障害年金を受けている方は、基本的に働いても年金が止まることはありません。しかし、国民年金加入前の20歳以前に障害基礎年金を受給するようになった人は、前年の所得に応じて制限される場合もあるそうです。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、障害基礎年金の詳しい仕組みとどの程度の所得で年金が停止されることがあるのかを解説しています。
国民年金加入前の20歳前に重い病気や怪我を負った人への障害基礎年金はやや給付制限がある
障害年金受給者の人はよく心配されるのですが、働いたら年金が止まるのではないかという事ですね。結論として働いたからって止まりません。障害年金は収入や所得に関係なく支給されるものなので、いくら収入があっても年金は止まりません。障害年金貰ってるんだから働いてはダメという事もありません。
むしろ障害年金を貰いながら症状を回復に向かわせて、徐々に労働へ向かう期間と思ってもらえればと思います。あくまで「その病気や怪我でどのくらい日常生活に支障が出ているか?」というのが障害年金が見る部分なので、所得は見ません。
しかし、障害年金受給開始後もその後障害年金を支給するか?等級を下げて年金額を下げるか?の判断をするために1~5年間隔で新たに診断書は出してもらう必要はあります。その時に症状が良くなってたり、労働も普通にできてたりするならその診断書提出後の障害年金が止まるという事はあります。だからそれまでは所得や収入は全く関係なく支給される。
さて、障害年金は所得や収入の額で左右されるものではないですが、左右されるのもあります。その中でも、20歳前に初診日(はじめてその傷病により病院に行った日)がある事により20歳以降に障害基礎年金を受給されてる人(年金コードが2650とか6350となってる人)は所得に左右される。よって7月に前年の所得を確認して、所得額によっては8月分以降の年金を半額停止したり、全額停止したりする。
先月メルマガで書いた気もしますが再度申し上げますと、去年までは7月に毎年、所得状況確認届というのを7月末までに市役所に提出する必要がありましたが、今年からは日本年金機構が市役所に確認するから届け出は原則不要となりました。
なぜ、20歳前の傷病で初診日がある事により障害基礎年金が支給される人(以下、20歳前障害基礎年金という)は、年金が停止される場合があるかというと保険料を支払わなくても障害基礎年金が支給される人だから所得制限という縛りを掛けてるわけです。
また、1~5年間隔の診断書提出も、20歳前障害による障害基礎年金受給者は7月提出に統一されていましたが、令和元年度から誕生月前3ヶ月(8月生まれの人は6月1日から8月31日までの間の症状を書いてもらう)の現症を医師に書いてもらって、誕生月末までの提出という事に変更された。従来は提出まで1ヶ月しかなかったから診察予約や、診断書を医師に書いてもらうのをモタモタしてる余裕は無かった。誕生月末までに提出ができないと年金が一旦差止まってしまう(提出後に差し止めた年金は遡って支払う)。
※参考
初めて病院に行った日を初診日と言いますが、初めて病院に行ってなくても出生日が初診日として扱われる場合がある。それは、先天性の知的障害の方や先天性股関節脱臼の方等。知的障害の方は療育手帳をお持ちだったりするので、それで初診日が出生日という扱いになる。
ところで本来、年金というのは20歳になるとどんな業種の人であれ強制的に国民年金の被保険者になります。そうすると、自己責任の考え方に立ち、保険料を支払ったりもしくは保険料支払えない時は免除なりを申請しておいて、万が一の場合に「保険」を掛けておきます。それが公的年金。
障害年金であれば、「初診日という保険事故」が起こる前に一定以上の未納が無い事が条件としてあります。ですが、20歳前障害基礎年金は20歳前というまだ、国民年金の加入義務が無い時の傷病により障害基礎年金が支給されますが、そんな保険料納付の義務が無い時にまで自己責任と言われたら弱者切り捨てみたいな事になりますよね。20歳前に障害を持つという事は本人には何も責任はありません。だから、20歳前に障害を持ってしまった人にも年金を支給しようという事になったんです。
しかし、保険料支払わなくても年金を支給するから、前年所得によっては年金額を停止しますねというのが20歳前障害基礎年金。一応、昭和61年3月まではこの20歳前の障害の人は障害福祉年金として支給していましたが、福祉的な年金だから非常に金額が低いものでした。本来の障害年金の3分の1くらいの額。
しかし、昭和60年改正である昭和61年4月に全国民共通の基礎年金制度が導入された時に、そういう人も障害基礎年金を支給するという事になって大幅な給付改善がなされた時でもありました。昭和56年の国際障害者年を契機に国民的な関心が高まった事により、障害者の年金を大幅に引き上げよという強い要望があった。
しかし、年金に加入する前の20歳前障害の人はどう助けようもないと判断されていたが、その後の昭和60年改正で大幅な障害年金の改善が実現した。障害福祉年金を受給していた人も給付の高い障害基礎年金に移行(裁定変え)した。
昭和60年改正は年金の給付の大幅な抑制を図った改正ではありましたが、せめて障害者の人には喜ばれる年金にしたいという意図があったのでしょう。本来、年金に加入してなかった人までにも保険料を用いて通常の年金を支給する事は考えられない話だったんです^^;。でも昭和60年改正を編み出した当時の年金局長が実現させた(昭和60年年金大改正は山口新一郎年金局長がほぼ一人で考え出した改正だったが、法案を通す前にガンで亡くなられた。その後の部下の人たちが法案を通して今の年金の形に至る)。
さて、話を戻しますが、どのくらいの所得があると障害基礎年金が停止されるのか?
- 障害基礎年金が全額停止→前年所得が4,621,000円(給与収入で6,451,000円)を超えたとき
- 障害基礎年金が半額停止→前年所得が3,604,000円を超え、4,621,000円以下の時
前年所得が3,604,000円(給与収入で5,183,000円)以下であれば障害基礎年金は全額支給されます。停止される場合は、今年8月分から翌年7月分までの1年間が停止になります。8月分の年金から停止するから10月15日振込から影響してくる。まあ…結構高い所得の人が障害基礎年金の停止なので、ちょくちょく見かけはするけどそんなに該当する人は少ないです^^;
よく10月15日年金振り込みになると、「年金が振り込まれてない!」っていう事態が起こって、原因を見てみると所得による停止とかですね。それでびっくりして相談に来られるとか。一応、通知は前もって送付されるんですけどね…。
年金業務の現場ではあるあるな話です。
image by: Shutterstock.com