国交正常化以来最悪にこじれてしまった日韓関係。文在寅大統領を始めとする韓国政府内からの悪しざまな言葉に「そんなことを言われるような落ち度はない」と語るのは軍事アナリストの小川和久さんです。それでも、メルマガ『NEWSを疑え!』では、一連の出来事から得るべき教訓があると、2つを上げています。1つは韓国との話し合いに必要な前提条件であり、もう1つは日本の官僚の悪癖への指摘でした。
日韓関係の教訓事項
日本と韓国の関係がこじれにこじれています。輸出管理を簡略化する優遇対象国から韓国を除外するとの閣議決定を受けて、韓国側は一気に沸点に達した様相を呈しています。文在寅大統領は盗っ人猛々しいと言うし、趙世暎・外務第一次官に至っては長嶺安政駐韓大使に対して友好国とはみなさないとまで言い切りました。
むろん、日本側にそんなことを言われるような落ち度はないし、輸出管理問題についてはどこに出してもスジが通っていることはいうまでもありません。
そうした韓国側の反日姿勢を前に、はらわたが煮えくりかえる思いを味わっている日本国民は少なくないと思います。私だって、悪口雑言の限りを尽くして言い返したいところがありますが、それをすると相手と同じレベルになってしまうのですよという母親の声を思い出して、思いとどまっているところがあります。
そこで、今回は少し頭を冷やして一連の出来事の中から教訓事項を取り上げてみたいと思います。
最も象徴的だったのは、7月12日に東京で開かれた日韓当局者による会合の光景です。韓国側は初の実務協議だと言い張り、日本側は輸出管理に関する事務的説明会だとするやり取りは、マスコミ報道にあったとおりです。
そこで教訓事項の第1は、「言った、言わない」の水掛け論に陥らないために、どのような形の話し合いであろうとも、第3者による100%の録画の実施と公開を条件としないかぎり、応じないことです。会議記録に関する外交的な慣行がどうあれ、韓国を相手にする場合は録画を前提条件とすべきです。
教訓事項の第2は、あとで付け入られないように、形の上でも完璧な対応を目指さなければならないということです。
経済産業省の岩松潤・貿易経済協力局貿易管理部貿易管理課長らは、韓国の全賛洙(チョン・チャンス)産業通商資源部貿易安保課長らを雑然とした会議室に通し、説明会を行いました。
「日本の経済措置をめぐり、12日に東京で開かれた韓日の1回目の実務会議の雰囲気は冷たかった。韓国産業通商資源部当局者と日本経済産業省関係者それぞれ2人は、握手もなく席に座って会議を進めた。出席者は固い表情で正面だけを凝視した。
経済産業省は10階の小さな事務室を会議場所とし、ホワイトボードに『輸出管理に関する事務的説明会』という説明をプリントしたA4用紙2枚を貼り付けた。正式会議室でもなく、一般の事務用椅子が置かれて会議出席者の名札や飲料もなかった。日本が前面に出す『おもてなし』とは程遠かった。日本側がわざと冷遇をしたといえる。洋服をジャケット正装で臨んだ韓国側とは違い、日本側は半袖シャツ姿だった」(12日付中央日報)
日本のマスコミ報道の画面で見ても、部屋は雑然としており、ゴミが落ちていたとか物置に通されたと、日本側の冷遇を指摘されても仕方のないたたずまいでした。
しかも、経産省側は上着なしのノーネクタイ。いくら日本でクールビズが常識だからといって、相手が上着にネクタイを着けている以上は、同じような服装で臨むべきです。日本の官僚は、あれはわれわれの職場環境ですからと言うかもしれませんが、外国に対して政府を代表するのですから、これは非常識と言われても致し方ありません。部屋にしても今回同様の会議室でも構いませんが、きちんと片付けて礼儀正しくすべきなのは言うまでもありません。ペットボトルに入ったままの米国スタイルでよいから、冷たい水くらいは出すべきです。
さらに日本側が肝に銘じなければならないのは、韓国政府の課長は日本のキャリア官僚の課長と比べても社会的地位が高いということです。そのエリートである自分たちが雑然とした会議室に通され、ノーネクタイで対応されたとあれば、最初から敵意が燃え上がってしまうのは避けられません。
経産省の岩松課長の表情には、明らかに韓国側を見下している様子が見られましたが、これもまた日本の国内外で見られるキャリア官僚の誤ったエリート意識の現れです。
以前、三菱総研の創設者である牧野昇さんから聞いたことですが、所管官庁の通産省は社長の牧野さんが行って初めて、課長が出てきたというのです。それくらい官の立場から民を見下していたのです。それが、三菱総研が軌道に乗ると、牧野さんが顔を出すと大臣や事務次官が出迎えるように豹変したのですから、日本のキャリア官僚の悪しき側面がどれほど低次元なものか、わかろうというものです。
外国とガチンコの勝負をするとき、厳しい表情で臨むのはひとつの姿勢です。さらに高度なのは、にこやかに振る舞いながら徹底的に相手を論破し、こちらの主張を通していくことです。
そのどちらのスタイルでもよいのですが、あとで相手につけ込まれないように録画の実施と公開を前提条件とし、部屋や服装についても完璧さを意識することが思ったより重要だということは、忘れてはならないと思います。(小川和久)
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