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中国軍の近代化情報に抱く懸念。いつかどこかで見た国家崩壊の轍

中国軍の近代化と最先端化が進んでいる状況について、さまざまなメディアが伝えていますが、それらを事実と認めつつ別の視点からの見方を示すのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんです。すなわち、先端技術を追い求めることにより置き去りにされる防衛課題であり、かつて米国の挑発に乗り軍拡競争に突入し、連邦崩壊を招いた旧ソ連の轍を踏むことへの懸念です。

どこかで見た?中国の軍事的動向

中国の軍事的動向のニュースがマスコミに出ない日はないと言えるほどですが、それを横目で眺めながら、軍事専門家の末席を汚す身としてはデジャビュ(既視感)、つまり、どこかで見たような光景だと思わざるを得ないでいます。 米国の国防情報局の報告書は、次のように警告しています。

「米国防総省傘下の情報機関、国防情報局(DIA)は15日、中国の軍事力の概況についてまとめた報告書を初めて発表した。報告書は、中国が台湾の統一を視野に東アジア全域での覇権確立に関心を抱いていると警告。さらに、アフリカ北東部のジブチや南シナ海での軍事拠点構築を通じ『地球規模の軍事勢力』の地位を築き上げ、米国の軍事的優位を脅かしつつあると強調した。(後略)」(1月16日付 産経新聞)

報告書には、国産空母、新型戦略爆撃機、米本土を核攻撃するための超音速滑空機(HGV)の建造や開発、サイバー分野の強化など、中国の軍事力の近代化が紹介されています。

確かに、そうした面は事実だと思います。しかし、中国が軍事力の近代化に取り組み、最先端の技術を追い求めるほどに、財政的な問題に直面するのは目に見えています。 それは、単に近代化のための資金が不足するだけではありません。近代化に国防費がつぎ込まれればそれだけ、これまで後回しにされてきた分野が放置され、穴があいたままになるのは目に見えています。

例えば、航空母艦の部隊(打撃群)を米国や日本の潜水艦から守るための対潜水艦戦(ASW)能力は、これまできわめて低い水準に置かれてきました。 ASW能力を高い水準にもっていくためには、静粛性に優れた攻撃型の原子力潜水艦、通常型潜水艦、高度な対潜能力を備えた駆逐艦、そして哨戒機を備え、三次元からASWを行えるようにしなければなりません。

一方、航空母艦の部隊を少なくとも南シナ海や東シナ海で常に4個群くらい展開できないと、米国と対抗することはできません。一般論で言うと、ひとつの打撃群を展開するためには3倍の打撃群が必要とされてきました。展開する部隊のほか、定期整備に入る部隊、教育訓練に当たる部隊です。このうち教育訓練の部隊を省いたとしても、4個群を展開するためには少なくとも8個の空母打撃群が必要になります。

打撃群は、空母のほかに航空機、5~6隻の護衛艦、補給艦などで編成されます。これを8組。これだけでも、ハンパではないお金が必要になることは明らかです。最先端を追い求め、近代化のために資金を投入する中国が、空母打撃群の保有とともに高度なASW能力を獲得できるとは思えません。 そこでデジャビュなのです。

 

旧ソ連は、レーガン政権の米国の挑発に乗せられたあげく、軍拡競争に敗北し、最後は連邦崩壊に至りました。ゴルシコフ提督のもと、外洋海軍(ブルーウォーター・ネイビー)を目指して建艦競争に引き込まれたことなど、私たちの世代にとっては記憶に新しいところです。 むろん、20年ほど前までの中国人民解放軍には「旧ソ連の轍を踏まない」との自覚がありました。しかし、昨今の人民解放軍の姿を見ると、そんなことはすっかり忘れているような気さえしてくるのです。

中国の軍事力が一定の水準で維持され、日本が神経を尖らせずに済むようだとよいのですが、米国の挑発に乗って国が崩壊するようになると、隣に位置する日本としても影響を懸念せざるを得なくなります。
米中間の軍事力の近代化競争には、そんな角度から注目していく必要があるのです。(小川和久)

image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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