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専門家が指摘。悪循環を避けるには「ロックダウン」しかない理由

緊急事態宣言が出されても外出は「自粛要請」に留まり、そのためか、さまざまな場所の人出について各メディアが報じています。この事態に業を煮やすのが、危機管理の専門家で軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、再三、台湾のような罰金も規定した法制度の必要性を訴えてきました。その上でロックダウンこそが、ウイルス感染を抑え込み、人命と経済への影響を最小限にする唯一の方法だとの持論を説き、政治家のリーダーシップを求めています。

悪循環を避けるにはロックダウンしかない

緊急事態宣言の全国拡大後の様子を眺めながら、少し暗い気持ちになっています。確かに、在宅勤務やテレワークによって都心のオフィス街などの人出は少なくなっているようです。しかし、通勤時の公共交通機関は、「空いている」とは言っても「3密(密閉、密集、密接)」の状態が生まれているのは間違いありません。

テレビが「定点観測」ポイントのように繰り返し放送している品川駅は、休日を除けば「3密」状態が続いていますし、テレビの画面に映し出されている人の流れが止まる場所(エスカレーター、エレベーターなど)では、濃厚接触が生まれていても仕方ありません。しかも、画面にはマスクなしで平然と歩いている人の姿も散見されます。

それだけではありません。都心部の人出が少なくなっているのに反比例して、東京、大阪など大都市のベッドタウンでは、特に平日の昼間など、コロナの感染拡大以前より人出が多かったりするのです。スーパーでの買い物や公園での子供の遊び相手に、在宅勤務の父親たちが駆り出されていることも関係しているようです。

報道されているように、大都市周辺の県にあるパチンコ屋には東京のナンバーをつけた車が少なからず見受けられます。例を挙げ出すときりがないのですが、とにかく感染拡大の源である人の移動と、それによる接触が生まれる状態が止まっていないのです。

それでは、どうしたらよいのか。ロックダウン以外にないのです。緊急事態宣言に当たり、政府は人出を80%減少させれば終息に向かうことができるとしていますが、もっと中身をはっきりさせるべきでしょう。例えば、残りの20%については物流や重要インフラなど社会生活を維持するための車や人の移動と、病院への通院、自宅周辺での生活必需品の買い物、散歩などにかぎり、通行証によって規制するのです。

海外からの帰国者や自宅療養の人についての隔離も、台湾の例を参考にして、携帯電話のGPS機能を使った監視を行い、罰金(台湾は360万円~720万円)も法制度で定めるべきでしょう。台湾の罰金が驚くほど高いのは、他人にウイルスを感染させることは人命を危険にさらすこと、つまり未必の故意に当たる行為にほかならないからです。

もちろん、ロックダウンとそれに伴う措置を講じながら、法制度を整える取り組みを進めなければなりません。そして、ロックダウンが時の政権に恣意的に行われないよう、民主主義が機能するよう、確実な歯止めを掛けることを忘れてはなりません。

あってはならない行動制限の緩和による悪循環

緊急事態宣言に伴う自粛を求めるだけでも、補償についての議論がまとまらなかった日本です。ロックダウンになったらどうなるだろうと危惧する向きが、政治家や官僚の中に少なからず見受けられます。もちろん、補償はしなければなりません。しかし、物事には順序があります。その点が整理されていないのです。

ロックダウンをしなければ、それだけ終息が遅れます。終息が遅れるほどに、医療崩壊が進み、さらに終息が遅れるという悪循環に陥ります。その事態を立て直すには、莫大な資金が必要となります。その一方、終息が遅れればそれだけ経済活動が低調になり、税収の落ち込みを前提とした予算編成しかできなくなります。個人事業主などに対する補償にしても、何回かに分けて行うことになりかねず、そのたびに補償の金額を減らさなければならなくなるでしょう。そして最後には財政逼迫。悪循環は避けられないのです。

そうした悪循環の見本は、4月16日号で西恭之さん(静岡県立大学特任助教)が「イランの行動制限緩和でコロナ危機拡大か」として紹介しているようなイランのケースかもしれません。

核開発に関する経済制裁を受けてきたイランは、これ以上、国民生活が悪化しないようにロックダウンをなかなか実施しませんでした。そして、経済活動が低調になることを避けるために、このたび、市民の行動制限を緩和したのです。それまでの貧困層への補助や企業への低金利融資によって国庫がカラになりかけてきたからです。その先に、感染拡大から2次流行という悪循環が待ち構えているのは目に見えています。

経済制裁を受けているイランと日本を単純には比較できませんが、感染拡大による経済の低迷という悪循環の構造はほとんど同じだととらえるべきでしょう。4月19日付の読売新聞で、元官房副長官の石原信雄さんは次のように述べています。私も石原さんには何かと指導していただき、尊敬している立場ですが、この考えはいただけません。

「都市封鎖(ロックダウン)のような措置を取らなかったのは良かった。封鎖は生活への影響が大きすぎる。外出に罰則を科している国もあるが、日本は日本流でいい。日本では政府は国民の良識を信じ、自覚を促す。国民は政府のやり方を理解して、要請に協力する姿勢を示している。海外では移動経路や体調など様々な個人情報を政府が集めて、感染拡大防止に活用する動きもあるが、日本はプライバシーや人権の尊重が重要視されており、監視社会のようなことはやるべきではない」(4月19日付 読売新聞)

これは、平時にしか通用しない日本の官僚の発想、それも性善説を緊急事態にも通じるものとして適用しようとするものです。緊急事態には、人間は全て過ちを犯すものだという性悪説で必要なことを、それも迅速に断行するリーダーシップが必要です。そのことを、特に政治家は忘れてはなりません。(小川和久)

image by: StreetVJ / shutterstock

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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