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悪化しそうな病気を持つ人は年金の繰り上げ受給せぬほうがいい訳

現在、減額というペナルティが課されるものの60歳になれば受給権が発生する年金。実際、約3割の人が減額承知で「年金の繰上げ」で60歳から受給しているそうです。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、年金の繰上げ期間中に、持病の悪化や夫が病気で急死するなど「健康上のトラブル」が発生した場合、65歳以降の年金受給額がどう変化するかを、具体的事例と共に詳しく解説しています。

支給開始年齢より早く年金は請求したものの、よく起こりがちな不利な事態

厚生年金の支給開始年齢は平成13(2001)年から徐々に60歳から65歳2030年引き上げ完了に引き上げてる最中です。完全に引き上がるのは2030年(男性は2025年)。なお、国民年金からの給付である老齢基礎年金は昭和36年4月施行からずっと65歳支給開始年齢

しかし、給開始年齢前でも年金貰う受給権があり、60歳に到達すればいつでも請求して貰う事は出来ます。これを年金の繰上げという。国民年金はもともと65歳支給ですが、厚生年金のように60歳支給が要望されたため、昭和36年4月当時に遡って60歳から繰上げという形で貰う事を可能にした。

その代わり一定のペナルティを受ける事になります。一番悩むのが本来の年金支給開始年齢よりも減額された年金になってしまう事。1ヶ月早く貰うごとに0.5%減額となり、例えば65歳からの老齢基礎年金を60歳から請求する場合は60ヶ月早く貰うから、0.5%×60ヶ月=30%減額となる。65歳から78万円貰うはずだったのが、30%減額だと546,000円まで減額されてしまう。

しかし、そういうデメリットがあるにもかかわらず、受給者の30%ほどの人がこの年金の繰上げを利用している。かなり多くの人がデメリットを承知で請求している。

さて、デメリットはいくつかあるのですが今回のような事も頭に入れておく必要があります。

1.昭和34年7月7日生まれの女性(もうすぐ60歳)

何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!

20歳になる昭和54年7月から国民年金に強制加入し、昭和58年2月までの44ヶ月間は未納。昭和58年3月から平成17年5月までの267ヶ月間は国民年金保険料を納めた(年間収入300万円くらいはいつもあった)。2歳年上のサラリーマンの男性と平成元年に結婚した(収入がそれなりにあったから扶養には入らず)。

平成17(2005)年6月から令和元(2019)年6月までの169ヶ月間は厚生年金に加入する。なおこの間の平均標準報酬額は26万円とします。

ちなみに平成29年1月13日の体調不良による初診診察時にヘモグロビンA1Cの値が8%程、空腹時血糖200もあり、糖尿病と診断される初診日から1年6ヶ月経過した日(障害認定日。この日から障害年金の請求ができる)である平成30年7月13日の時点の症状は落ち着いていて、普通に仕事ができたものとします。

さて、この女性は本来の年金支給開始年齢は61歳(令和2年7月)ではありますが、もう60歳になったら年金を請求しようと思った。

厚生年金支給開始年齢(日本年金機構)

年金額が減額されようと健康上の事もあり早めに貰いたかった。というわけで60歳誕生日以降の7月中に年金の繰上げをする事にした。年金は減額する。

その前に、本来の年金を減額しない年金額を算出する。

65歳からの老齢厚生年金(経過的加算)は年額100円程度なので煩雑を避けるため、この記事では今回は省きます。

よって、61歳からの老齢厚生年金240,835円、65歳からは老齢基礎年金708,591円も加わって、65歳時の年金総額は949,426円月額79,118円

これを60歳から年金の繰上げで貰う。

まず、老齢厚生年金は12ヶ月早く貰うから12ヶ月×0.5%=6%減額。60歳からの老齢厚生年金は240,835円×94%=226,385円に減少。老齢基礎年金は60ヶ月早く貰うから、60ヶ月×0.5%=30%減額。60歳からの老齢基礎年金は708,591円×70%=496,014円。よって60歳からの年金総額は

月額で2万円も下がってしまいましたね…^^;。これが年金の繰上げの辛いデメリットです。

でもそれだけではないですね。この女性は糖尿病を患っていましたよね。年金の繰上げを令和元年7月にしていますが、その後の令和3年8月に糖尿病性壊疽により脚を切断する事になったとします。脚の切断で「一下肢に著しい障害を残す」事になり、おおむね障害年金の2級相当になる。初診日から1年6ヶ月時点(平成30年7月13日)は特に日常生活に支障はなく、障害年金には該当しなかったが、時が経過して悪化すると障害年金の「事後重症請求」ができる。

注意

初診日の属する月の前々月までの間に一定の保険料の納付要件が問われるが、この女性の場合は直近1年に未納が無いから納付要件は満たすという事で話を進めます。

しかし、年金の繰上げを令和元年7月にやってしまってる事により、障害年金の事後重症請求は不可となる。どうしても障害年金を請求したいならこの場合は初診日から1年6ヶ月の時点の認定日による障害年金を請求するしかないが、日常生活に支障が無かったなら3級も厳しいでしょう。

というわけで今後悪化しそうな病気がある人は年金の繰上げは気を付けなければならない。なお、年金の繰上げをしなくても65歳になると障害年金の請求は基本的には不可となる。

次に、この年金の繰上げをしていた妻の夫が病気により急死した妻はまだ62歳だったとします)。夫死亡により遺族厚生年金70万円+中高齢寡婦加算585,100円=1,285,100円(月額107,091円)が発生。妻はまだ62歳のために、自分自身の老齢の年金か、遺族年金の受給かを選択しなければならない。まあ…遺族年金のほうが遥かに多いですよね^^;せっかく早めに年金貰おうと年金の繰上げをしたのに結局遺族年金を貰う事になった。

65歳になると妻は自分の老齢の年金と遺族厚生年金を併給する事ができる。なお、中高齢寡婦加算585,100円は65歳を機に消滅する(妻が老齢基礎年金貰うまでの繋ぎ)。よって、65歳からの妻の年金総額は、


注意

遺族厚生年金を貰う場合は自分の老齢厚生年金分が引かれて支給されるから上記の計算みたいになる。先あて支給という。


というわけで、もし遺族厚生年金が発生した場合は65歳までは自分の老齢の年金とどちらか選択受給となり、65歳から併給して貰うにしても単に老齢の年金額を減らしただけの結果になるのでこの辺も十分に留意しておく必要があります。

それでは今日はこの辺で!

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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