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なぜトランプは「コロナ拡散は中国の意図」論を証明できないのか

かねてから「新型コロナウイルス蔓延の責任は中国とWHOにある」との論を展開していたトランプ大統領ですが、ここに来て、「中国がウイルスを意図的に拡散させた可能性」を口にし始めています。その根拠はどこにあるのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、さまざまな報道を引きながらトランプ氏の主張を解説するとともに、そこから見て取れる「米国の情報戦能力の低下」を指摘しています。

トランプ、「中国は【意図的に】ウイルスを拡散した」

トランプさんは、「パンデミックは、中国とWHOのせいで起こった!」と主張しています。それで、「WHO脱退」を宣言した。中国に関しては、「初期の段階で情報を隠蔽したから、ひろがってしまった」と。

ところが最近、トランプさんは、「中国は意図的に新型コロナウイルスを拡散した」と発言しました。つまり【 わざと 】拡散したと。

トランプ「中国がコロナを意図的に拡散させた可能性がある」=米メディアとのインタビューで

WOW!Korea6/19(金)9:07配信

 

ドナルド・トランプ米国大統領は、新型コロナウイルス感染症の発源国である中国を指して、ウイルスを「意図的に拡散させた可能性がある」と主張した。

もう少し詳細に。

トランプ大統領は、18日(現地時間)に報道された米国の経済新聞のウォールストリートジャーナル(WSJ)とのインタビューで「中国が競争国家たちの経済を不安定にさせるための手段として新型コロナの海外伝播を誘導したかもしれない」と語った。
(同上)

つまり、トランプさんの意見によると中国は、「他国経済を悪化させるために」【わざと】「新型コロナウイルス」を拡散したと。これ、どうなんでしょうか?

中国が「わざと拡散したんじゃないか?」と思えるファクターはあります。中国政府が武漢封鎖を決めたのは、1月23日。しかしその前に、大量の人が、武漢から他の地域に逃げ出していました。

ウイルス感染者の追跡を行った結果、感染が確認された人がロックダウン実施前に、武漢から中国全土の少なくとも25の省、直轄市、行政区へと移動していたことがわかった。
(ロイター2020年4月10日)

中国政府は、武漢封鎖を決めた。政府はこの時点で、「ものすごく深刻な事態が起こっていること」を理解していた。翌1月24日、中国では「春節」がはじまりました。中国政府は、自国民が外国に出るのを規制しなかった。それで、中国人が大量に外国に出て、全世界にウイルスをひろめてしまったのでしょう。「意図的にひろめた」と指摘されても仕方ない行動をとっています。

もう一つ。アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、モンゴル、台湾、フィリピンなど賢明な国々は、1月末から2月初めの時点で、「中国全土からの渡航宣言」を実施しました。WHOは、この措置を非難しています。

WHO、緊急事態を宣言 渡航・貿易制限は勧告せず─新型肺炎

2020年01月31日12時10分

 

【ベルリン時事】世界保健機関(WHO)は(1月)30日、中国を中心に拡大している新型コロナウイルス感染による肺炎について緊急委員会を開き「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たると宣言した。中国での感染者の急増に加え、日本や米国、ドイツなどでも人から人への感染が発生していることを重く見て、これまで見送っていた宣言に踏み切った。

 

テドロス事務局長は30日、ジュネーブで記者会見し、WHOが確認した中国外での感染例は98件とまだ限定的なものの「これ以上の感染拡大阻止のため一致して行動すべき時だ」と表明した。一方で「不必要に人やモノの移動を制限する理由はない」として、感染地への渡航や貿易を制限する勧告は行わないと強調した。

ところが、諸外国は、WHOの「渡航制限するな!」勧告を無視した。するとWHOは、「中国からの渡航制限、中国への渡航制限した国々」を批判したのです。NHK政治マガジン2020年2月3日

「渡航を不用意に妨げる必要ない」WHO事務局長

 

新型のコロナウイルスの感染が広がる中、WHO=世界保健機関のテドロス事務局長は「渡航や貿易を不用意に妨げる必要はどこにもない」と述べ、中国から渡航する人の入国を禁止する国が相次いでいることに懸念を示しました。

 

スイスのジュネーブにあるWHOの本部では3日、執行理事会が始まり、5月に開かれる総会に向けた提案などについての議論が始まりました。

 

冒頭で、テドロス事務局長は、新型のコロナウイルスの感染が世界に広がる中、中国から渡航する人の入国を禁止する国が相次いでいる現状について、「渡航や貿易を不用意に妨げる必要はどこにもない。証拠に基づいた決定をするようすべての国に求める」と述べました。

 

WHOは先月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、医療体制のぜい弱な国への感染拡大に懸念を示しています。

これは、WHOの決定的なミスでした。この時点でWHOが、「中国から人を出すな」「中国に人を入れるな」と勧告していれば、パンデミックは防げたことでしょう。

そして、WHOは、「中国政府の意図に沿って動いていた」といわれている。つまり、中国政府は、意図的に「人の流れが止まらないよう」圧力をかけていた。別の言葉で、「中国の感染者が自由に外国にいけるよう圧力をかけていた」ともいえます。

実は情報戦が下手なトランプ

これらのことは、世界、中国政府、WHOの動きを時系列で丁寧に見て行けば、非常に説得力のある論拠をつくりあげることができます。ところが、トランプさんやポンペオさんの言葉には、説得力がありません。それで、「拡散力」が弱いのです。

たとえばポンペオさんは、「新型コロナウイルスが武漢のウイルス研究所でつくられた証拠がある」と主張していました。ところが後になって、証拠が出せないことがわかった。世界的に「ポンペオはトンデモ野郎だ」となってしまった。

トランプさんの今回の言葉も、きちんとロジカルに説明することも可能です。しかし、彼は、「中国が意図的に拡散した」件について、こんなことをいっています。WOW!Korea6/19から。

WSJによると、トランプ大統領は今回のインタビューで「中国は新型コロナが国境の外に出て拡散するよう放置したのには、経済的意図があり得る」と主張した。

 

つづけて「彼ら(中国)は『今我々は苦境に陥っている。米国は我々を殺そうとしている』と話している」と付け加えた。

 

しかしトランプ大統領は自身のこのような主張の根拠となる情報はないとし、これは自身の“勘”であると説明した。

「 勘 」だそうです。これでは、信じてもらえないでしょう。中国に大きな打撃を与えることができる「ネタ」があるのにもったいないことです。

私たちは、「日本は情報戦が弱すぎる!」と嘆きます。しかし、イラク戦争の頃から、アメリカの情報戦も劣化が激しいようです。

image by: NumenaStudios / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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