訂正するかを決定してしまうと取り消せない。
幸い、この男性は腎臓移植を父親から受ける事になり、経過によっては障害年金の支給は65歳までに支給停止になる見通しとなった。その後順調に回復するとします。令和2年(平成で言えば平成32年中)にやっぱり過去の72ヶ月の記録を正しく訂正する事を希望した。それにより、障害厚生年金額は589,823円→538,369円に下がる。
障害年金は年間5万円くらい下がりますが、平成29年から令和2年までの約4年分多めに貰った約20万円の障害年金は日本年金機構に返還する事になる。なお、返済が生じる場合は時効の5年分が最大となる。
※追記
65歳以降も障害年金が支給される場合は、老齢厚生年金と障害基礎年金の支給の組み合わせを選択する事ができる。
image by: Shutterstock.com